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◆ アウラの願いと幸せ


 ラティオーはアウラの前で冷や汗をかいていた!

 別にやましい事があった訳じゃない。


「アウラ!止めるのだ!アウラ!」




   ▽  ▽  ▽  ▽


 婚儀を挙げてもう一年になる。

 今アウラのお腹の中にはラティオーとの子がすくすくと育っている。


 そんな大事な時に・・・



 遡ること、今から5ヶ月前にヴィクトル公爵家の領地から執事長セバスチャンの息子が呼ばれた。


 息子のクラウドは20歳を迎えて領地の執事をしていた。


 しかし、あと数年で現当主ファーマとグロリエが王都に構えている別邸から公爵領に帰る際に不備が無いよう父セバスチャンの教育を直接受けるために呼ばれたのだった。


 アウラは5ヶ月前に行った最初の挨拶を思い出していた。


「ラティオー様、お久しぶりでございます。お元気そうでなによりでございます。

アウラ様、お初にお目にかかります。セバスチャンの次男クラウドと申します。以後久しくお願い申し上げます」


 丁寧で穏やかな物腰にアウラは感心させられた。


「アウラ、私とクラウドは幼馴染なのだよ。一つ下の弟のような存在だ。本当に昔から大きな声を荒げることも無いし心根が優しい奴なのだ。よろしく頼むよ」

 

 アウラも一つ頷いて

「アウラです。これからよろしく頼みますね」


 クラウドは明るい笑顔を向けて礼をした。


 その挨拶から5ヶ月が経ち・・・


 ニヤが一足先に母親となりアウラが子を産んだ後に乳母となる事が決まった。

 エンドは我が子が可愛いのか執事長補佐をしつつクラウドが来てくれたことでニヤと生まれた息子ウィスに時間を費やす事ができた事をとても喜んでいた。


 アウラは普段、エンドを介して屋敷のことや自身の物を買う手筈をしてもらっていたが暫くの間は勉強の為にクラウドがその役目を仰せつかる事になった。


 自然とアウラ付きメイドのミーナとクラウドが親しい仲になる事はおかしなことでは無かった。


「ミーナ様、アウラ様の靴のサイズはおいくつでしょうか?サイズ表が見当たらなくて困っております」


 ミーナは話しかけてくれたクラウドに少し緊張していたが苦笑いをして

「クラウド様、私の事はミーナと呼び捨てにしてもらって構いません。様付けは大袈裟ですわ。それとアウラ様のサイズ表は私達家族には必要ないのです」


「家族?でございますか?」


「あ、そうですね。混乱しますよね、ごめんなさい。久しぶりに言った自分も公爵家に来てから忘れていました・・・アウラ様の婚儀前にいた伯爵家からついてきた私とエンド様、ニヤ様、コックのパーニスさんが家族と以前呼ばれていたのです」


 クラウドは得心した。そういえば・・・そんな話を領地で聞いた事があったような


「そうですか。アウラ様の家族の皆様は覚悟を持ってついてお見えになったのですね。それに皆様、とても優秀です」


「えっ?私は優秀ではありませんよ?まだ全然足りないものだらけでお恥ずかしいです」


 ミーナは公爵家に来てから確実に進歩していた。それなのに優秀なアウラと比べては誰も彼も自分の力の無さを嘆かなくていけなくなる。


「ミーナ様は凄いですよ。アウラ様のお側を立派に見守っておいでです。私にも是非、力を貸してください」


 ミーナはクラウドの賛辞に頬を染め

「クラウド()()、私も『さん付け』いたしますので『様付け』は本当にやめてください。ミーナで良いです」


「はは、ではせめてミーナさんと呼ばせてください」


ミーナはクラウドの穏やかな話しぶりに緊張が解けた。

「はい、それなら・・・あっ、アウラ様の靴のサイズですね。それは・・・」



 クラウドはこの5ヶ月で、すっかりミーナの努力家で一生懸命な姿に心を奪われていた。

 くるくると変わる表情がとても可愛かった。良く働く姿も好感が持てる。


 しかしミーナはアウラ一筋なのだ。


(はあ、どうしたら良いのだろう・・・)

 クラウドは自分が公爵家領地に戻る時にミーナを連れて帰りたかった。



 一方、

 休み時間のミーナは庭園でラティオーとアウラの後ろを数歩離れて歩いているクラウドを屋敷の窓から眺めていた。


(今日はお天気が良いから庭園を散策されているのね。

ふふ、クラウド様はお二人の熱々ぶりに困っているようですね)

 

 ミーナは知らぬ間にクラウドを目で追っていた。

 何故だかクラウドの事を日がな一日、何度も思い浮かべてしまう。


クラウドの優しい声

クラウドの穏やかな瞳

クラウドの優しさ

クラウドの佇まい

クラウドの・・・


ハッ!


えっ?

あっ? 

なんで?

これって?

うそ!

もしかして?

私が?

・・・・・・・・・

クラウドさんを?


 両手を頭の上でバタバタと動かし考えを吹っ切った。


 イヤイヤイヤ・・・


 私がアウラ様より優先させる事など何も無いはず!

 そうよ、気の迷いよ!

 うん、大丈夫!

 私はアウラ様が一番大切なの!

 これからもずっと・・・

 一生変わらない・・・


 そこまで考えてミーナは心が寒々しくなり言葉に出来ない悲しみが襲ってきた事に戸惑っている。

 それでも心の中で


 大丈夫、一時この想いを我慢すれば・・・


 そんな事をミーナは考えていた。



 公爵家の王都別邸は広い。

 ミーナ以外の元家族達は小さな家を建ててもらっていた。

 パーニスには小さな平家を、子供が生まれたエンド、ニヤ夫妻には二階建ての家が用意された。


 アウラはニヤ達の家にお邪魔して生まれたての息子ウィスがスヤスヤと眠る姿を見つめていた。知らぬ間に自分の膨らみ始めたお腹をゆっくりと手で撫でている。


「ねえ、ニヤ・・・」


 ニヤはニコニコ笑いながら

「ミーナの恋が実ると良いのですが」


 アウラはやっぱりニヤだと小さく微笑んで

「そうね、でもミーナは私から離れてくれるかしら?」


 そう言いながらアウラの顔は寂しそうな悲しみを湛えている。


 ニヤはアウラの手をそっと握り

「アウラ様、もうミーナを手放す決意をされたのですね」


 アウラは泣きそうな声で

「ミーナに幸せになってほしいの・・・私に尽くす事ばかりでミーナの人生が終えてしまうのは余りに耐えられない・・・寂しいけど・・・悲しいけど・・・それより大事な事は・・・私の家族の幸せだもの」


 アウラは泣いていた。ニヤも泣いている。


「ふふふ、アウラ様。妊娠中は感情が昂ると泣き虫になってしまうそうですよ」


「ねえ、ニヤ。産後は涙脆くなるそうよ」

 

 二人はミーナを送り出す決心をした。


 ミーナを送り出すにはアウラを慕いすぎていたから・・・


 ごめんね、ミーナ。

 ・・・貴方を突き放さなくてはいけないようね。



 それから数日後、ミーナはアウラ付きを外された。


 ミーナは呆然としてメイド部屋の壁をじっーと見つめていた。


 ・・・私の何がいけなかったの?

 アウラ様のお側にいない私に・・・価値なんてあるの?


 ミーナの手中には辞令があった。


 そこには

 ――大奥様グロリエ付き侍女となる事

 と記されている。


 グロリエに仕えることはいずれ公爵領に行くこと・・・

 それはアウラから遠く離れてしまうこと・・・


 ガグガクと震え自然に手中の紙を握りしめている。


(アウラ様!)


 ポタポタと落ちる涙を止められない。


(駄目だ・・・アウラ様が与えてくださったお仕事なのに・・・しっかりしなくては)

 

 鉛のように重たい身体をベッドの手すりを頼りによろよろと立ち上がる。震える指で涙も拭いて部屋を出た時だった。


「ミーナさん!」

 クラウドがミーナに駆け寄った。顔色を無くし、ぼんやりと立ち尽くすミーナに驚きを隠せないでいたから。


 ミーナはクラウドの顔を見た途端、一度は抑えていた涙がとめどなく溢れてきた。

 それでも俯き顔を隠しながら

「だ、大丈夫です・・・ごめんなさい・・・わ、私・・・私・・・」


「ミーナさん!!」

 ミーナはクラウドの腕の中で意識を手放した。



 ミーナが目を覚ますとクラウドがベッドの脇にある小さな椅子に座って優しく手を握り締めていた。

「ミーナさん、水・・・飲めますか?まだ辛いですか?」

 

 優しく囁いてくれるクラウドの声にミーナはまたもや涙が溢れた。

 クラウドの握ってくれる手が冷えた心に微かなぬくもりを分けてくれる。

 

「・・・クラウドさん、私の何がいけなかったのでしょう・・・私の何が・・・まだ努力が足りなかったのでしょうか・・・まだ何か?・・・まだ・・・うっ・・・」


 小さく震えるミーナの手を優しく握りながらクラウドは心痛な面持ちで囁いた。


「ミーナさんは充分頑張っております。ご自分を責めないでください」

 

 今のミーナにはクラウドの言葉が上辺を滑って聞こえてしまう。


「クラウドさん、私・・・アウラ様のお気持ちが初めて分からなくなったのです・・・でもアウラ様にはきっと何かお考えがあるはずです。やはり私の努力が足りなかったのですね・・・また頑張る事にします・・・このままアウラ様と離れてしまう事が怖いのです」


「ミーナさん・・・」

 

コンコンコン

「今、良いだろうか?」


 クラウドはミーナの許可を得る為に顔を覗くとミーナはコクリと頷いた。


「ミーナ、大丈夫か?倒れたと聞いたが」

「ラティオー様、ご心配をおかけしました。大変申し訳ありませんでした」


「やめてくれ、ミーナは良くやってくれている。少し無理がたたったのか。ゆっくり休んでくれ」


 思っていたより顔色が悪いミーナに内心動揺していたがクラウドが側にいたのでラティオーは安息出来るよう足速に去ろうとした。


 しかしミーナが呼び止める。


「ラティオー様、少しよろしいでしょうか?」

「どうしたミーナ?」

「・・・不躾に申し訳ありません。私が何か至らなかったからアウラ様のお傍にいる事が叶わなくなったのだと思います。でも・・・これまで以上に頑張ります!どうかアウラ様のお傍にまた・・・私をアウラ様のお傍に戻してくださいませんか!」


 ミーナの切実な願いにラティオーは心を動かされた。


(アウラは今、お腹に子がいる。それにミーナはアウラの家族だ。一番傍にいたら安心するのではないのか?何故ミーナを離したのだ?)


 クラウドはミーナの気持ちを聞いて自分の気持ちをそっと押し殺した。

「ラティオー様、私からもどうかミーナさんをアウラ様の傍らにいられるようお願い出来ませんか?」


 ラティオーは腕を組んで考える。


「分かった。ミーナ、とりあえず・・・なんとかアウラの側に戻れるよう尽力してみよう」


 ラティオーがそう話すや否やアウラが部屋に入ってきた。


「アウラ?」


 アウラはラティオーを無視してミーナを見つめた。



 その顔はミーナが初めて目の当たりにした冷淡な顔だった。


「ミーナ、行くわよ」

 

 アウラはミーナの手を握り屋敷の外に向かう。


 屋敷中の者が驚いていた!


「アウラ様とミーナさん?」


 そんな目など気にせずズンズンズンと美人が睨みを効かしながら元自分付きのメイドの手を握り屋敷を飛び出した。

 勢いは止まらず庭園の梯子(はしご)が掛かった場所に向かっていた。


 その梯子はこの大きな屋敷の屋根に繋がる場所だった。


 屋敷の屋根修理や煙突掃除の為に登る作り付けの鉄梯子。


 慌てて屋敷中の者が後を追い二人を取り囲んでいる。



 ラティオーは冷や汗をかいて顔面蒼白でアウラを止める。


「アウラ、止めるのだ!アウラ!」

  

 アウラはラティオーの声を聞き一瞬目を閉じた。でも唇を結んでその声に耳を貸さなかった。


「アウラ、止めるのだ!お腹に子がいるのだぞ!アウラ!」


 アウラはラティオーを冷たい目で見ていた。  

 怒っている事が目に見えて分かる。


 ラティオーは止めたくてもアウラの怒りに腰が引けている。


(私はアウラをこんなにも怒らせる事をしたのか?)


 しかしアウラはミーナに言った。


「さ、ミーナ。()()同士の話し合いをするわよ。先に登るわ」

 アウラは鉄梯子に足をかけて登り始めた。


 この公爵家に来る前、実家の伯爵家では掃除のために屋根にもミーナとよく登っていたアウラ。

 

 ミーナはお腹に子がいるアウラが心配で慌てて声をかける。

「アウラ様、おやめください!」


 しかし後ろを振り返ったアウラが声をかける。


「ミーナ、良いから付いてきなさい」

 

 そしてアウラは大声をみんなに向けた。


「未婚の娘のスカートの中を覗く事は許しませんよ!男性方は目を瞑りなさい!」


 ミーナは諦めてアウラの後ろをついて行った。アウラが落ちたら自分が庇うつもりで。



 屋根に上がると、そこは思っていたより平で所々に作業がしやすい様に小さな手すりがあった。

 地上より風が強く感じミーナはアウラが心配になる。


 アウラは広い屋根の上を慎重に歩いて景色の良い所で静かに座った。


「さあ、ミーナも私の隣に座りなさい」


 ミーナはアウラの隣に立つが、それでも幾らかでもと首に巻いていた小さなスカーフを解きアウラに巻いた。


「温かい・・・」

 アウラは喜びを噛み締めていた。

 しかし自分が下した決心でミーナを傷つけてしまう事が正直怖かった。本当はまだアウラも心が揺れているのだ。

  

 ミーナがアウラの隣に腰掛けるの待ってアウラはポケットからハンカチに包まれたクッキーを差し出した。


 ミーナはアウラのように絶対味覚ではない。

 それでも見て分かる。

(ペルナ奥様がよく焼いてくださった思い出のクッキーだ!)


「温かいスカーフのお礼と言いたいけど、泣くと疲れるでしょ。甘い物は元気に()()()助けになるわ」


 ミーナは動揺して震えていた。

「た、旅立つ・・・」


 アウラは何も遮るもののない広い空に顔を向けようやく固い決心してミーナに目線を戻す。



「ふふ・・・

 ここは伯爵家より空が近いわね・・・

 さて、ミーナ」


 そこまで言ってアウラはミーナを強い眼差しで見つめた。


「は、はい。アウラ様・・・」 

 ミーナは自信を無くしアウラの行動に考えが付いていけないでいた。


「ミーナ。ここは天国のお母様に一番近い場所だわ。私ね、お母様に聞いて欲しい事があったの。今から言うからミーナも聞いていて」


 アウラは大きく深呼吸をして

「お母様!私を支えてくれる家族を見つけてくれてありがとう!ミーナというお姉さんを見つけてくれてありがとう!でも・・・」


 アウラは泣いている。

「ミーナを解放したいの!ミーナを・・・ミーナを幸せにしてくれる方に・・・ミーナを・・・」


 ミーナは15歳からアウラの側を片時も離れる事が無かった。

 本当は一つ年下のはずなのにアウラはしっかりしていた。  

 でも誰より努力して心の強いアウラを心から尊敬していた。

 だから自分が只々アウラを慕い続けていけば良いと思っていた。

 

 しかしアウラもミーナを大切に思ってくれていた!

 ミーナは嗚咽を漏らして声を我慢する事が出来なかった。


「ア・・・アウラ様・・・」


「ミーナ、自分の幸せを諦めないで!私は家族のあなたが幸せでいてくれる事が嬉しいの!誇らしいの!だから・・・ミーナを・・・私から解放します」


 いつの間にかミーナの肩を抱いてくれたアウラの両手が震えている。

 公爵家の高い屋根の上は人の目を気にすることなく二人は抱き合って泣いた。



 暫くして落ち着いた頃、アウラとミーナは鉄梯子を無事に降りてきた。


「アウラ!」

「ミーナさん!」


 ラティオーとクラウドが二人に駆け寄る。


 ファーマとグロリエも安堵の息を吐いていた。

 セバスチャンは真っ青な顔をして手に汗を握っていた息子の姿で全てを察した。


 アウラはミーナの背中を押してクラウドの前に立たせた。


 ミーナとクラウドが見つめ合うが何も言葉を発しない。

 

 するとセバスチャンが

「クラウド、私は貴方に教えた筈です。レディーは例え王国の姫君でなくても誰もがお姫様なのですよ。貴方がやる事は一つです」


 言われたクラウドは意を決した瞳をミーナに向けた。


 クラウドは片膝を突いてミーナを見つめた。

 そして・・・そっとミーナの右手を両手で包み自分の額に当てた。


「ミーナさん、私は貴女を愛しております。貴女のひたむきに努力される姿、主人のアウラ様を大切にされるお姿・・・その全てを愛おしく思っております・・・」

 そして立ち上がりミーナの目をしっかり見つめ言葉の続きを話すクラウド。


 屋敷のみんなは固唾を飲んで見守っている。

 アウラや家族達は泣いている。


「貴女の大切なアウラ様から・・・貴女を離してしまいます・・・しかし・・・どうか私と結婚してください」


 ミーナはクラウドの瞳の中に映る自分が不思議で仕方がなかった・・・


 咄嗟にアウラを見た。


 アウラがそっと頭を一つ下げ頷いた。


「ミーナ、いってらっしゃい」


 ミーナは涙を流しながらアウラに頷いてクラウドを見た。


「クラウドさん、私も愛しています。どうぞよろしくお願いします」


「「うわー!」」

屋敷中から歓声があがった!


 ラティオーはこんな時にも恋愛初心者感が拭えない。

 全く気付いていなかった出遅れ感に気まずい思いでアウラを見た。まだ冷や汗は止まらないなりにアウラの涙を拭いていた。


 あれから数ヶ月経ちラティオーとアウラに天使の双子が舞い降りた。

 この王国で双子は幸運の吉兆とされヴィクトル公爵家の繁栄を約束されたと国中から祝福された。


 でもラティオーとアウラはそうは思わない。

 どんなに幸運とされようとも驕りや傲慢はあってはならないのだと、いつでも自分達の行いひとつで背中合わせの不幸が襲ってくる事を知っている。

 だからラティオーとアウラはこの子達と領地の民・・・自分達に関わった全ての人を幸せにする努力は惜しまないと誓うのだ。



  ▽  ▽  ▽  ▽


「全く、領地に帰るのが一年以上も遅れてしまったな」

 ファーマとグロリエは明日の旅立ちの前夜を家族達と過ごしていた。


 グロリエは

「私はまだ領地に帰りたくないわ・・・カルディーとアモと離れたくないもの」

 そう言いながら孫達をあやしている。


 ラティオーは呆れながら

「先に帰ったクラウドとミーナの婚儀がもうすぐあるでしょう?近いうちにみんなで領地に行くから」 


 一歳を過ぎて快活なカルディーがつかまり立ちからベビーベッドの柵を乗り越えようと足をかける。しかし真っ逆さまに沢山のクッションの上に転がり落ちた。

 


 それを見ていたグロリエとファーマが突然に噴き出した。


 アウラがどうしたかとキョトンとしている。


「いや、カルディーがヤンチャでラティオーの子供の頃を思い出したのだよ」


「ふふふ、アモはアウラに似たのか女の子らしく大人しい。でも主義主張をする、おませさんだけど・・・カルディーは元気だけが取り柄の誰かさんにそっくりだわ」


 ラティオーは慌てて反論する。

「何を言うのですか?私は昔から立場を弁えた行動が出来ていましたよ、母上」


「いや、そういえば昔家族で行った王立植物園で迷子になって大変だったなぁ」

 ファーマはニヤニヤとラティオーを揶揄(からか)うのだがグロリエも積極的に話を合わせる。


「ふふふ、そうね。大好きな父親が久しぶりに一緒にいたのが嬉しかったのか全く言う事を聞かずに挙句の果てに迷子になるのですもの」


 アウラは思わず口の中でポソッと呟いた。

「王立植物園・・・迷子・・・」


 グロリエは続けて話す

「その時にね、とても美しい親子が声をかけてくれたの・・・ピンクの薔薇の・・・」


 するとアウラが

「ピンクの薔薇の花壇のところに皆さんと同じ匂いの子がいるみたいです・・・と、言いましたね・・・私・・・

 あの時の子はラティオー様だったのですね・・・」


「えっ!」

 ラティオーはあまりの事に驚嘆してアウラを見た!


「私は3年前より・・・その遥か前からすでにアウラに助けてもらっていたのか!

 ・・・

 そうか、アウラとはやはり何かの縁があったのだ・・・そうだったのか」

 ラティオーは運命の絆だったのだと感動している。


 

 グロリエはアウラの記憶力に今更ながら驚き入るが


「アウラ、貴女が愛おしいわ。だから・・・いつまでも笑っていてね・・・」


 それは沢山の思いを込めた祈りにも似た言葉だった。


 アウラは瞠目して言うまでもないと・・・


(私は幸せですよ・・・)



 美しく可憐な笑みを向けたのだった。








最後まで読んでいただきありがとうございました。

なんとか納得する形で書ききることが出来ました。

本当に沢山の方に読んでもらえてこんな幸せがあるなんて・・・


書ききれない位伝えたいです。

「本当に本当に心からありがとうございました!とても嬉しいです」



またいつか次回作をよろしくお願いします。

楽しく読んでいただけるように頑張ります。


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そしてこれからの励みになりますので

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いただければ幸いです。

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[良い点] すごい読み応えあった、面白かった
[良い点] 読み終わった後に、良い小説を読ませて頂いたなぁと、心から笑顔になる作品をありがとうございました。 最近は、なんとなく100話以上続く小説は敬遠している(作者様が途中迷走されお話が逸れていく…
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