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ダンジョンセトラーズ  作者: 高橋五鹿
第二章 迷宮と共に生きるもの
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第36話 光の路

「これは」

「え、ええっ?」

「……む?」


 モリアたち三人が困惑している理由は単純明快だ。

 隠し通路の壁を破壊して侵入した先はどう見ても地下なのだが、明るいのだ。

 カンテラの炎が不要なほどに。


「迷宮石……」


 その空間は、壁も天井も迷宮石で造られていた。

 迷宮に漂う魔力を素に、薄ぼんやりとした光を放っている。

 決して強い光ではないが、これだけの面積があれば視界にはなんの支障もない。


「迷宮石って、古代迷宮の壁とかを構成している光る石のことですか?」

「何故そんなものが、街の地下通路に使われている?」

「ここ、本当に街の一部なのかな。街が転移した先に元からあった通路かもしれないよ」


 そういう可能性もなくはない。

 そもそも従来のライシュタットは迷宮ではなかったので、迷宮石を材料に使ったとしても、その効果の恩恵に(あずか)ることは出来ない。


「少し進んでみれば分かるかもね」

「そうだな」


 三人はゆっくりと歩き出す。

 足元も壁も石畳のように滑らかで、凹凸が少ない。

 やがて広い場所に出た。

 そこは円形の部屋のようで、外周に沿って幾つかの出入り口があるようだ。

 部屋の中央では、怪しげな人工の泉に水が湧き上がっている。

 溢れないところを見ると、水はなんらかの仕組みで循環しているらしい。


「いくつか分かったことがある。まず現在地は街の少し北、つまり河があった場所に相当する。深さからいっても川底の下とは考え難いね」

「そんなところに隠し通路を造る技術なんて、いくらなんでも今の時代にはありませんよね」

「そうだね。それに河の位置は地上から見る限り地形が入れ替わってはいない。地下も元からこの場所にあったものと考えるのが自然だ」

「ならばこの通路は街の設備ではなく、セプテントリオンの一部ということか」


 北の迷宮――セプテントリオンは自然と混ざり合った樹海迷宮であるというのが現在の認識だ。

 だからといって、人工的な構造物が存在しないと考えるのは早計である。


「それからこの部屋だけは壁と天井、発光しているのは全体の半分程度だね」

「光っていない場所は発光石以外の材質か」

「材料を節約したんですかね?」


 光量は充分なので、そういう見方もある。

 しかしここは、専門家の意見を伺うべきだろう。


「そろそろ出番なんじゃないかな? 我らが魔術師殿の」





 一行は街へと引き返して来た。

 まずすべきことは、新たに発見された地下通路が街の設備か否かの確認である。

 エメリヒ組合長には自分で報告するとして、領主方面――つまりテオドラへの報告はミーリットに任せることにした。

 上層部に素早く情報を共有できるので、彼女の加入はそうした面でも助かることになる。

 政治的均衡などは、モリアの知ったことではない。

 しかしエメリヒには義理もあるので、一応その辺りも確認しておいたほうが良いかもしれない。




 組合を訪れたモリアに対し、エメリヒはやや意外な答えを返した。


「ああ、領主――テオドラ王女への支援は、私としても望むところなのです」

「そうなんですか?」

「今は街が一丸となって困難に立ち向かうとき。しかし王族という身分に対して表立って異を唱える者はいませんが、内心では快く思わない方もいるはずです」


 確かにそうだ。王族だから無条件に優れている、などということはあり得ない。

 街のことを真剣に考える者であればこそ、あのような年端も行かぬ少女に代表を任せることに不安を覚えることもあるだろう。

 だが実際には、ジークリーセのみならずテオドラも侮り難い人物だ。

 決して部下に任せ切りのお飾りの主君ではない。

 分かりやすく実力を示す機会があれば、そうした声は減っていくかもしれない。


 中には嫉妬や野心で彼女らを妬ましく思っている者もいるかもしれないが。

 そのような者たちの支持は不要とまではいわないものの、後回しでもいい。


「特例第一小隊が発見した地下迷宮と思しき通路に関しては、魔物の進入路たり得るかもしれないということですね?」

「元々の脱出路も今となっては守備の穴です。でも、埋めるのはちょっと待ってもらえませんか?」

「もちろん調査が先です。領主も手配しているかもしれませんが、今は例の屋敷の警備を厳重にする必要があるでしょう」


 隠し通路への入り口がある屋敷のことだ。

 誰の持ち物かは知らないが、今後は衛兵や開拓者がぞろぞろ出入りすることになる可能性もある。

 多分街の所有なので、心配する必要も無いかもしれないが。


「では、引き続き明日も調査します」


 そう言ってモリアはその場を辞した。

 階段を下りた後、ギルターとすれ違う。


「よう、隊長さんよ。新しい隊員(メンバー)はまたお前みたいなガキなんだってな?」

「いや、どっちかというとギルターに似ている」


 不思議そうな顔をするギルターに笑みを返すと、組合を出て宿へと向かった。



*



「なるほど治癒師ね。腕も立つと。しかも知り合ったのはアンデッド戦よりも前だったのか?」

「ハハ……」


 アニーの宿の一階、テーブルを囲む四人はグルイーザを含めた特例第一小隊の面々だ。

 ミーリットの紹介を済ませたところである。


 暗に「何故もっと早く連れて来なかったのか」と言っているグルイーザに対し、モリアは笑って誤魔化すだけだった。

 顔見知り程度で、貴族の神殿騎士を仲間に出来るわけもない。

 しかし今は出来てしまっているので、何を言っても言い訳だ。


「まあいい。お前から預かった魔物の肉片だけどな」

「何か分かった?」


 モリアとレミーはもちろん、直接戦っていないミーリットも興味深げにグルイーザの返答を待つ。


「あれは『ワーム』といって、地中を移動する魔物だ。モリアの予想通り、街が転移したときに元から地中に居たんだろうな」

「そんなこともあるんですね……」

「対処も間違っちゃいない。確実に死んでるから安心しろ」

「あれは一体なんの生物が進化した魔物なんだ? 虫か?」


 虫の魔物だとしたら、あれはいかにも幼虫という外見だった。

 ならば成虫形態とかも存在するのだろうか?


「いや、ありゃあな――」


 眩い黄金の髪と対照的に、魔術師は表情を曇らせる。


「――竜の一種だ」




 少しの沈黙の後、再びグルイーザは口をひらいた。


「まあ、下位種も下位種。小さいうちなら倒せないこともないだろ」

「成長すると、それこそドラゴンみたいな大きさになるとか?」

「伝承上の話だから、そこまでデカいのが実在するのかはあたしも知らねーけどな」


 地中から侵入してくる魔物の前には城壁も役に立たない。

 そんなものが何体も居ないことを祈るのみだ。


「今まで見てきた樹海の獣は同一種の群れであることが多かった。ならばそのワームを率いる(ボス)もいるのではないか?」

「恐ろしい予測を立てますね……」

「そんときゃそんときだ。気にし過ぎても疲れるだけだぞ」


 前向きなのはいいことだが、もう少し警戒したほうがいい気もする。

 ともあれ、翌日からはグルイーザも調査に参加することとなった。

 解散する段階になっても、ミーリットは帰る様子がない。


「あ、私もここに泊まることになりましたので」

「そうなの? 仕事熱心だなあ……」


 貴族が泊まるような宿でもあるまい。

 親父さんの心労が少し心配になった。

 ミーリットは良い意味で貴族らしくないので、そのうち慣れてくれるだろう。

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