◆ メリサの禊と新しい家族
公爵家が王城での決戦の場で対峙していた頃、留守を預かるメイド達の中でメリサはニヤと対峙していた。
公爵家のメイド達はメリサの事情を聞き誰一人悪く思う者はいなかった。日頃のメリサの仕事ぶりは評価に値し常日頃から気にかけてもらっていたメイド達は逆に気の毒にも思っていた。
しかしメリサはニヤに
「ニヤさん、私はメイド長ではいられません。私のした事はどんな事情があろうとも許されることではないのです。どうかニヤさんが新しいメイド長となってくださいませ。私は誠心誠意ニヤさんをお支えします」
ニヤはニコニコ笑いながら
「お断りします」
サラリと言いきった。
周りで聞いていたメイド達は目を剥いてビックリしていた。
「メリサ様、いけませんね。まだ驕っておいでですか?私は反省しましたのに。ふふ」
「えっ?」
「メリサ様が決める事ではありませんわ。公爵様が決める事です。私達は公爵家の者です。この公爵家の行く末に一番良い選択を公爵様が成されます。それをお支えするのですよ。私を支えるだけではメリサ様の力が勿体無いですね。ふふ」
メリサは納得できるがそれでも言葉を発しようとする。
執事長補佐のエンドが
「メリサ様、ここまでです。公爵家の皆様がお戻りになります」
手の空いたメイドや使用人達が公爵家の家人たちを迎えに玄関先に赴く。
公爵家の門扉を馬車が通る。いつもなら一台の馬車なのだがその後を続くもう一台の馬車。
いきなりの客人かと使用人達に緊張感が走った。
馬車から降りたファーマはメリサを呼んだ。
いつものように落ち着いた態度で主人の前に控えるメリサ。
次の馬車から一人の女性が降りたった。
メリサはその顔を見て驚いた。
そしてその女性に続いて一人の男性が降りた。
男性の茶髪の癖が懐かしかった!メリサはたちまち号泣した。
「ハロルド!!」
メリサはもつれそうになる足をなんとか動かしハロルドに抱きついた!
メリサは人目も憚らずハロルドの生きている喜びに・・・また会えた嬉しさに耐えきれず慟哭した。
ハロルドに同行していた女性がしばらく待って声を掛けた。
「メリサ様・・・お久しぶりでございます」
久しぶりに聞くかつての自分の下にいた侍女の声で冷静さを取り戻し、まだ涙の乾かないメリサは少し心が落ち着いた。
「・・・ジルさんこそ。何故ハロルドと?」
ジルは少し頬を染め
「あの王城でイライザ王女の隠し牢でハロルドさんの世話を命じられていました。少しずつ心を通わせていたのです」
ハロルドが続きを話す。
「イライザの目を盗み私の後を追いかけ金山のメイドとして側にいてくれました」
状況が飲み込めないメリサはいつもの冷静さを少し欠いていたようだ。
「イライザ王女はどこにハロルドを隠していたの?」
「メリサ、話が長くなりそうだ。宅の応接間で続きを聞こうじゃないか」
ファーマの温かい提案に皆が笑顔で頷いた。
部屋に入り馥郁たるお茶にみんなの心が和んだ。そして先陣を切ってファーマが話し出す。
「先ずイライザは本日裁きを受け王家の籍を抜けた。王女と呼ぶこともないだろう。そしてメリサの約束を果たしたぞ。不当な金山への奴隷送りを知っていて受けた者も処罰した。イライザの指示で何人もの罪なき人が金山に送られた。それをただで受けこき使った後にイライザに金を送っていた領主が先程地下牢に送られたのだよ」
少し噛み砕いてラティオーが補足する。
「アウラがイライザと金山管理の男爵家の僅かな矛盾を掘り返したのが功を奏したのだ」
そのラティオーの言葉をもっと詳しくアウラが補足した。
「あの帳簿はわざと小難しく項目を増やしていたのです。我が王国の官僚は男性ばかりですから女性物の小さな返金の流れも逆に大胆な男爵家の付き合いも寧ろ気付きにくかったのかも知れません。王家の管轄する金山を預かる爵位の低い男爵家に官僚たちの目が甘くなっていたのでしょう」
「公爵様、それでは・・・ハロルドはもう自由の身になったのですね・・・ありがとうございました」
メリサは小さな肩を揺れ震えさせながら涙を流していた。
そしてハロルドが静かに顛末を話す。
「イライザが私を使って姉上の自由を奪っていた事が許せなかった。3か月ほど前・・・私は口を閉ざしたのです。あの女の話に一切反応する事を止めたのです。すると片目を潰され王家管轄男爵領の金山へ奴隷送りになりました。でも私はそれで良かった。これで、もう姉上を自由に出来ると思ったのに・・・それなのに後を追いかけて来たジルから引き続きイライザの指令を私の為に受けていると聞いて悔しくてなりませんでした」
「ハロルド、私こそ・・・私のせいで貴方の大切な時を牢の中に閉じ込めてしまった・・・」
「メリサ様、その点は私がいたので大丈夫でございます。ね、ハロルド様」
「うん、そうだね。激しい折檻の日もよく効く薬を王家からくすねて用意してくれたんだ。食事の面でも王家の調理場を漁りゴミ箱も漁り私の腹を満たしてくれた」
皆は微妙な補助だと思ったが二人が幸せならそれでいいと思い和んでいる。
メリサはジルに感謝し心からの礼を言った。
「ジルは明るいだけが取柄だと思ったけどそんな立派な立ち回りをしたのね、本当にありがとう」
ジルの手を握りメリサは深く頭を下げた。
微妙に誉めていないがジルも喜んでいるのでこれで良いのだろう。
公爵家の者はイライザの沙汰で疲弊していたのでこの緩いやり取りが救いのように感じていた。
公爵が突然話し出した。
「さて、一通り話は終わったか?積もる話は後で勝手にやってくれ。・・・今から大切な話がある。私はあと2年で隠居しようと思う」
「「えっ!!」」
屋敷の者全てが固まった。
ラティオーとアウラすら驚いて声も出ない。
「ははは。この公爵家にこれからを担える家族が増えた。ラティオーには過ぎるほどの宝のアウラがいる。最高の妻になるだろう。これから婚約し、いずれ婚儀をあげても2年も有れば引き継ぎも出来よう」
「父上、宰相も辞するのですか?」
不安げに聞くラティオーにファーマは檄を飛ばす。
「お前は良くやっている!私はお前を信じているのさ。それにもうお前の隣にはアウラがいるだろう」
アウラはすぐさまファーマやグロリエの目を見て決意表明してみせた。
「お父さま、お母さま。私はラティオー様とこれからも真摯に向き合い幾久しく公爵家を盛り上げてみせましょう。お約束いたします」
アウラの決意を聞いたファーマとグロリエは満足そうに頷いた。
グロリエはファーマの手を握りながらアウラを見た。そして話を聞く全ての使用人に目を向ける。
「まずはラティオー。貴方はもう少し落ち着きなさい。早く行動を起こす事とせっかちは違いますよ。そしてアウラ、あなたは才能に溺れず努力が出来る子だわ。ただ肩の力が入りすぎるきらいがあるから長い人生で休む事も覚えなさいね・・・最後に話は変わるけど私達が隠居し領地に帰る際にはセバスチャンとメリサ、ハロルドとジルを連れて行くわ。アウラの家族達・・・いいえ私たちの家族達、公爵家の行く末に力を貸してね」
アウラの連れて来た家族達4人が・・・もとい公爵家の家族達になった4人が一斉に頭を下げ忠義を示した。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
明日、最後のざまぁが待っております。
あと2話となりますが最後までお付き合いくださいね。
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