第3話 ねぇちゃんとお風呂入ってる
だんだん優希の身の回りが明らかになっていきます
家に帰ると、そこには既に姉が帰ってきていた。
俺の姉、七瀬詩織は俺と同じ高校の3年生だ。
俺がパッとしないのに対して姉ちゃんは生徒副会長を務めている。それに弟の俺から見ても凄い可愛いし、スタイルも抜群だ。
でも、彼氏がいた事もないし、浮いた話の1つも無い。告白してきた人をことごとく振っているせいでうちの高校1の難攻不落の女子になっている。なんで全部振ってるんだろう。
ちなみに「氷の玉砕姫」なんて呼ばれ方をしている。俺は実際には見た事ないが、学校だと男子には凄い冷たいらしい。
とにかく、色々と本当に同じ親から産まれてきたのか疑問に思うくらい俺と姉ちゃんは違うところが多い。
「ただいま、姉ちゃん」
「……」
なに、凄い圧があるんだけど。なんかしちゃったのだろうか。
「……こっち、来て」
そう言うと、姉ちゃんは俺の腕を掴み、どこかへ引っ張って行く。
そして連れて来られたのは、風呂。そんな汚かったかな。
「ごめん、汚かった? ちょっと色々あって、あはは」
「その事は後で聞くから。取り敢えずお風呂入るよ」
「分かった。じゃあ入ってくるから外出てて」
「へ……? 何言ってるの? 一緒に入るのよ」
いやいやいや。なんで一緒に入るんだ。
俺としては一向に構わないんだけど、さすがに高校生にもなってそれは不味い気がする。ちょっと恥ずかしいし。
「さすが一緒に入るのは不味いって」
「いいじゃない。お母さんたちだっていないし」
「そういう事じゃなくて……」
「……もしかして、優希は私と一緒は嫌?」
泣きそうな顔でそんなこと言われて断れるわけないじゃないですか。姉ちゃんは俺の事となると弱い。まぁ俺には甘いので、学校での噂が信じられない節もある。
「別に嫌じゃないよ。姉ちゃんが恥ずかしいんじゃないかと思って」
「嫌じゃないのね?! なら私は優希になら見られても大丈夫よ! 一緒に入ろ!」
すごい元気になった。学校で「氷の玉砕姫」なんて呼ばれてると思えないはしゃぎようだ。
姉ちゃんより俺の方が恥ずかしがっていたが、姉ちゃんに背中を流してもらって、一緒に湯船に浸かった。俺今、姉ちゃんとお風呂入ってる。
……向かい合ってじゃないのはいいんだけど、なんで俺、姉ちゃんの上に座ってるんだろう。
背中に柔らかい2つのモノが当たっていて落ち着かない。
「……ねぇ、なんで俺、姉ちゃんの上に」
「ん? 別にいいでしょ? それとも何、お姉ちゃんに興奮しちゃった?」
「……別にそういうわけじゃないけど」
「ならいいじゃない、ね?」
すごい楽しそうだ。顔は見えないが、声色だけでも浮かれているのが分かる。
「それで姉ちゃん、なにか聞きたいことでもあるの?」
「えぇ。まず、なんであなた傷だらけなの? それに目が死んでたわよ、帰ってきた時」
そんなにはっきりと分かるほど目が死んでいただろうか。というか、その事についてだったか。
「……簡単に言えば、神楽坂さんと神坂さんと鳳くんに裏切られた? って言えばいいかな。
神楽坂さんに告白したら2人が出てきて、色々暴言吐いて3人で蹴ってきたんだよ」
「っ! 」
俺はどんな事があったのか詳しく説明した。
姉ちゃんの顔は見えないけど、真剣に聞いてくれているようで良かった。あんま話したくなかったんだけどね。
というか、さっきから全く反応が無い。大丈夫かな。
「姉ちゃん? 大丈夫?」
「……」
「後ろ向くよ、ごめんね」
後ろを見ると、姉ちゃんが泣いていた。どうしよう。不味いことでも言ってしまったのだろうか。
よく分からないので、とりあえず姉ちゃんを抱きしめた。
正面から抱きしめたので、ちょっと姉ちゃんの、色々見えちゃったけど、仕方ないよね、うん。
「っ!」
「ごめんね、姉ちゃん。嫌な話聞かせちゃった? それともなんかしちゃったかな」
「っ……違うの、優希。そんな事があったのね。大変だったね」
「……? 大丈夫だよ姉ちゃん。別にあいつらに言われたことに対してなんにも感じないんだ。悲しくもない、蹴られても怒りもないし痛いとも感じなかったんだ」
そう言うと姉ちゃんは泣きやみ、真っ直ぐ俺の目を見つめてきた。こう、真っ直ぐ見つめられると照れるよね。
姉ちゃんの目がどこか暗くなっているように感じるのは気のせいだろうか。
「優希」
「うん? どうしたの、姉ちゃん」
「私が優希を守るからね」
「……? ありがと、姉ちゃん」
「じゃあそろそろ上がりましょうか」
そう言われて、俺は姉ちゃんを抱きしめたままだったことに気付き(1度は離れたがまた抱きしめられていた)、急いで風呂から出た。
☆☆☆
それまで気付いていなかったのだが、母さんが帰ってきていたらしい。俺たちを見つけると、
「あんたたち、変なことして無いだろうね」
と、聞かれてしまった。俺が否定しようとすると、
「優希と一緒にお風呂入ってただけだよ? こう、優希を上に乗せて。」
「あなた達ねぇ……」
「あ、そうそう! そのまんま優希とハグしたよ!」
姉ちゃんはそう言って何故かうっとりとしていたが、母さんは凄い目付きで俺の事を見てきた。俺が悪いのか? これ。
母さんは諦めたようにため息をつき、
「あんた達、別にもう今更だから良いけど、私たちがいる時に変なことしないでちょうだいね」
と言った。更に続けて、
「そうそう、言ってなかったけど、2人は本当の姉弟じゃないのよ。優希は亡くなった親戚の子供を引き取ったのよ。
高校生になったら言おうと思ってたのだけれど、言い忘れてたわね。ごめんなさい」
なんでもないふうに切り出されたがこれって結構とんでもないことなのではないか。
いや、でも確かに父さんと母さんがA型なのに、B型の俺が産まれてくるわけないか。
今まで少し違和感はあったが全く気にしていなかったので、そう言われて初めて納得した。
そんな事を考えていると、真っ赤になった姉ちゃんが物凄い勢いで2階に上がって行った。どうしたんだろう。
そう思っていると、母さんが、
「今までアンタにやってた事が恥ずかしくなって来たんじゃないの?」
と、笑っていた。
俺も今までを思い返してみると、確かに他人だとしたら近すぎる。そう思い、俺も恥ずかしくなって自分の部屋に戻ったのだった。
お姉ちゃん、距離近かったですねー。次話、妹&父登場します。
誤字脱字、アドバイスなどよろしくお願いします