表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剽窃の皇位  作者: 56号
第二章 南北朝
10/16

第一話 尊秀王

雪の舞う森に、王の亡骸は静かに横たわっていた。


 後の人々は、その地を「金剛の御所」と呼び、王の墓を築いた。


 そして今も、毎年二月の朝、川上村ではひとつの儀が執り行われる。


 「御朝拝式ごちょうはいしき」――


 忘れられた皇統の灯を、絶やさぬようにと。


*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  



長禄元年(1457年)十二月二日――


 夜の帳が下り始めた川上の里に、緊張が走った。


 「主上、お逃げください! 赤松の者どもが攻めよせてございます!」


 山中の仮御所を守る武者が、息を切らしながら報せた。だが、尊秀王は静かに弓を手に取ると、ほの暗い蝋燭の明かりの下に立ち上がった。


 「逃げおおせる場所など、この草深き山中にあるものか。……我は、もはや逃げぬ。」


 かつて帝の血を引きし者として、再び朝日を戴くその日を夢見て、山林を渡り、谷を越えてきた。だが、南朝再興の灯は、今、風に揺れている。


 「自天王じてんのうよ……」と、侍従の老臣が涙を流した。


 王は、微笑みながら言った。


 「この命、たとえ尽きようとも、我が血と志は、必ずや後の世に伝わろう。天の下に、忘れられし王道あらば、それを思う者もまた現れん。」


 赤松方の軍勢は、山を囲み、火を放ち始めた。


 松の香が、冷えた空気の中で立ち上る。


 「ここで果てるとも、我が名、我が夢、川の流れに刻まれるべし。」


 尊秀王は矢をつがえ、門前に立った。たとえ一矢でも、この志の証とならんと――。


 炎が夜を赤く染めるなか、弓の音がひとつ、闇を裂いた。


 ――それが、王の最後の矢であった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ