まぼろし
ガラス張りの部屋いっぱいの緑
太陽の攻撃はまともに降り注がれる
薬剤と液体で沢山のガラス器具
零れた紅い汁に落とされたままの白衣が染められた
にぶく光る銀時計が奥の暗い貴方を照らす
対する明暗に瞳孔はふらつき
貴方が手にした美しい陶器に浅く波打つ紅い汁は
その細い喉の深くへ消えて行った
多くのしおりが挟まれた巨大な植物図鑑
開かれたままのペエジがめくれた
天窓から流れ込む熱っぽい空気が
調べたばかりの紙切れを遊ばせてしまう
光が惜しみなく注がれるガラス部屋を
眩しそうに何か苛立つように眺めた
時計は十五時を告げた
壁に乱暴に張り巡らされた地図の金の文字を
指でたどって闇に笑う
夢物語 痛みの有る場所を指されても
お前は胸を張って探す事を辞めずにいられるか?
応えは無い
植物は微動だにせず白衣は休むことなく紅く成るだけ
音も無く焼けてゆく空気に瞬く陽光
気付いてしまったのだ
屈折するだけのグラフには飾れない
決して逢うことの叶わぬ種が
何よりも貴方を蝕んでいることに・・・
突然 割れる音がして太陽は去った
一気に冷気を帯びる空間に錆びついた銀時計が
幻を観たこの実験室に与えられた終わりを静かに伝えている
貴方は跡形も無く失せきり
紅いはずの白衣は黄色味を強調している
金の砂が僅かに落ちているようだ
それ以外は水槽のなか
地図も もう 読めない