閑話 全ての断罪が終わったはずの・・・その後
こちらの閑話は今までと文体が変わります。
暴力的な表現もあります。
苦手な方は外伝からお読みください。
――私はアベオ。
このルミナス王国の若き歴史学者さ。
現国王陛下よりルミナス王国の歴史として世代交代の行方を調査し纏めるようにと仰せつかった。
興味深いことにアウラ・ヴィクトル公爵夫人が全ての調査対象と関わっていたようだ。
さて、私の調査書を所管する機関に提出する前に最後の確認を皆にしてもらうとするか・・・
考察:--こんなはずじゃなかった!とは?
◆ 元アルブス伯爵家族についての調査
まともな金も何も持たないアウラの元家族は王国を出てからすぐ隣の国で暮らすことになった。
小さな貧しい国だった。あえて貧しい国が選ばれたと言った方がいいだろう。
隣国とはいえ言葉が通じないイドラが貧しい国で職を見つける事は困難を極めた。
イドラはこの国の職を紹介する場所で自分を売り込むが全く相手にされない。
プライドだけは高いイドラは
「俺の価値が分からない所では働けんな!」
と一蹴した。
しかし今日明日の食費に困るイドラはなけなしのプライドをかなぐり捨てて頭を下げる羽目になる事に3日も掛からなかった。
--何でこんなことになったかって?
Q. アウラに愛情ひとつもかけてやれなかったからか?
A. でも叩いたり飯を食わせなかったりした訳じゃないぞ?
Q. 伯爵家でただ金を使って努力しなかったからか?
A. しかし後継者を産ませてやったぞ!
イドラは相変わらず本当に分からない。
答えは出でいるはずなのに目を瞑って見ないようにしている。
・・・俺は悪くない・・・
元義母マリーは小さな食堂の皿洗いをしていた。元庶民出が雑草根性を発揮している。しかし足元を見られ安くこき使われていた。
--何でこんなことになったのかって?
Q. アウラに罪の意識ですって?
A. ある訳ないじゃない!
私たちは何も悪いことなんて
していないのよ!
死んだ前妻が憎い!
あの女が産んだアウラが憎い!
アウラ許さない!
あいつが私たちの幸せを奪ったのよ!
絶対泥水なんて啜らないわ!
意地でもね!
マリーは反省どころか益々アウラへの恨みを募らせていた。自分達こそが幸せであるべきだったと今でも本気で思っている。
・・・私は悪くない・・・
元義姉フローラは酒場の女中としてフロアで酒や肴を運んでいた。
「フローラ、こっちに酒を持ってきてくれ!お前が運んだものが良いんだ」
「フローラ、こっちにも!」
「フローラ!」
「フローラ!」
元貴族出身と噂の若い娘フローラは人気が高かった。男達がフローラをギラギラとした目つきで身体中を舐め回すように見ていたとしても・・・それが例え似非な持て囃しだったとしても・・・
フローラは気付きもしない。
ああ、私は本来こうあるべきなの。
私の美しさに男達が色めきだっているわ。
ホホホホホ・・・
ここが私の天職の場だったのよ!
所詮アウラは一人の男にしか
振り向かれないじゃない!
私はアウラとは違うのよ!
ホホホホホ
しかし隣国に来てたった3ヶ月で上辺だけの家族の関係に綻びが出始めたのだ。
それは一向に職が見つからないイドラに我慢が抑え切れなくなったマリーがとうとう感情を露わに怒鳴りつけた時だった。
「イドラ!少しは働いたらどうなのよ!この役立たずが!」
マリーから罵られようとイドラはベッドの中で汚れたシーツに包まり微動だにしない。
不甲斐ない父親にフローラはため息を一つ吐き呆れ果てながら蔑すむ声を上げた。
「お母さま無理よ。こいつはダメ。口ばかりで結局何も出来ないんだもん。私達が働いた金でただ生きてるだけなのよ」
シーツの中で微動だにしなかった筈のイドラの指がピクリと動いた。
あれほど可愛がっていた娘からの罵声はイドラの苛烈な怒りに火をつけたのだ。
ベッドから勢いよく飛び起きるとフローラの髪を掴み壁に叩きつけた。
「たかだか飲んだくれの集まりでチヤホヤされた位でいい気になるなっ!」
肩でハアハアと息をするイドラは次にマリーに狙いを定めた。
勢いが止まらないイドラはマリーの胸倉を掴み血走った目で怒鳴る。
「俺様に一体どの口がほざいている!娼婦のお前が!この卑しい身分が!」
マリーも黙ってない。
「はぁ?今なんて?あんたは、その娼婦から慰められて今まで生きてこれたんじゃない!」
イドラは怒りに任せググっとマリーの胸倉を持ち上げる。
「うるさい!
はは、俺が知らないとでも
思っているのか!?
お前がいた最下層の娼館は
ただ身体を売るだけの
最低の場所だってな!」
「馬鹿じゃないの?そんなとこに
来ていたあんたも最下層じゃないの!
それこそ・・・ぐっ!!」
マリーはイドラに首を絞められた。
壁に叩きつけられたフローラがイドラを止める。
「ちょっと!やめなさいよ!」
それでもイドラの力は緩まない。
「教養を待たないお前のせいで!
・・・ぐっ!
たかが場末の娼婦のくせに!
・・・
高級娼館では働けぬお前を
拾ってやったのに!クッ!
恩を忘れたこの馬鹿女が!
お前のせいで
・・・
俺の人生が狂ったのだ!!」
イドラはマリーの首を絞めながら恨み言を吐き出し手元の力は尚一層強まった。
マリーが苦しそうに呻きイドラが締め付ける手をガリガリと引っ掻いていた。
「ふっ!うっ!・・・」
フローラは絶叫する!
「やめなさいってば!!」
気がつくと手元の椅子を持ち上げイドラの頭めがけて力一杯に振り下ろしていた!
「ッ!」
大きく飛ばされたイドラは口から泡を吐きピクピクと動いていたが・・・やがて微動だにしなくなった。
マリーも既に事切れていた--
ドンドンドン!!
「どうした?すごい音がしたぞ!開けるぞ!」
フローラは部屋に雪崩れ込んでくる男達を呆然と見ていた。
「お前が殺したのか?」
それからはあっという間だった。
二人の遺体を見た大家はフローラの頭の先から爪先まで上から下に視線でひと舐めして小声で囁いた。
「この貧民街では裁判なんて上等な事はしないんだ。お前はただ遺体を片すための金を寄越せ」
「そっ、そんな・・・私にはそんなお金なんて無いです」
大家はそんな事は承知していた。だが金の匂いを無駄にする気なんてサラサラ無い。
フローラは大家から請求された遺体を始末するための金の要求に応えらる事が出来なかった。
父親殺しのフローラは死んだ母親と同じ最下層の裏路地にある娼館に売られた。
ただ身体を売るだけの・・・
元貴族とは名ばかりの教養も何も持たない娘の末路だった。
いや、母似の豊満な身体と男を誘う艶っぽい唇だけは持っていたか・・・
--何でこんなことになったのかしらって?
元はと言えばアウラが私達を
この国に追いやったから
そうよ、
私達をまるで悪者みたいに追いやった
アウラが悪いのよ!
アウラが憎い!
Q. アウラに対して反省?
A. あはは、する訳ないじゃない!
全く馬鹿げた質問ね。
ああ、客が来たわ。
酒場の男達が私を求めるのよ
お母さまがやっていた仕事よ
私にも出来るのよ・・・
そう・・・
私は娼婦から生まれた娘・・・
アウラ・・・
あなたには出来ない芸当でしょう
・・・違う、あいつは
アウラはする必要が無い・・・
あいつはいつも私を心の中で
見下していた・・・
だから少しくらい苛めて何が
悪かったって言うのよ!
・・・私は悪くない・・・
こんなはずじゃなかったのに・・・
◆ 本題:元国王陛下と元第二王妃の調査
サリュー山荘は罪を背負った王族が幽閉される場所。
その先に待っているのは・・・毒杯を賜る事のみ。
しかしそれがいつかは分からない。
皆から忘れ去られた頃にひっそりと行われるからだ。
簡素な服で山荘の中をゆっくり散歩する。
もう髪も随分と切っていない。
散歩から帰ると決まった場所に向かう。
元国王陛下はひたすら己の罪と向き合っていた。
浅く腰掛けた椅子で身体を前のめりに傾けてぐしゃぐしゃと髪を掻き乱す。
(ああ、時間だけはある・・・
公務も執務もない・・・
私には反省の時間だけがある・・・)
私は・・・己の・・・
した事と
しなかった事を
考えていた・・・
ハハハハハ!おかしなことよ・・・
どちらも罪ではないか!
Q. 私のした事は
A. 第一王妃・・・妃にした裏切り
第二王妃を娶らなければ妃は妃と呼ばれるだけで良かった
第一王妃と言われる事は屈辱の何物でもなかったではないか!
確かに幼き頃から努力し支えてくれた妃を私は簡単に裏切った
自分の欲を優先させた・・・
ああ、何故・・・
私はあの時、第二王妃を
連れ帰ってしまったのだ?
この見目だけの・・・
心が醜悪な第二王妃を・・・
Q. 私がしなかった事か
A. イライザを本当の意味で・・・
育てなかった事
妃の子達は皆優秀に育った。私も厳しく接した。子など簡単に育つと私は驕ったのだ!だから余計にイライザには闇雲な愛情ばかりを注いでしまった。第二王妃までもイライザを甘やかし心が捻じ曲がった悪魔を育ててしまった!
ああ、私は国王として
幾つもの貴族を潰し王太子に
ツケを払わせてしまった!
ああ、もう一度過去に
戻る事が出来るのなら・・・
今度こそ妃と絆を深め
愛情を育てるのに・・・
第二王妃など連れ帰らない
妃が恋しい・・・
妃に会いたい・・・
私は妃を愛していたのか?
そうだ!
愛していた!
愛していたのに!
なんてことを!
今頃?・・・
今更?・・・
もう遅い・・・
私の中にあった筈の
確かにあった筈の
妃の温もりは
もうどこにもないのか・・・
こんなはずではなかった・・・
すべては私のせいなのだ・・・
◆ 第二王妃
イライザがいなくなったのは痛手だわ。教養も無い子爵出の私なんか王家では肩身が狭かったのよ。陛下の寵愛とイライザがいた事が第一王妃より優れた私の強みだったのに。
あの子は陛下の気を引くのに重宝したのよ。
それにしても、この辛気臭い場所は何?
国王陛下が第一王妃との三人対話から冷たい態度を取るようになった事も許せないわ。散々、私を弄んで今更ながら第一王妃に未練タラタラなんてふざけているの?
Q. 国王陛下を愛しているのかって?
A. 私を勝手に王家に連れてきたくせに
愛もクソもないわ。
でもお金があるって素敵よ。
好きな宝石もドレスも思いのまま
なのですもの。
はぁ、それがこんな落ち目に
なるなんて・・・
Q.イライザを失って悲しいか?
A.あの子のせいでこのザマだわ!
折角、お腹を痛めて
産んであげたのに
恩も返さず不義理な子だったわ
・・・でもそうね、
アウラだったかしら?
一番の元凶はあの子よね?
私をこんな場所に閉じ込めたのも
イライザを王家から葬ったのも・・・
そうよ、そうだわ
あのアウラのせいじゃない!
許せない!
許さない!
でもここではもう
手出しも出来やしない
ああ、過去に戻れるなら・・・
アウラを知ったあの日に
殺しておくべきだったわ
Q. 過去に戻れるならイライザの教育に力を入れたら良かったって?
A. そんなの無理よ。
だってあの子は・・・
人の話は聞かないから・・・
アハッ私の子よ?
それから数年後・・・
「やっとか・・・」
元国王陛下は安堵した顔でげっそりと痩せ骨の浮き上がった両手で静かに毒杯を賜った。
「えっ?・・・毒?」
それを見ていた元第二王妃はガクガクと震え驚き逃げ回る!
「いやよ!やめて!離して!」
見苦しく暴れても騎士達が押さえ無理矢理に口をこじ開ける。
そして毒杯を無理やりに飲まされた。
もがき苦しみ薄れゆく意識の中で思うのだった。
嫌だ!死にたくない!
何でこんなことに・・・
・・・私は悪くないわ・・・
こんなはずじゃなかった・・・のに・・・
5年の歳月をかけてルミナス王国の突然の世代交代の原因を丁寧に追うことを命じられた歴史学者アベオは時折、当事者達の質疑応答もさせてもらっていた。
残念ながらイライザの事は国家間の問題で調べる事は出来なかった。
イライザが16番目の妾として送られたドーバー王国は別名『欠陥王女の墓場』と言われている。それは言ってみれば掘り下げてはならない暗黙の了解なのだろう。これからの課題として長い目で追っていこうと思う。
しかし思うのだ。
いつの時代も自分の欲を抑えられず驕り高ぶった者に明日は無いのだと。
それは時の権力者でさえも同じ事。
―― どうしてこうなったのかって?
答えはお前達が隠し持っている
本質じゃないのか?
そうさ、
答えなんて既に・・・覗き込んだ
心の中にあるじゃないか
読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
外伝は一時間後の19時に投稿します。
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