第1話 財布紛失
「ちょっ……私のお財布盗ったの誰ぇ!?」
ある、昼過ぎのことだった。
授業が終わって、みんな解放感に満ちた顔をして。
お弁当を広げる者もいれば、購買にパンを買いに行く者もいる。
そこまでは普通だった。
―――――山野 有紗がその一言を言うまでは。
山野有紗と言えば、クラスでも美人の女の子である。
多少ワガママな面もあるが、彼女の容姿に負けて言うことを聞く者もいる。
その日もいつも通りの日常が過ぎていた中、彼女の少々ヒステリー気味な悲鳴を聞いてクラスはざわめきだした。
「有紗…お財布、なくなったの?」
「うん……。で、でも私、ちゃんと鞄に入れてたのよ!?」
有紗に話しかけているのは、有紗の一番の親友と言えるであろう、小林 雪枝である。
小林雪枝は、クラスでの信頼も厚い、いわゆる優等生だ。
ふっくらとしていて大人しい雪枝は、有紗とは別の面で人気がある。
「うーん……今日は移動教室もなかったし…どこかに忘れたとかもないんだよね?」
「そう言ってるでしょ?アンタ、私の言うこと聞いてなかったワケ!?」
「そ…そういうわけじゃ……」
ヒステリーを起こしている有紗に、もう何を言っても無駄である。
責められた雪枝は、ただただ肩をすくめて怯えていた。
これが、有紗の財布紛失後の5分間である。