◆ あの匂いは
私はお母さまの衣装室で舞踏会での衣装合わせをしていた。
(これがお母さまの着た婚約式のドレスと宝石・・・なんて綺麗で美しいの。やはりお父さまの髪色と瞳の色・・・)
「アウラ、このドレスは黄金色でラティオーの髪色と一緒だわ。だけど宝石がブルーサファイアで合わないわね。ラティオーに合わせるなら・・・このエメラルドが良いと思うの。貴方とラティオーは髪の色も瞳の色もお揃いね。アウラはどう?気に入った?」
「はい!とても気に入りました。大切にお借りいたします」
「あら?何を言っているの?舞踏会シーズンにたった一着で凌ぐつもりかしら?アンナ、私の新しいドレスはアウラには少し地味だから若い頃のドレスと宝石で何十通りか組み合わせを作っておいて頂戴」
「かしこまりました。それではミーナこれからのために一緒に考えましょう」
「はい」
「さて、アウラ。衣装は二人に任せて・・・どう首尾は上々かしら?」
「お母さま、王太子妃テラ様が・・・お姉さまがわざわざ特別な情報をくださいました。抜かりはございません。それにお姉さまから大切なお願いをされたのです。それは・・・これからの幸せを考えると避けては通れない大切なお願いなのです」
「本当に楽しませてくれる・・・ふふ。しかし国王陛下は息子には厳しく教育した割に娘イライザのみ教育不足が否めないわね。先ほどラティオーから三つの作戦があると聞いて精査してみたのだけど。アウラ、残念だけど王女相手では些か物足りないわね。不測の事までもう少し詰めた方が良いわ」
「はい、お母さま。私は舞踏会も今まで出たことが無いので中での様子もこの公爵家に来てから知ることが多いのです。予測がどれほど当たるのか正直不安もあります」
「ふふ、アウラにしては弱気ね」
お母さまは特段困った様子では無くアウラを優しく見つめている。
アウラも不安を口にはしたが落ち着いた態度に変わりがない。
「お母さま、私は初日が勝負だと思います。初日に大凡の様子を探ります。場の空気にも慣れて見せましょう。そして作戦のひとつイライザ様の牽制をまず試みます」
「そう、普通なら一日でなんて無理だと思うのにアウラならやってくれると思えるわ。アウラ、安心して頂戴。私もファーマも貴方の味方よ。テラだって・・・何よりラティオーがいるわ」
「本当にそうですね。ありがとうございます、とても心強いです。私に与えられた役目を果たしてみせますわ」
そうして私は幾つか使用人では分からない事をお母さまに聞いて不安材料を取り除いていった。お母さまは長年この社交界上層を渡りぬいた知恵の覇者なのだ。実母のいないアウラにはこれ以上の社交界での師はいないだろう。
そんな時に・・・
なんだろう?この匂いは?
「お母さま、この匂いはなんでしょう?」
「えっ?何も感じないわよ。アウラ、どんな匂いなの?」
アウラは無意識に左手人差し指がこめかみに触れた。深い記憶を呼び起こす時の受け継がれている癖なのだ。それは亡き母ぺルナ譲りである。
「これは・・・アルボス。アルボスの香り?」
「アルボス?それは何かしら」
「私が伯爵家にいた頃、義母付きのメイドから嫌がらせにスープに混ぜられたことがあって覚えた物です。確か樹皮は薬になりますがとても苦いのです」
「なんで我が家にそんな物が」
コンコンコン。
私の家族のコック長パーニスが扉の外から声をかけてきた。
「アウラ様、ちょっとよろしいでしょうか?」
私は一度お母さまを見て許可を得る。
そして扉を開けると二人のコック長が並んでいた。
「え?・・・どうしたの?」
「あのう、実は俺とこいつが料理談義をしていたら気が合って花を咲かせていたんですよ。そしたらここのご主人様が最近胃の調子が悪いって言うからアルボスを勧めたんです。でも苦くて飲めないって言うんで何か料理に入れてみようと思って厨房にいたんですが煮詰まっちまって。アウラ嬢ちゃん・・・じゃないアウラ様、何か秘策はありますかね?」
「アウラ、厨房からの匂いが分かったの!ここまで?本当に・・・凄いわね」
私はお母さまに照れた顔を見せコック長の相談に思案した。
「お母さま、お父さまは甘いものはいかがでしょうか?」
「そうね、あまり得意ではないわね」
「そうですか・・・」
アウラは左手をこめかみに触れさせ暫し頭の中で料理レシピをフル回転で思い浮かべる。コック長の料理には到底敵わないが素人ながらの奇策なら手が打てるかもしれない。
「コック長、苦いものには苦いものを合わせるのはどうかしら?」
「苦いものですか?例えば?」
「私は以前スープに入れられたけど飲めたものではなかったわ。でも本来の量を調べてお肉とビールを煮込むとかクレソンを入れたレモンサラダにするのも良いのかもしれないわ」
「ああ、なるほど。レモンは苦味を抑えますね。ビール煮込みか。流石はアウラ嬢ちゃんだ。じゃない」
「ふふふ。私は今まで通りアウラ嬢ちゃんで良いわよ。他のお客様がいる時に気を付けてくれたら良いから」
頭をポリポリ掻きながらコック長は苦笑いをした。
「まずはアルボスの規定量を調べてみるわ。私が嗅いだこの匂い分は明らかに多すぎるもの」
「うへっ」
話を聞いていたここ公爵家のコック長はただただビックリ仰天していたのであった。
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