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ダンジョンセトラーズ  作者: 高橋五鹿
第二章 迷宮と共に生きるもの
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第41話 メグレズ

 迷宮に飲まれた者たち、迷宮と共に生きる者たちをセトラーズと呼ぶ。

 そのうちの(いち)種族であるメグレズは、小人のような外見の妖精だ。

 メグレズの『ロカ』は外見に似合わず人間の大人、あるいは老人くらいの年齢なのかもしれない。


 ロカに連れられてしばらく歩くと、樹木がまばらになってきた。

 周囲に明かりはない。

 だが、月の光だけで充分に視界が確保できる。

 樹々の密度が低くなると、今度は足元が不安定になった。

 地面から突き出している岩や石塊に注意しながら進む必要がある。


「そろそろ見えてくるぞ」


 ロカがそう言うと、モリアは足を止めた。


「どうした? モリア」

「魔物だ……」


 魔物など樹海の何処にでも居るだろう、と言いたげにロカは首をかしげる。

 この小人がモリアを罠に嵌めるために魔物の生息地に誘い込む、みたいな話があり得ないわけではない。

 作戦としては陳腐に過ぎる気もするが、樹海の奥地に住む未知の種族ともなると、どんな手を使うか予測も付かない。


「ロカにとってどうなのかは知らないけど、僕なら無闇には近付かないような相手だ。どう対処するつもりなの?」

「樹海をひとりで渡ってきた割にはえらく慎重じゃの。それとも、吾輩を疑っておるのかね」

「気を悪くした?」


 小人はその言葉を否定する。


「吾輩がおぬしの立場なら、見ず知らずの種族を信用などするわけがない。だから気にする必要などない。じゃがのう、いちいち全てを疑っていたらこの樹海では生きていけないのもまた事実」


 黙って話の続きを待つ。


「吾輩らは無力な種族ではない。メグレズの里は魔物の侵入を許さぬし、自分たちの身を護ることもできる。おぬしは熟練の戦士のようじゃが、吾輩の魔法には及ぶまいよ。だから安心するがいい。……というのが吾輩側の意見だ」


 ふむ、とモリアは相槌を打った。

 事実かどうかはともかく、あっさりと手の内である魔法の存在を明かしてくれた。

 先に情報を開示するという譲歩をしてくれているのかもしれないし、あるいは単なる自信の表れか。

 実際、深夜の樹海を歩けるというだけでロカの実力は証明されている。

 隠蔽魔法が通じないモリアとは戦闘上の相性が悪いだけで、生存能力であれば彼のほうが上かもしれない。


「しかし先も言った通り、全てを疑っていたら樹海で生きてはいけぬ。だから吾輩は、おぬしの意見を軽んじたりもせぬ。この地までひとりで来れるほどの者が、この先に居る魔物どもをそこまで警戒するのは何故なのか。吾輩の真意を探るために言っただけというなら、別に気にはせぬぞ」


 ロカを探るために適当な嘘を言ったわけではない。「いや、違う」と否定しつつ、モリアは前方の彼方を見て何かを調べるように神経を研ぎ澄ませる。


「一応確認なんだけど、ロカはどこまで魔物の索敵ができる?」

「吾輩が使うのは樹海の精霊の力を借りる精霊魔法じゃ。樹木の精霊(ドライアド)は樹海の至るところにおり、人間の知覚範囲よりも遥か先の出来事まで知らせてくれる。もっとも、数を経由しすぎると情報も不正確になっていくがの」


 ――複数の精霊が、伝言するように遠くの出来事を伝えてくれるわけか。


 伝言を繰り返すと情報が不正確になるのは人間と変わらないらしい。

 限界はあるようだが、人ひとりよりも広範囲を索敵できるというのは嘘ではなさそうだ。


「ここからメグレズの里まで、目立った魔物の姿は無い。吾輩なら奴らの目を欺いて何事もなく里に着けるじゃろう」

「そのドライアドって、普段はどこに居るの? 空中?」

「まあ、だいたいは空中を漂っておる」


 魔力感知に優れるモリアではあるが、世界に普遍的に溢れる精霊の存在や神の力を普段から感じ取ることは難しい。

 それらは精霊魔法や神聖魔法などの使い手の領分だ。

 彼らが魔法を行使することによって生じる不自然な現象であれば、モリアにも察知することが出来る。


「植物の精霊だから根の先に居るってわけでもないんだね。だから視えないのか」

「どういう意味だ。おぬしの言う魔物は何処におる」

「地中だよ」

「なにっ!?」


 ロカは前方の地面を見ると、精神を集中してなんらかの術を行使した。

 その気配はモリアにも伝わってくる。

 地の精霊(ノーム)のような種も、索敵に使うことが可能なのかもしれない。

 敵の位置はまだ離れているが、強大な魔力核がその存在を誇示していた。

 ロカが驚きの声を上げる。


「なんじゃ! こいつは!?」

「ワーム……竜の下位種族だ」


 ライシュタットの地下で遭遇したものより気配がずっと大きい。

 まともに戦えるような相手ではなさそうだ。


「こんな奴の接近に気付かんとは! 先日の地震のときか……いや、今は考えとる場合じゃないわい」

「里のほうはどうする? 避難させたほうがいいのかな?」

「どれだけデカかろうが奴が迷宮の魔物である以上、降魔石の結界を抜けることは出来ん……といいのじゃがな」


 里という以上は非戦闘員も居るのだろう。それならば避難は難しい。

 今の発言から推測するに、メグレズの里はそのものが降魔石の結界で護られているのだろうか。

 ライシュタットの目指すところもそれだ。

 是非参考にしたいが、そのためには眼の前の危機から里を救う必要があるだろう。


 そして、地中から轟音が響く。


「奴が動くぞ! なんてこった、吾輩の魔法に反応したのか!?」

「遅かれ早かれこうなるんだから、そこは悔やんでも仕方ないよ」


 いつでも武器を抜けるように構えるが、正直ショートソードではどうにもならなそうだ。

 足許の揺れが伝える敵の規模は、いつぞやの樹木兵を上回る。


 前方遠距離の地面が突如爆発し、岩塊が撒き散らされた。

 ワームの頭部が地中から現れたのだ。

 至近距離で同じことをされただけで、岩塊の直撃を受けて即死する危険すらあっただろう。


 ――やはり大きい。


 馬ですらひと呑みに捕食できそうな顎門から、地中に潜む全身は数十メートルに達するのではないかと連想される。

 以前戦った個体は後頭部から魔力核を突き刺すことで倒すことが出来た。

 しかしこの大きさでは弱点まで刃先が届かない。


「ロカ、敵を直接攻撃する魔法は使える?」

「ないこともないが、あの図体にはとても通じんぞ」


 あまり悩んでいる時間はない。

 ワームの殺気は明らかにこちらを向いている。

 数瞬の思考を経てから提案した。


「仕方ない、撤退しよう」

「おぬしにも手はないのか」

「一体だけなら、なんとかなったんだけどね」

「今……なんと言った?」


 ロカが聞きたいのは、敵を倒す手段についてではあるまい。


「敵は複数居る。少なくとも三体。それより遠くにも居たらちょっと分からないな」

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