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1. 突然のスカウトとかぼちゃのパイ

・・・チリン、チリン、チリン・・・


河野海斗、36歳。新卒で入った会社を勢いで辞めたのが半年前。あんなにあった残高が減るのは結構一瞬の話で、こんな事ならあんな衝動買いしなければ、あんなに暴食しなければ、そんな事を思っても後の祭り。それでもお腹は減るもので、割引になった野菜や豆腐を手にトボトボと駅のコンコースを歩いていた。安かったからと買った丸々一本の大根がずしりと腕に食い込む。今日は寒いしおでんにでもするか、そう考えながら家路を急ぐサラリーマンの間を縫うようにすり抜ける。


・・・チリン、チリン、チリン・・・


さっきから鈴のような、鐘のような音が聞こえる。通勤客で混む駅前は存分にざわついているのに、何故かその音だけは別の次元と言うか、他の音とは隔絶された何か別のもののようだと本能で感じた。誰もその音に気を留めるでもないから、もしかしたらからくり時計のようなものが鳴っていて、今まで気がついた事がなかっただけなのかもしれない。何年も住んだ土地とは言え、何もかも知っているはずもない。だからそんな事だってあり得るだろう。


・・・チリン、チリン、チリン・・・


ただどうにも気になる。歩いても歩いても同じ音量で聞こえる。そんな事ってあるだろうか。今まさに全てを知るわけがないと言ったばかりではある。それでもどうだ、何かがおかしい。普通は音源があって、その音源の近くは大きく、離れるにつれて音は小さくなるはずだ。それなのに、既に何十歩も歩いているのに、一向に音の量がぶれない。大音量であれば、そんな数十メートル歩いたくらいでは確かにわかりやすく変わりはしないだろう。ただその音は話し声やざわめきよりは大きいが、アナウンスの声量には到底及ばない。だからつまり、多少歩けば音から遠ざかるはずなのだ。それなのに、その音はまるで僕の後をつけてきているかのようにずっと同じ音量で鳴り続ける。そしてそれはとても美しく、まるで天の鐘のようだった。


「そこの君。鐘の音が聞こえているのは分かっているんだ。いい加減認めて足を止めなさい。ほら、そこの20年もののヨレヨレトレーナーを着て、大根の重みに耐えきれずヨボヨボしているそこの君!」


ダメだ。変な人がいる。この街はその昔から移住者が多く出稼ぎの街として栄えてきた。そこには色々な商売や産業が共に育ち、面白い異形の地を作り上げている。基本的に問題ないし、面白い街なのだが、たまにやはりプロ変な人がいるのもこの街の特徴で、そこには決して足を突っ込んではならないのだ。今まで傍目に見る事はあっても、声をかけられた事はなかった。多分今はまさにそのタイミングで、ここで振り向きでもしたらもう家に帰る事は叶わないかもしれない。暗い道を歩いた訳でも、明らかにやばい地域に迷い込んだ訳でもない。今はまだ18時前。ど平日で、オフィスビルも多いこの街の駅前は大混雑だ。


そんな場所なのに、なぜ!


極めて平静を装って一刻も早くこの場を逃れようと歩を早めるも、進行方向にあるオフィスから帰る人の波を避けながら進むのではなかなか思うように歩けない。


あぁもう、何でこんな時に限ってこんなに定時で帰る人ばっかりなんだよ!!!


「はい。悪態をついているそこのおかっぱの人。聞こえていますね。今すぐ立ち止まりなさい。さもないと噛みつきます。」


今の声。


声ではない。話しかけられているのは確かだが、それは声として出されていなかった。確実に。加えて、噛みつく?それはもはや少し変だとか言うレベルではない。何を呼び寄せてしまったのだろうか・・・。


「だーかーらー。もういい加減こっち向いてよ。こっちだって疲れるんですけど。」

「それはこっちのセリフ!」


はっとしたその瞬間にした後悔は紛れもなく正しいもので、できればその後悔をする前にそのエネルギーを足に注いでそれを振り切るべきだった。振り返ったその風景はいつも見る見慣れた駅前のコンコースなのに、まるで水の玉の中にでも入ったようにそれと僕だけが空間から切り取られている。それでも同じ場所を歩く人達はそれには気がつく事もなく、歩きスマホをする人、同僚と笑いながら歩く人、保育園帰りの親子、そんな人達が何事もないかのように通り過ぎていく。


絶対に間違った。


「間違ってはいませんよ。海斗くん。いやあ、随分と無視してくれましたねえ。」


目の前にはアーモンドのような瞳を持ち、ぷっくりとしたひげ袋のある・・・猫がいた。が、服を着ているし、人型のようだ。変な街だとは思っていたし、色々知った気でいたけれど、本当にこの類のものがいる可能性を真剣に考えた事はなかった。


いや、もしかすると俺は倒れたのかもしれない。それで頭を打って、変な幻覚を見ている。多分そうだ。いくらここが変な街だからって、化け猫はない。そんな、流石にそれはない。


「あーもう、面倒な人ですね。人間って何でこうも自分達だけしか存在しないって思い込めるのか、本当に理解できない!だ・か・ら!あなたが見ているのは現実!頬でもつねってごらんなさい。人はよくそうするでしょう。」


い、痛い。うぅぅ、そうするとこれは現実・・・なのか。


(あ、あの・・・!)


ん?声が出ない。声量が足りないのかと思って大きい声を出そうとするも、口をぱくつかせるだけだった。


「あぁ、忘れていました。これでどうですか?」


ふわわわぁあと大きくその人型猫があくびをすると、体の中で何かがパチンと音を立てて、発声出来るようになった。


「ぁあ、声出た。」

「はい。よかったですね。あぁもうまどろっこしい。私はいつまでこんな事を・・・!」

「いや、僕だって今すぐに解放して欲しいんですけど。誰にも言いませんから、警察にも行きませんから、離してくれたら全て忘れますので。だから解放してください。」

「いや、何言ってるかちょっと意味がわからないんですけど。」

「いや、え?」

「え?」


どうしよう、埒が開かない。しっかり喋っているようなのに、やっぱり猫なのか?猫って3歳児の知能とか言うし、分からないのかな・・・?


「あ、ごめんね。猫さん。僕はお家に帰りたいので、このままバイバイしましょう。さようなら。」

「あぁん?喧嘩売ってんのか、人間?!」

「えぇえ・・・?」

「あぁうぜえ。こっちが下手に出てりゃ。めんどくせ。もう拉致ろう。」

「は・・・」


パチンと音が鳴って、ガクンと体の力が抜けた事はわかった。それでもタイルのコンコースに倒れ込んだような感触はなくて、むしろふわっとした毛に触れたような、懐かしいシャンプーの匂いが香ったような、そんな記憶が最後だった。


・・・だから!何でこんな性急な手を取っちゃうかな!あれだけ丁重にって言ったでしょ!今そんな事したらブラック企業って言われちゃうんだよ!どうするの!適合者少ないのに!・・・

・・・悪かったって言ってんじゃん!うざうざうざ!・・・

・・・口も悪い!!!何でそんな子になっちゃったの!こら!キナコ待ちなさい!・・・


ぼーっとした頭に誰かの言い争う声が聞こえる。気がつきたくなかったけれど、気を失う直前に拉致って単語を聞いたような。無職の36歳男性を拉致って何の得があるんだ。金目当て?それとも体・・・?いや、どれにしたってあんなに人がいる中で敢えて僕を狙うメリットはまるで無い。臓器を売るにしたって、使用年数があまりにも微妙だろう。去年会社で受けた健康診断に引っかかってはいなかったけれど、それでもそれ目的ならもう少し若い方がいいのは素人でもわかる。金目当てにしたって誰に請求するんだ。親か?いやあ、それにしたってやっぱり年齢が引っかかる。段々と頭は冴えてきて、思考を巡らせる事はできてきたものの、果たしてこのまま目を開けてしまっていいものなのか戸惑う。自分がどこにいるかもわからないし、そもそも人外だったし、全部本当だったらもはや今までの人生経験から何か解決策が導き出せるとは到底思えない。


「あ、起きた。また色々考えてる。臓器売買?いやあ、そりゃまあその線が絶対ないとは言えないけど、それならもう少し若い人狙うと思うよ。あとお金は別に困ってない。だからどっちもハズレ。年齢で引っかかってるのはまあ常識的に当たり。」

「あ・・・、はい。じゃあ、何が目的・・・。」

「さあさ、こちらにお座りになって。お茶でも飲まれますか?コーヒーでも?砂糖とミルクは使われますか?」

「あ、じゃあミルクを。」


いや、猫ってコーヒー飲めるのか。いや、そうじゃない。ここは・・・何だか見覚えがあるような、ないような。少し古びた事務所のような場所で、年季の入ったソファの一つに僕は寝かされていて、恐る恐る端に身を寄せる。程なくして目の前に手入れの行き届いたアンティーク風のコーヒーマグが似たデザインのミルクピッチャーと一緒に供された。


「さ、どうぞ。かぼちゃのパイはいかがですか?美味しく焼けているんです。とりあえずは腹ごしらえをして、それからもろもろご説明いたしますよ。」

「わかりました。じゃあせっかくなんでパイもいただきます。」

「えぇえぇ、どうぞどうぞ。」


大きめに切って皿に盛られたパイはまさに今焼きたてと言った様相で、断面からはゆるく湯気が立ち上っている。丁寧に網目にかけられたパイの上部がそのサクサク感をより強調していて、実はお腹が空いていた事を思い出すには十分すぎる程の演出だった。


はむっ。サクサクっとしたパイは焼きたてでその香ばしい香りが口の中から鼻に抜ける。カボチャは甘いものの、無理に味付けられたものではなく、本来の甘みそのものでそれを活かす岩塩の小さな小さな塊がたまに舌の上でワクワクを増幅させる。手のひらいっぱいくらいの大きさがあったパイなのに、ものの数分で食べてしまった。パイにはうるさい方で一口食べたら、あーだこーだと講釈を垂れるタイプなのに、その隙もなく食べあげてしまった。


「海斗さん。もし良ければもう一切れいかがですか?ご存知のようにパイは焼きたてが美味しいですから。」

「あ、じゃあお言葉に甘えて・・・。」

「どうぞどうぞ、ご遠慮なく。そんなに美味しく食べて頂ければ、パイも作った私も本望と言うものですよ。」


にっこりと笑う大きなさび猫の彼?は瞳の色に似た淡いエメラルドグリーンの蝶ネクタイをして、ベージュのスーツを着こなしている。


「よもつへぐい・・・」

「こらっ!キナコ変な事言うんじゃないよ!せっかく表情が和らいできたのにぃ!」

「よもつへぐい?」

「あ、こっちの話ですよ。お気になさらず。コーヒーのおかわりはいかがですか?」

「何かすみません。じゃあいただきます。」

「ほらっ!無駄口叩いてないでコーヒー淹れてきて!」

「ヘイヘーイ。」

「すいませんね。最近の若者ってやつなんですよ。全く!」

「猫の世界でもあるんですね、その感覚って。と言うかあの・・・今って僕は生きてるんでしょうか?これは死んでるんですかね?」

「ははは!面白い人だ!まあ今この空間はどちらとも言えなくもないですが、貴方様、と言いますか、体本体は今家のベッドで寝てらっしゃいますので、大丈夫です。お話が済めばちゃんとお送りしますよ。腹ごしらえも済みましたし、ここいらで自己紹介させていただきますね。私はここの頭を務めております。サビのリョウスケと申します。以後お見知り置きを。」

「は、はあ。(なんかその道の人みたいな説明だな・・・でも猫だしな・・・?)」

「で、こっちがミケのショコラ、さっきの若者がムギワラのキナコです。」

「(突然人気アニメのパロみたいになってきたぞ・・・)えと、僕は河野海斗です。」

「はい。存じております。では単刀直入に申しあげます。海斗さん。うちで働きませんか?今お仕事されてませんよね?給料は前職の倍お支払いします。」

「はい?いや、え?ここで働く?え、それに給料が倍?」


目を丸くする僕にペラペラと説明をしていくサビのリョウスケに圧倒されながら、一体僕はどこで何をしているんだろうと心底思っていた。何となく見覚えがあるような気がする古ぼけた事務所に大型猫3匹。そして美味しいパイとコーヒーをご馳走になり、今就職しないかと打診されている。


あ、あれだ。最近仕事を辞めて暇だったからずっと転生もののアニメを見ていて、いつの間にか頭の中でストーリーが自動生成できるほどになっていた・・・とか?


夢は元々独創的に作り上げられるものだし、素材があれば尚更だろう。あぁ、そう言う事だったのか。だってこの猫さん達は動物園のベンガルトラ(成獣)レベルの大きさなのに二足歩行で洋服を素敵に着こなし、パイを焼いている。コーヒーだって飲める。小説にしたらいい線イケるんじゃないか、と思えるレベルの出来だ。


「小説にしていただいても構いませんよ。でも少しは脚色して、そして何よりうちで働く事が条件です。」

「・・・!口に出てました?!」

「いいえ。我々は発声が苦手な分、感情の授受に聡いんです。そして進化した個体なら、その先まで感じる事ができます。」

「・・・つまり、僕が考えている事はお見通し・・・と言う事なんですか?恥ずかしい・・・。」


にこりとリョウスケが笑ったところで、ムギワラのキナコがコーヒーのおかわりを持ってきた。あんなに口が悪い感じなのに、それはただの反抗なのかもしれない。コーヒーポットに添える手や、僕の方に近寄りすぎない位置でコーヒーマグにサーブする姿は執事がいたらこんな感じだろうな、と言うレベルの洗練されたものだった。


「何だよ。ジロジロ見るな。でも褒めてるのはいいぞ。もっと褒めてくれても。」


ツンツンしているかと思えば、突然のデレでうっかり恋に落ちてしまいそうになりながら、コーヒーのお礼を言うとキナコは上機嫌で事務所の奥へ消えていった。


「・・・で、条件はこちらです。良ければこちらに拇印を押してください。各種書類は後日、と言う事で。」

「ちょ、ちょっと待ってください!僕ここで働くとは言ってません!」

「そんな。もう貴方の運命は決まっているんですけども・・・。困りましたね。」

「僕明日はハロワに行かなきゃなんです。」

「だから、こちらでお仕事をオファーしているわけですが?」

「いや、だから怪しいですって!一回家に帰して下さい!考えますので!即決はできません。失敗したくないんです。」

「はあ、わかりました。では今日は面接でしたので提出書類にそう記載ください。また後日、ですね。」

「え?随分事情に詳しいですね・・・。じゃ、じゃあ電話番号教えて下さい。記入しなきゃなので・・・。」

「うちも求人を出した事ありますから。でもなかなか条件に合う方は難しいので、最近はスカウトのみなんです。その封筒の中の書類に諸々入ってますので、そっちを参考にして下さい。ではお土産にこちらを。」


そう言って書類の入った封筒と僕の大好きなたい焼き屋さんの袋を渡される。味は粒あんとお好み焼きだと言われ、一体全体どこまで僕の生活が丸裸になっているのかと、背中が涼しくなるような気さえした。その後はまた後日返事を聞くからと言われたが最後、目を開けると自分の部屋のベッドの上にいた。


何だった・・・?夢・・・?ゆめ・・・じゃない・・・か。


なぜって口にはパイのかけらが付いていたし、ご丁寧にダイニングテーブルの上に書類の封筒とたい焼きの袋、そして買い物袋が置いてある。何よりもの証拠は服に猫の毛がついていた事だ。ショートヘアくらいの長さの毛は柔らかくて細くてどんなに思い込もうとしても、そもそも人の毛とは何か成分が違う感じがした。つまり諸々は現実のようだ。


うぅん・・・。存在を忘れていたスマホをポケットから取り出すと、妹から着信が残っている。今自分がいるのは現実の自分の部屋のようだが、さっきまでいた場所だって本当の場所に見えた。だからこれは現実であって、現実でない可能性もあるのかもしれない。


「あぁ、お兄ちゃん?何?」

「あ、奈々?奈々なんだよな?今日って何日?」

「え、何?え?今日は10月31日、ハロウィンだよ。何どしたの?」

「ハロウィン・・・。あれって大きい猫がパイご馳走してくれたりする?」

「は?何言ってんの?え、大丈夫?とうとう境界線分かんなくなった感じ?日本語忘れないでね?」

「え?いや、何言ってんだよ。アニメの、アニメの話だよ。あれってハロウィンの話だったのかな~?って。」

「何それ。さっさと仕事した方がいいんじゃない?そのままだとボケるよ。あ、電話したのはママがお兄ちゃん仕事どうしたか聞いてって言ってたから。そっちで働かないならこっちに帰ってこいって。」

「え!いや、仕事見つけるし!今日も一件面接・・・だったし?!」

「ふぅうん。まあ奈々はどうでもいいけど、都会で孤独死とかしないようにね。奈々これから飲み会だから。じゃね。」


ぶっきらぼうに切られた電話を置いて外を見るといつの間にかとっぷりと陽は暮れていて、空は真っ暗になっていた。時間は19時過ぎだが、この時期なら仕方ない。ついひと月前まではまだまだ明るかった気がしたのに、月日と季節が過ぎ去っていくのは本当に早い。つまり僕はあの事務所に30分くらい、体感と同じだけ滞在していたという事になる。


それにしても36にもなって親に就職の心配をさせている事に感じる後ろめたさに、10離れた妹に咄嗟に意地を張ってしまった後悔に、頭を抱える。仕事を辞めた事自体には特にネガティブな感情はない。辞めるのにちゃんと筋も通したし、引き継ぎもした。少し調整が必要なところはあったものの、円満退社だった。貯金を崩すとはいえ、元々そんなに浪費するタイプでもなかったから、来月の家賃が払えないような蓄えでもない。それでもやはりどこにも属していない浮遊感が時に感情をひっくり返すようで、度々これでいいのかと思ってしまうのだ。何も働く気がない訳ではない。それでもだからと言って、今日明日どこでも働きますと言う切迫感もない。だから誰かに尻を叩いてもらう事でモチベーションの再起を待っている、と言うのが正直なところだ。他力本願この上ない。だが、この歳になっては新しい環境もチャレンジも失敗も全部怖いのだ。20代のような自信も体力もない。いつの間にか将来は夢を持つものではなく、不安に彩られたものになってしまっていた。とは言え、今日はもうこれ以上考えても堂々巡りだ。早々に風呂に湯を張り、草津温泉の素を入れる。ゆっくりと肩まで浸かって、ふうぅっと息をつく。奈々とも話していつも通り毒舌を吐かれたし、お風呂のお湯はあったかい。自称草津の湯もいい香りだ。だから僕は現実に存在している。今のところ。


とんでもない体験をしたにも関わらず、風呂上がりにノンアルビールを飲みながら映画を見始めた頃には今日あった事なんてすっかり頭から飛んでしまっていた。綺麗さっぱり忘れたと言う訳ではないが、元々何事にもあまり抵抗するタイプではないから、すんなりと受け入れたに近いかもしれない。あっという間にしゃべる大型猫を現実として受け入れたらしき僕はその夜もぐっすり寝た。


僕は自分で思っている以上、相当に単純な人間らしい。


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