第2話 赤坂飛鳥
「ふぅん」
この言葉に、少年、田中 雄太はかなり戸惑っていた。
先程あった財布の紛失。
確かに話した内容はそれだけだ。特別に驚いてほしかったわけでもない。
だが、もっと他に返し方があっただろう。
雄太は多少不満に思った。
「え?それだけ?」
「だって、私があの人に何かしてあげるだけの義理がある?」
冷たい奴。
雄太はそう言って肩をすくめ、持っていたパンにかぶりついた。
そしてそんな雄太をチラリとみただけで、また自分のお弁当に目線を戻したドライな少女。
赤坂 飛鳥。
それが彼女の名前である。
全体的に細身で色白な彼女は、山野有紗と張り合うほどの美人だった。
だが、赤坂飛鳥の一番の特徴は容姿ではない。
「――――――ごちそうさまでした」
「あ、やっと食べ終わった」
飛鳥が食べ終わり、すでに食べ終えていた雄太は大きな欠伸をした。
さっさと自分のいた裏庭から教室へと戻ろうとする雄太の腕を、誰かがものすごい勢いで引っ張った。
「痛っ!」
そう悲鳴を上げるも、自分を引っ張った少女は手加減なんかしてくれない。
腕をつかんだまま無理やり座らせ、無表情だった顔に滅多に見せない笑顔を張り付けている。
「――――――で?」
そんな飛鳥を見て、雄太は首を傾げた。
そして今度はそんな雄太を見て飛鳥が呆れたように溜息をつく。
「もう……さっきのお財布の紛失のことよ」
当然でしょ?と飛鳥が言えば、雄太は不満げに抗議した。
「当然って……さっき“何かしてあげるだけの義理がある?”とか言ってたじゃん」
「それがどうかした?」
飛鳥がそう言ってにやりと笑うと、雄太はもう諦め顔だ。
――――――赤坂飛鳥の一番の特徴は容姿ではない。
この嘘つきな性格である。