◆ 王太子妃テラ
「貴方がアウラ嬢ですか。ルミナス王国王太子妃テラよ」
アウラは目線を下げ優雅にカーテシーをした。
(まあ、この子・・・アウラはこれで本当に学術院にも通わず家庭教師もつかなかったというの?・・・)
「王太子妃テラ様にご挨拶申し上げます。アルブス伯爵家次女アウラでございます。以後久しくお願い申し上げます」
「ふふふ。そんなに畏まった挨拶だけでもう充分だわ。これからは気楽に話してちょうだい。私の事は『お姉さま』と呼んでね。よろしくね、妹ちゃんのアウラ」
(笑い方や話し方がお母さまのグロリエ様そっくりだわ。それにしてもテラ王太子妃様もラティオー様もご両親の優秀な美しさを継いでいらっしゃる)
「ありがとうございます。未熟者ではございますがラティオー様の早速の御用を片付けておきたいので話せる範囲でイライザ様の事をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「アウラ、早々に本題に入るのね。せっかちなラティオーに天から授かった婚約者だわ。ふふ、でも嫌いじゃないわね。頭の良い子は好きよ。では早速・・・」
私はお姉さまから根掘り葉掘りイライザ情報を集めた。そして王城での私の味方となってくれる事を快く約束してくれた。
限られた時間の中でテラは次代の公爵夫人となるアウラを観察していたが・・・
(この子はいずれ社交界の中心で微笑んでいる姿が容易に浮かぶ聡い子ね。ふふ、果たしてラティオーに操縦できるかしら?)
アウラとは違う頭の良さのテラはこれからの公爵家の未来に安心したのだった。
王太子妃テラは最後にアウラの手を握り一つの願いを口にした。
それは元公爵家の立場でも姉としての立場でもなく王国の王太子妃としての立場での願いだった。
王太子妃が初めて会った令嬢に頼むには大き過ぎる願い事だったがアウラは瞳に強い決意を込めて静かに頷いた。
お姉さまの帰った後、私は連れてきた家族四人を交えて作戦会議を行った。傾向と対策をとりあえず三つの作戦まで考えてラティオー様に報告することとなった。
「早いね・・・流石。アウラと有能な長クラスが集まると、このどれで遂行しても抜け目がないね」
「ふふ。ありがとうございます。ではラティオー様もこの3つの作戦全てを頭に叩き込んでくださいませ」
「・・・うん、了解。それでアウラ、実家の事だけど君がここに来てまだ三週間なのに既に綻びが出始めているよ。長クラスが一気に抜けて伯爵が自ら雇った奴らが軒並み使えない奴ばかりか高い給金を要求されたらしい。今日は私の職場に直接乗り込んで支度金の催促に来たよ」
アウラは恥ずかしさを堪え父の醜態を聞いた。
「・・・どちらの方でしょうか?」
ラティオーは苦笑いで答える。
「王国裁判所の法廷だよ・・・しかも裁判中」
「はあ・・・私の斜め上行く不甲斐なさでした。それでどうなりましたか?」
「私がこれで終わるとでも?アウラの父はとりあえず貴族牢に入っているよ。寧ろ進めやすくなったよね、色々」
少なからずあった親子の情も三年の歳月でカラッカラに擦り切れ同情の気持ちを持ち合わせていないアウラは
「やりますね、ラティオー様。確かに裁判中に無関係の者が立ち入るのはご法度。舞踏会での邪魔が一つ減ったのが幸いですわ」
「・・・アウラ辛くない?実の父だろ?少し戸惑いもあるのでは?」
「いいえ。三年前、私より年上の実子を連れて来た時から・・・そしてこの三年の私に対する態度の数々。ふふ、父に対する親子の情はすり減りこの度の縁談話で愛情などカケラも残っていませんわ」
チクッ!!
(・・・アウラはこの縁談が嫌だったのか!?)
「う、うん・・・そうか・・・それを聞いて安心した。しかし王立裁判所で無くて、もし王城の宰相執務室にアウラの父が入って来ていたら貴族牢では済まなかったな。運が良いのか悪いのか・・・あと、アウラの義母と義姉は舞踏会に顔を出すの?」
「・・・正直、父がいないのなら庶民出のあの二人だけで参加する事は無いと思うのですが・・・厄介ですね。あの二人の対処も私の家族達と対策を練りますね」
今まで楽しく会話していたラティオー様が少し寂しそうに俯いた。
「・・・」
「ラティオー様、どうされましたか?」
「うん、アウラが<私の家族達>と言うのが少し寂しく感じたんだ。私や父上と母上もいずれアウラの家族に入れておくれ」
年上のはずのラティオーが思わず可愛く感じたアウラ。
「ふふ。勿論です」
二人は見つめ合ってクスッと笑いあった。
「ラティオー、アウラ。二人とも応接間に来なさい」
私とラティオー様は使用人を介さず直接呼びに来たお父さまに驚き急ぎ足で向かった。
応接室に入ると部屋中に広げられ山積みにされたドレスの間から母グロリエが顔を出し忙しなく話し始めた。
「アウラ、舞踏会までひと月も無いの。この舞踏会はアウラ初社交の大切な場だわ。そして婚約も公にする時なのに今からでは作ってもドレスが間に合わないわ。アウラ、私が婚約式で着たドレスとラティオーの持っているタキシードで色を合わせてみようと思うの。どうかしら」
「グロリエ様・・・お母さま・・・そんな大切なドレスをよろしいのでしょうか?」
私はお母さまからいただいた、とても大きな温情に感激で一雫の涙が頬を伝っていた。
そんなアウラを愛おしそうに見て
「ふふ。良いわね、これからはお父さまにお母さまと呼んで頂戴。それからドレスも誂え宝石も用意するけど暫くは私が持つ、このドレスの中から好きなものを着なさい。アウラなら大歓迎よ」
「はい!はい、お母さま・・・ありがとうございます」
アウラはこの縁談の話が来るまでにこんな幸せが待っているなんて思いもしなかった。
(ラティオー様の憂い・・・しっかり取り去るわ。テラお姉さまの願いもいずれは叶えて私の家族と公爵家の家族みんなで幸せになるために頑張るのよ。そのためには些細な事も決しておろそかにしない!そして・・・どんな恐怖も恐れないわ!)
私の密かな決心は誰も知らなくて良い。
それがラティオー様であったとしても。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
明日は義理の二人がやってくれます。
なるべく18時投稿を目標に頑張ります。
これからもよろしくお願いします。
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