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◆ アウラのその先とイライザのその後

◆ アウラのその先とイライザのその後



◆◆ アウラ


 ここは隣国国境の目前に建てられた監視を兼ねた小さな古城だ。


 アウラとラティオーは簡素な部屋でこれから連れて来られる元家族を待っていた。


 新王が誕生する恩赦のおかげで貴族牢から出る事は出来たが、ただ平民でいる事は叶わない。元家族は国外追放となったのだ。


 アウラは元家族の隣国行きの立会人となった。この簡素な部屋で最後の書類に名前を書いたら、もうこの地に足を踏み入れる事は生涯叶わなくなる元家族。


 ラティオーはアウラのことを気にかけるが当のアウラは全く以て平静である。


コンコンコン。

「元アルブス伯爵家の者達を連れて参りました」


「通せ」

 ラティオーの一声のみ。


 びくびくと入って来た元家族達は平民の着る質素な格好で義姉と義母は肩のすぐ下まで髪を切られ荷物は最低限のみといささか心許ない姿で現れた。

 元家族は部屋で待っていた、上品なドレスを纏い美しい佇まいのアウラに思わず息を呑んだ。


 ラティオーは書類を机上に並べてサインをするように促した。

 元父親のイドラは 虚な目で書類に目を通してゆく。義母と義姉はお互いが肩を寄せ合ってアウラのオーラに未だに信じられない目を向けている。


 しかし元家族達はどうして自分達が貴族籍の剥奪と国外追放等という重い罪に至ったのか分からないでもいた。

 書類に目を通していた元父親が怒りの声を漏らした。

「アウラ。お前自分ばかりが幸せなら良いのか。これがお前の家族にすることなのか」


 イドラは一見して益々死んだ妻に似た美しさと自分達を破滅に追いやった手腕にアウラとアルブス伯爵家への劣等感を込め恨み節の声を上げた。


 それに対しアウラは無感情に答える。

「その答えをお望みなら・・・そうなのでしょう。しかし私一人では無く公爵家の家族達と幸せになるのです。その幸せの中に貴方達はいません」

 答えた後アウラはイドラに目線を合わせたまま隣にいるラティオーの手をしっかり握っていた。ラティオーもアウラの手を力強く握り返す。

 元父イドラはアウラの言葉に傷ついた顔をして次の言葉が出なかった。


 しかし義母と義姉はアウラに一言申してやらねば感情がおさまらなかった。

「何ですって!この恩知らずが!私たちのお陰で貴方は母親が死んだ後も生きていられたのよ!」


「そうよ!貴方なんか死ねば良かったのよ!」


 目線を元父から義母と義姉に移すが無感情な顔を崩さないアウラ。


「ふふ、本当に久しぶりに聞く戯言ですこと。相変わらずな実のない会話もこれが最後となりましょう。これからは隣国で言葉も分からず長年貴族の端くれの生活をしていた貴方達にドブの水を啜る事が無い事を祈っておりますわ」

 

 元家族達はアウラの本来の恐ろしさを甘く見ていた事に今更ながら気がついた。


 これがアルブス伯爵家の本来の気性なのか・・・

 


 ラティオーは初めて会った時のアウラの言葉を思い出していた。

〈成人した暁には自分の手で復讐しアルブス伯爵家を取り戻す〉そう言ったアウラのあの言葉は真実だったと改めて思った。


――アウラなら可能だった


 アウラという女は味方なら最強だが敵になった時の恐ろしさを改めて思い知った。

 私は決してアウラを怒らせない!

 決してアウラを裏切らない!

 固く心に誓うラティオーだった。



 アウラはこれから先の未来へ向かう心の整理に元家族の制裁を避けては通れなかった。 

 全てが自分の思い通りではなかった


 思い描いていた復讐では無かった。

 

 しかし確かに自分の手中に家門を取り戻すことが出来た。


 そしてラティオーという愛しい婚約者が現れた、嬉しい誤算・・・


 私はこれでやっと

 これから先に進んでいけるわ


(お母様・・・これで良かったのですよね・・・)


 心の中で亡き母ペルナが優しく微笑んだ気がしたアウラだった。


挿絵(By みてみん)

   


  策略中のアウラ


  


  挿絵(By みてみん)


 

◆◆ イライザ


 元王族を乗せているとは思えない酷く古い馬車に監視護衛に囲まれたイライザがいた。

 6人乗りの馬車のはずなのだが荷物も多く4人も入ればかなり狭い。


「痛いわ。横になりたいわ!」

 あの性格が早々に直るわけもなく監視護衛達を睨みつけている。


「もうあれから20の日が過ぎているのよ!いつになったら着くのよ!」

 こんなイライザのヒステリーにも監視護衛達は冷静に対処している。


 国境付近独特の騒がしさが馬車の中にいても聞こえてきた。

「そろそろか」

一人の監視護衛が馬車から降りた。

 それは最後の国境ドーバー王国目前。今まで3つの国の国境を超えてここでやっとドーバー国に引き渡すことになる。

 国境の先にはドーバー国の兵士たちが待ち構えていた。国王の女癖の悪さで他国の訳あり王女の引き取りには慣れているらしい。


「この女がイライザか?」

「そうだ。とんだ悪女だよ。右腰に刻印が入っている」

 不勉強なイライザはドーバー国も近くの隣国の言葉すら分からない。

「何を話しているのよ?」


 ドーバー国の兵士はイライザに興味なく

「ほう。じゃじゃ馬か・・・いつまでもつかな?」


 イライザの監視のためにドーバー国まで連れてきた一人が最後の言葉をかけた。

「イライザよ。今までお前が乗っていた、この馬車の中が最後の安らぎの場だったとならぬよう努力せよ。このままではお前の安息は永遠に訪れないだろう」

 そう言い残しイライザの背中を軽く押して国境を渡らせた後に監視護衛達は国に帰って行った。


 自国の護衛達が帰り捨て置かれたイライザは困惑で立ちすくんでいた。ドーバー国の兵士に向かって命令する。

「貴方達、私は怪我をしているの。早く城に連れて行きなさい」

 しかしドーバー国の兵士はイライザの首に首輪を着けた。


「何をするの!外しなさいよ!無礼よ!」

 その途端、

バチーンと頬を叩かれるイライザは地面に飛ばされた。


「勘違いをするな、お前はもう無傷の王女ではないのだよ。腰の刻印は所謂犯罪人。我が国王の食指にも上がるまい」

 わざわざイライザに分かるように訳しながら話す兵士に


 イライザは叩かれた頬に手を当て震えながらも反論する。

「私は王女よ・・・こんな事をして、貴方どうなっても知らなくてよ!」


 イライザの首輪を片手で持ち上げて

「ククク。馬鹿か?あんたはもう王女でもない。国王より上物なら城に連れてくるよう仰せ付かったが・・・お前では駄目だ。ま、多少の金にはなるか?」


「え?・・・私では駄目?」

(どうしてこうなったの?・・・私はこれから?・・・)



 それからイライザはドーバー国王に献上されなかった。


 途中で逃げて行方を(くら)ました。

(という事になったらしい)


 しかしドーバー国王は傷物の娘など全く興味がないので捨て置いた。

(これは本当らしい)



 ドーバー国の娼館で腰に印刻の入った娘がいると風の噂が立ったが、いつしかそれは自然と消えた。

 


 イライザの行方は分からない

 







最後まで読んでいただきありがとうございました。本当に励みになります。


明日が最終話です。

少しの感傷と明るい未来を感じてもらえたら何より幸せです。


楽しく読んでいただけるように頑張ります。


よろしければブックマークの登録と高評価をお願いしますm(__)m。


そしてこれからの励みになりますので

面白ければ★★★★★をつまらなければ★☆☆☆☆を押して

いただければ幸いです。


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