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ダンジョンセトラーズ  作者: 高橋五鹿
第二章 迷宮と共に生きるもの
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第39話 地下迷宮探索

 屋敷の中には夕暮れの光が差し込んでいる。

 初めて触れる呪石魔法の知識にレミーは強い興味を、テオドラは強い熱意を見せた。

 が、本人たちのやる気とは裏腹に、グルイーザの出した評価は――


「レミーと姫様は筋が悪い」

「そうか……」

「そんなあ~」


 少し気落ちしたようなレミーは珍しい……いや、初めて見るような気がする。


「他のふたりに比べたらの話だ。というか、お前らはなんで普通に古代語が使えるんだ。専門外だろ?」


 話を振られたミーリットとモリアは各々に答える。


「私は神殿で古代史を学んでいましたので」

「古代のお宝を盗掘するのに必須の知識なんだってさ」

「育ちの違いが如実に表れたな……」


 グルイーザは呆れたように言うと、その日の訓練の終了を告げた。

 呪石をみっつ取り出すと、ひとつをミーリットに、ふたつをモリアに渡す。

 ミーリットに渡された石は降魔の障壁を生み出す呪石で、モリアも同じものを受け取っている。

 もうひとつの石は攻撃用の魔法が込められた石だ。


「注意点は今日教えた通りだ。所有者をお前に設定し、そのそばでは発動しないよう制限がかけられている。だから滅多なことは起こらないと思うが、扱いには気をつけろよ」

「うん、分かった。ありがとう」


 モリアは頷くと、そのふたつの石をベルトに取り付けたポーチに入れた。


「一日で使えるようになるとは思わなかったが……とにかくお前はもう明日から迷宮調査に戻っていいぞ。レミーはしばらく借りる」


 レミーとグルイーザは当分探索には加われないようだ。

 呪石魔法を使う際にグルイーザは王国語しか使っていないように見えるが、あれは呪石の安全装置を解除する合言葉に過ぎないらしい。

 実際には古代語を理解しその言語で念じる必要があるため、古代語の知識が無いレミーは習得に時間がかかる。

 一方テオドラには古代語の知識こそあるが、彼女が挑むのは呪石制作という非常に難しい技術である。一朝一夕に習得できるものではない。


 モリアは明日以降の予定に思いを馳せた。

 単独では野営時の見張りが出来ないので遠出するつもりはなかったが、今は障壁の呪石がある。

 樹海の奥地に進む難度はぐっと下がるだろう。





 翌日再び屋敷に集まった後、ミーリットと打ち合わせを行う。


「えっ!? ひとりで調査を?」

「うん。樹海にせよ地下迷宮にせよ、日数をかけて少し先のほうまで様子を見たいんだ。戦いを避けながら進むのなら、僕ひとりで行くのが一番速いからね」


 仲間とはいっても、王女から預かっている人間を不向きな任務で危険に晒すわけにはいかない。

 ミーリットは戦力が充実しているときこそ輝く人材だ。

 少数での斥候は彼女の仕事ではない。


「戻ってきたらまた力を借りるよ」

「最長で何日くらいになりそうなんです?」


 ベルーアの言う、街の現在位置を思い出しながら答える。


「北壁山脈まで最短三日、でもそれは直線距離だから道が確立されればの話だ。試行錯誤しながらだと倍……往復で更に倍……」

「ほ、北壁山脈まで行くつもりなんですか!?」

「あ、いや。そこまで行く予定は無いから、だいたい十日以内で済むだろうってこと」


 ミーリットは少し安堵しつつも、それでも十日という長さに不安げな顔をする。


「レミーとグルイーザ……は別に心配いらないか。親父さんとアニーのことを頼むよ」

「分かりました。任せてください」


 ミーリットに見送られながら、モリアはひとり地下食糧庫への階段を下りていった。




 隠し通路を通り地下迷宮へと進む。

 通路先の安全地帯には、既に衛兵や何人かの開拓者が詰めていた。

 元迷宮都市の冒険者だった白鉄札――自由開拓者たちの助言で、待機中いかに快適に過ごすかの工夫に余念がない。

 野営道具や建材まで持ち込まれている。

 見知った顔も居るようだ。


「おっ、モリアじゃねーか」

「お疲れ様。小屋とか建てても消えちゃったりしないの?」


 各地の迷宮では外部から持ち込んだものや、死体などはしばらくの時間が経つと消滅してしまうらしい。

 迷宮は壊されても、あるいは塞がれても、元の状態に戻ろうとする力があるのだ。


 今にして思えば、それも迷宮に飲まれる現象の一環なのだろう。

 再生の力は吸収したもので賄われている。

 グルイーザの言う通り、無から有を生み出せるわけではないのだ。

 地上の樹海のような、自然環境と混ざり合った迷宮ではそうした力は弱まるらしく、今までそのような現象が起きていたのかどうかは分からない。


「生きてる人間が触れている限りは消えたりしないぜ。交代で誰かしら寝泊まりするわけだし、何日も放置しなけりゃ大丈夫」

「なるほどね。探索で怪我人が出たら運び込める施設も作れるわけか。まさに樹海の中継拠点を地下に持ち込んだみたいだね」

「おうよ。しかもここは樹海の拠点と違って襲撃を受ける心配がない。そういう意味じゃ地上の開拓より楽なもんだ」


 元迷宮の冒険者に言わせても、樹海開拓はなかなか困難な仕事であるらしい。

 しかし迷宮は迷宮で、生態系を無視したような未知の敵や、仕掛けられた罠などの困難が待ち受けているそうだ。


「参考にするよ。それじゃ行ってくる」

「ああ、気をつけてな。……っておめえ、ひとりで行くのかよ!?」


 障壁の呪石については、いずれ皆にも話されるだろうし極秘事項というほどでもなくなるだろう。

 だが今は説明する時間も惜しい。

 モリアは曖昧な笑みを返すと、そのまま北側の出口から迷宮へと乗り込んだ。





 発光石に照らされた通路は、薄暗くはあるものの視界はさほど悪くない。

 滑らかな石畳の上を、足音を殺して歩く。

 出入り口付近に魔物の気配は無い。

 戦いをなるべく避けるとは言ったが、通路上で出会った敵は倒さねば進めない。


 そんな心配をよそに、敵と遭遇することもなくかなりの距離を稼ぐことが出来た。

 途中には分かれ道や扉などもあった。

 扉に近付くとなんらかの生物や、あるいは魔力などの気配がする。

 人工的な迷宮の魔物は特定の玄室に発生することが多く、移動することは少ないとも聞く。

 食糧を求めて動き回る、樹海迷宮の魔物との大きな違いだ。


 室内の魔物や仕掛けに興味が無いこともない。だが。


 ――それはまた、今度レミーたちと来たときにでも調べればいいか。


 単独では無理は禁物だ。




 道中、ついに魔物の群れと遭遇した。

 樹海でも見かけるような四足獣だったが、幸い群れの規模は大きくはないようだ。

 数は五匹。

 飛礫による先制攻撃で二匹を倒すと、残りの三匹は怯んだように後ずさった。

 この獣たちがモリアを倒せる可能性があるとすれば、前に進むより他に選択肢は無い。

 距離を取っては投石術の餌食だった。

 即死を免れた個体もショートソードで首筋を斬り裂かれ、程なくして群れは全滅する。


 ――今は問題なく勝てたが、退却の手段は色々考えておくべきだな。


 近くの扉に向かう。

 中にはなんの気配も無かった。

 罠の可能性もあるが、単なる空室というのも迷宮ではよくあるらしい。


 内部の気配を探りながら、慎重に扉を開ける。

 やはり中には何もいない。

 部屋の中央まで進んでみたが、何も起こらなかった。

 扉を閉めてみるが、異常は無し。


 ――どうやら本当に空室のようだ。


 例えば通路上で強敵に遭遇し、逃げるのも難しい場合など。

 手近な部屋に飛び込むという手段も、緊急時には視野に入れるべきだろう。


 ポーチから障壁の呪石を取り出すと部屋の中央に置き、短く呪文を唱える。


「――降魔の障壁」


 呪文はただの合言葉だ。

 実際には古代語で念じた内容が術へと反映される。

 広大な範囲を守る障壁は今は不要。

 部屋の大きさ分だけ障壁を創り出し、小型の安全地帯を生成する。


 半日ほどは歩いただろうか。

 休めるときに休んでおこうと、モリアは眠りについた。

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