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剽窃の皇位  作者: 56号
第二章 南北朝
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第六話 陰に蠢く者よ

㈠令和7年11月7日 午前2時40分/警察庁庁舎地下・第七解析室


「……本気でこれは個人が作ったレベルの暗号か?」


若き解析官・倉橋は額に汗を浮かべ、キーボードを叩いていた。

机上のスクリーンには、ブラックボックス化された記録媒体――“野々宮崇宏のメモリチップ”の内部構造が3Dモデルで表示されていた。


神谷警部補は静かにそれを見つめながら、背後に立つ公安局長の古賀に問うた。


「解除は……可能なのか?」


古賀は深く息を吐いた。


「三重の暗号化だ。一段目はSHA-512によるハッシュキー認証、二段目は多層化ブロックチェーン方式、そして三段目……これは、おそらく“本人の脳波認証”に紐づけられている。」


「……ということは、生体情報なしでは開けない?」


「通常はそうだ。だが――野々宮崇宏は、死ぬ直前に“ある特定の条件”を設定していた。」


倉橋が背後から補足した。


「…今、我々が使っている『解析仮想環境』に、自動的に接続されるように仕込まれていた。

言い換えれば、“殿下が直接関わった場合にのみ”開くよう、条件付きで設計されていた可能性があるんです。」


神谷の表情が一変した。


「つまり――このチップは、尊陽親王に見せるためのものということか……?」


「……そうです。」


同日午前3時10分/幽宮・御影の間


報告を受けた尊陽親王は、眠ることなく立ち上がった。


「……俺が、開ける。」


神谷は止めなかった。むしろ、彼の目には確信めいたものすらあった。

幽宮に設置された簡易解析装置にチップが挿入され、スクリーンが明滅する。


一度、全ての光が落ち、そして浮かび上がったのは――


黒背景に、ただ一言のメッセージだった。


【こんにちは、“尊”。……久しぶりだな。】


尊陽の目が見開かれる。


【この記録は、俺の死後にしか開けない。つまり、これを見てるお前は、きっと怒ってるだろう。……でも、聞いてくれ。お前の知らない“計画”が動いている。そして、それは――お前の存在そのものを、塗り替える。】


尊陽は息を呑んだ。


【“粛清”とは、偽りだ。本当の“C計画”は――“継承権の書き換え”だ。】


静電気のように、空気が震えた。

御春内親王が、そっと隣で立ち尽くしていた。


【お前は……この国の“未来”を握る者だ。そして、俺は“過去”のすべてを知っている。】


【この映像の後に、証拠データを渡す。だが、閲覧には“あの写真”が必要だ――わかるな? 初等科、文化祭の日に、二人で撮ったあの一枚だ。】


尊陽の手が震えた。


「……持っている。今も……。」


神谷がすぐに動き、提出を促す。御春がその手を添え、写真を持ってきた。


再認証が行われ、数秒後――


画面に映し出されたのは、政府中枢・宮内庁・内閣情報調査室・公安――各機関が秘密裏に共有していた、“改ざんされた系譜情報”と、それに紐づく極秘文書だった。


その最下段に記されていた文字。


「――第125代天皇・明仁の直系血統に対する遺伝情報書き換えに関する覚書」

交付日:平成19年3月12日

発議責任者:有本 司(当時・内閣情報官)


尊陽は、椅子に座ったまま、何も言えなかった。


彼の存在が、国の未来が、そして――

“皇統”という名の神話が、

静かに、音を立てて崩れていくのが、わかった。

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