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ダンジョンセトラーズ  作者: 高橋五鹿
第一章 樹海に飲まれるもの
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第7話 反乱

 第二拠点から来たふたりの男が語ったのは、以下のような内容である。


 特例開拓者の長であるウェルゲンが反乱を起こしたというのだ。

 衛兵、自由開拓者の生死は不明。

 どれだけの特例が反乱に参加しているのかも不明だという。


「この拠点がすぐに襲われる可能性はあるか?」

「現場は今混乱しているし、第二にはこんな奥地まで来れる奴は少ない。だから時間の猶予はあると思う」

「なら、夜が明けてから話し合おう。あんたらもご苦労だったな。今のうちに休んでおいてくれ」


 只事ではなかったが、だからといって今全員を起こして行動しても体力がもたないかもしれない。

 朝になるのを待つのは妥当な判断といえた。




 翌朝になり全員に情報が共有され、改めて話し合いの場が設けられる。


「よりによって補給前になあ……。それも考慮した上で昨日決行したのかもしれんが」

「第三に居る俺たちに邪魔されたら面倒だろうからな」

「さて、オレらはどうしたもんかね」


 街の衛兵、自由開拓者、特例開拓者はそれぞれ立場が異なる。

 探り合うように、慎重に発言をしているようだった。

 衛兵は反乱を収めねばならない立場だが、白鉄札が手を貸してくれるとは限らないし、黒鉄札は反乱に加担する可能性すらある。

 黒鉄札は数が多い上に、モリアやレミーを擁しているのだ。

 彼らの意見を無視は出来ないだろうと、隊長は声を掛けた。


「モリア、レミー。お前たちはなんかあるか?」


 レミーは「特に意見は無い」と首を横に振った。

 それまで黙っていたモリアは、第二拠点から来たという特例の男に向けて言う。


「衛兵さんはともかく、あなたいったい何者なんです?」

「え?」


 皆もその男に注目した。


「第二拠点から深夜に少人数で第三に来るのは命懸けです。街の兵士なら分かりますが、なんで黒鉄札が命を懸けるんです? 特例なら向こうに残ってもウェルゲンたちに殺される心配はないでしょう?」


 男はどう弁解するべきか少し悩んでいたようだが、全員の圧力に屈したのか、ぽつぽつと語り始める。


「俺は……街の上層部に雇われた諜報員なんだ。特例が不満を溜め込んでいないか、何か不正がないかを調べるための。それなのに反乱を未然に防げなかった。ウェルゲンには見抜かれていたのかもしれない……」


 ここまで一緒に来た第二拠点の衛兵も、驚いたようにその男を見ている。

 皆が少しざわつくなか、モリアの返答はあっさりとしたものだった。


「なんだ、それなら納得しました」

「いいのか? それで」

「なんらかの罠を疑ったんですけど、そうじゃないならいいんです」


 それっきりモリアは諜報員への興味を失ったようだ。

 微妙な空気になっていた周囲の面々も、それ以上の追求はしなかった。

 街の上層部は思ったよりも慎重で、様々な策を巡らせている。

 モリアは第二拠点の行く末について考え込んだ。


「第二の特例だって全員が従うわけもないし、百人もいないだろ?」

「それでどうするつもりなんだかなあ」

「今でも特例の長なんだから、頑張れば引退も出来たんじゃないのか?」

「無理なんだよ、あいつは。王都での権力争いに敗れてこんなとこに居るんだ。どんなに功績を上げても、この樹海からは出られない」

「ライシュタットの領主程度じゃ、覆せないってのか」

「別に樹海から出すだけなら出来るかもしれねえけどよ。領主サマもウェルゲンのために敵を増やす気なんかないのさ」

「その結果が反乱か。どっちのほうがマシだったのかね……」


 この場に居る特例たちも、無謀な反乱に加わる気はあまりないようだ。

 ひとまずはそのことに、衛兵たちも安堵する。


「反乱つっても、街を落とすなんて無理だよな」

「第二拠点に立て籠もって山賊のマネをするだけなのか?」

「それで生きてけんのか? モリアはどう思うよ」


 問われたモリアは思考を中断して答える。


「百人近い特例をこの樹海の狩りや採取で食わせていくなんて無理だよ。それにウェルゲンは特例の中では強いのかもしれないけど、街の白鉄札にはあの程度ゴロゴロいるでしょ。人数が減ったところを賞金稼ぎに襲われて終わり」


 この場に居る自由開拓者の者たちは、「それはそうだな」と納得する。

 特例は危険な樹海の奥地でこき使われ、白鉄札は自由気ままに街と樹海を行き来するだけだ。

 しかし白鉄札はピンキリで、中には一攫千金を狙う凄腕もちらほらと存在する。


「ほっとけばいいってことか」

「オレたちも特例だから、連座で処刑されたりしないか?」

「お前たちの無罪は我々が証言する」

「じゃあそれはお願いします。でも、もうひとつ問題があって」


 モリアは隊長に向き直って告げる。


「ライシュタットの支援が無いといずれ干上がるのは、僕たちも同じなんですよね。第二拠点と第三のどっちが先にくたばるか。何もしなければただの運任せだ」


「なら……どうしろというのだ」


 すぅ、とモリアの目は半眼になる。

 それは、狩りをするときの目だ。

 獲物を殺すときの、本気の殺意を宿した目だ。

 いまや第三の面々は皆、この少年の隠された一面を知っている。




「ウェルゲンの反乱――――僕たちで鎮圧しましょう」




 第二拠点に百人の反乱軍が居たとしても、大半は烏合の衆だ。

 ここに居る二十二名でも、奇襲をすれば勝てないことはない。


「あ、でも白鉄札の皆さんは別に得は無いですね。無理に参加する必要も無いと思います」

「それがそうでもねえんだよ。このままだと第三拠点を築いた成功報酬が無くなっちまうだろ?」


 ああ……、と皆が納得した。


「だからそれを補償してくれんならオレも手伝う」

「だな」

「分かったよ。街や組合への交渉は引き受ける。あんまり期待はすんなよ」


 その隊長の言葉で、全員の参加が決定した。

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