第3話 犯人候補
「……ナルホド………移動教室はなかったんでしょう?」
「なかった」
雄太が財布のことを話すと、飛鳥はあごに手を添えて考え始めた。
…まぁ別にあごに手を添える必要はないのだが、なんとなく雰囲気を出したかったのである。
「…ま、一番怪しいのは山野と小林ね」
「は?何で被害者の名前が入ってんだよ?だいたい、小林も山野とは仲いいぞ?」
喧嘩してるようには見えなかったし…と雄太が呟けば、飛鳥に呆れ顔で一世一代の大バカね、とバカにされた。
雄太がむくれているのを無視して、いい?と飛鳥は話し始めた。
「まず山野。山野って確かワガママで自分が一番って感じの子でしょ?」
「そうだけど…」
それがどうした。
そう思っていると、飛鳥はさらに話を進めた。
「小林も小林で、“愛嬌があるって”人気だったわよね?」
「…そうだな」
「じゃ、自分が一番の山野にとって、自分と同じくらい人気があってしかも性格もいい小林はどんな存在?」
「………邪魔?」
自分が一番なのに自分と同じくらい…もしくはそれ以上の人気がある小林。
まぁ簡単にいえば嫉妬の対象であるのが小林である。
「…それが?」
「だから…山野にばれないように財布を盗ることができるのって、山野の一番近くにいた人物って考えるのが普通じゃない?」
「うん」
「それなら、自分で財布をなくしたって言って、それとなく“自分のものを小林が鞄から取ってくれた”とか言えば、小林に疑いの目がいくじゃない」
「………あぁ!」
確かに、あの山野ならそれくらいのことはやってのけるだろう。
まるで自分が女王のような性格をしているし、自分の思い通りに事を進めるためならいくらでも友達を斬りそうだ。
だが、雄太はまた不思議そうな顔をした。
「じゃあ小林は?」
「…ちょっとは自分で考えなさいよ」
そうやって呆れたような顔をするも、飛鳥は小林が怪しいと言う理由を説明し始めた。
「優等生で内気な小林とワガママで自己中な山野。主導権を握るのをどっちでしょう?」
「……山野?」
確かに、かなり大人しく内気な小林は、自己中心的な山野に振り回されていた。
そのことが頭をよぎり、わりと簡単に答えは出た。
「いっつも自分を振り回してる山野に、ちょっとした復讐心燃やしてもおかしくないんじゃない?」
確かに、飛鳥の言うとおりである。
だが、雄太は納得いかない、という顔をした。
「…でもさ、さっき“山野のものが盗られたら一番に疑われるのは小林”って言ってなかったか?それなら、小林は自分で自分の首絞めてるようなもんだろ」
雄太のその言葉に、飛鳥は平然とそうだけど?と答えた。
「そうだけど…って……。そんなことする奴、いるのか?」
「違うわよ。仮にさっきの小林犯人説がその通りだとしたら、小林はそのことに気づいてないのよ」
飛鳥の言葉に雄太は目を丸くした。
「気付いてないって……何でだよ?」
「だって…普段人のものなんか絶対に盗ったりしない優等生の小林が、お金が入ってる財布を盗るっていう大罪を犯したのよ?冷静に考えられないのも当然だわ」
その返答に納得したように、雄太は頷いた。
そう言えば、体育のバスケでも、ディフェンス(守備)の時に少し相手の足に自分の足がかすったくらいで泣きそうな勢いで謝っていた。
そんな小林には物盗りは大罪だろう。
――――――そう言うわけで、赤坂飛鳥は約30人いるクラスメイトの中から、雄太の話を少し聞いただけで、犯人候補を2人も挙げたのだった……。