◆ ん?絶対味覚?
アウラはコック長達と別れてからすぐに公爵家の図書室に向かった。薬学の図書が並ぶ中から何冊か本を取り出す。
パラパラとページをめくる音だけが静かな図書室から聞こえてきた。真剣な眼差しは周りの事に気を取られる事も無く
「あっ、あった。えーとペンと紙は?」
辺りをキョロキョロ見渡すと図書室の入り口でラティオーが開け放たれた扉の端にもたれ掛かりひっそりとたたずみアウラを見ていた。正直ラティオーはアウラに見惚れていただけだが。
びっくりしたアウラは
「えーと、いつから?そこに?」
ラティオーは全く悪びれる様子もなく
「ん?アウラがここに入ったのが見えたから、それからずーとかな?」
「えっ?そんなに前から・・・何をやっているのですか」
私は左手をおでこに置いてやれやれと呆れていた。
扉から体を離しアウラの隣まで来たラティオーが聞いてきた。
「何を調べているの?」
ラティオーが近づくと甘い香りがアウラを包み思わず照れてしまった。
「あっ、えっとアルボスの事を調べておりました。お父さまの胃の調子が悪いそうなので規定量を調べていました」
「ふーん、それで分かったの?」
この王国一の美しさと名高いラティオーがアウラから目を離さず聞いてくる。
(なんだか最近、ラティオー様と話すと緊張しますね)
心の声にドギマギするアウラだったが
「はい。でも紙とペンが見つからなくて」
ふふっと優しい笑みで教えてくれるラティオー。
「ああ、それなら今アウラが使っている机の引き出しに入っているよ」
教えられすぐに机の引き出しを開けたアウラ。
「あっ、ありました。ありがとうございます」
私はサラサラとペンを走らせ細やかなイラストを添えて樹皮の使い場所を記していった。
「アウラは字も綺麗だしイラストも上手いよね。そうか、確か絵画を嗜んでいたか?」
説明を書く手は止まらず視線は紙に向けたまま返事をするアウラだったがラティオーをずっと直視するのが恥ずかしかった。
「樹皮の説明文だけでは分かりづらいので図解を少し」
徐にラティオーは真剣みを帯びた声で質問してきた。
「そっか・・・ところでアウラ、母上から何か言われた?」
すぐに話の内容を察したアウラが答える。
「・・・。そうですね、私達の計画では弱いようです。しかし今は他に考えも浮かびません。恥ずかしながら私の家族もここ何年と舞踏会に顔を出す事も無かったので最近の流行りには疎いようです。初日に様子を掴む事こそ先決かと考えています。イライザ様にはついでに牽制させていただく所存ですが」
話を聞きながらラティオーは決意を込めたように
「そうか。・・・母上が私に大船になるか泥舟になるかはアウラの支え方次第だと言った。私はアウラにだけ仕事を押し付けるようなことはしないから」
真剣に向き合うつもりだと分かり私はまたもや心が満ち足りラティオーの為に頑張りたいと素直に思える。がしかし
「ラティオー様。舞踏会シーズンは、いわば折角の遠い地の者達と仕事が出来る濃密な時です。私は私のお役目に邁進しますので、どうかラティオー様もご自身の仕事に心を砕いてくださいませ」
ラティオーは感心してアウラを愛おし気に見つめた。
「はあ・・・アウラ。君って・・・分かった。でもやっぱりアウラばかりとはいかないよ。守りたいのだ。大丈夫、私の仕事もきちんとするから」
アウラも愛おしそうにラティオーに応える。
「ふふ。ではお互い支え合いながら頑張りましょう」
私はこの図書室が思いの外広かった事で一つの懸案をラティオーにぶつけた。
「あの、この場所でダンスをしても大丈夫ですか?私・・・ダンスを三年もまともに踊っていないので・・・」
ラティオーは片眉を上げ嬉しそうに微笑んだ。両足を揃え軽くお辞儀をした。左手を宙に上げ右手を胸に当てる。
「アウラ嬢、どうか私ラティオー・ヴィクトルに貴方と踊る栄誉をいただけませんか」
そしてサッと右手を差し出した。
頬を染めながらアウラは軽く横に頭を傾けお辞儀を返した。
そして出された手にそっと自分の手を重ねる。
宙に放たれていた左手がアウラの腰に回され音楽のかけられていない図書室でカウントを取りながらくるくると舞った。
どれだけ踊っていたのだろう・・・
「あっ、メイドのミーナがお茶とお菓子を持ってきてくれるようです」
「えっ?今か?」
コンコンコン。
「アウラ様、お茶をお持ちしました。少し休憩されてはいかがですか」
「ふふ、ミーナありがとう。入って」
私はラティオー様から身体を離し調べ物をしていた椅子に腰掛けた。
ラティオーは直接見たアウラの鼻の良さに心底驚いていた。
「アウラ様、コック長達が調べ物をしてくださるお嬢様を労いたいと特別なお菓子を作ってくれました」
「まあ、楽しみだわ」
私はミーナが淹れてくれるお茶を待って隣に腰掛けたラティオー様と一緒に嗜んだ。
「あら、この焼き菓子・・・ほんの僅かだけど発酵したチーズの酸味があるわね。この甘さは精製していないお砂糖かしら。この小麦は隣国バーレス国産ですね」
「流石はアウラ様ですね。ご名答です」
「アウラは鼻だけじゃないの?舌も・・・もしかして『外さない舌』も持っているの?」
「?その名称は知りませんが・・・鼻が良いのが幸いして確かに料理やお菓子、飲み物等を口にすると味の編成というか組み立てが分かるようです」
ガッツリ固まって理解するより先に声が出たラティオー。
「本当に・・・アウラ・・・君にできない事って何?」
心底驚きすぎて強い刺激が身体中を巡るラティオーだった。
アウラはしれっと真顔で答える。
「私、ピアノや音の出るものは出来ませんわよ?」
「いやいやいや・・・」
このアウラに慣れているミーナと慣れないラティオーの対比は凄かった。
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