◆ やっぱり試されますよね
夜分遅くにヴィクトル公爵家に到着したアウラと四人はとりあえず各自が客間に通された。
アウラは腹を括っていたので静かに寛いでいた。
しかし連れてこられた家族の四人は恐縮して使用人部屋を使いたいと申し出た。
コンコンコン。
「はい、どうぞ」
私は扉を開けた。
「やっと、家族の皆さんが矛を収めてくれたようだ。アウラ嬢の家族達は慎ましい場を弁えた立派な人たちですね」
「ご迷惑をおかけしました。立ち話もなんなのでどうぞラティオー様お入りください。婚約者のつもりですので、どうぞ」
「ハハ。ありがとうございます。しかしあのように立派な家族達の振る舞いを見ると私はここで」
アウラは礼儀をわきまえたラティオーを素直に見直してにっこり笑う。
「ラティオー様、私の家族を褒めてくださってありがとうございます。本当に自慢の家族なのです。私も・・・正直、この家で何ができるのか分かりませんがご恩をお返しできるように頑張りますね。明日から」
「そうですね。明日からよろしくお願いします。今日は忙しい一日でしたから。『ふぁー』と欠伸が。お互い明日になったら、これからの話をしましょう。おやすみなさい。良い夢を」
「そうですね。おやすみなさい。ラティオー様も良い夢を」
私は久しぶりにお日様の匂いのするフカフカのベッドでぐっすり眠った。
しかし早朝に四人から起こされるのである。
「アウラ様、私達はこれからどのように過ごせば良いでしょう?」
「お嬢ちゃん、ワシもいつもなら仕入れ業者と話をして今日のメニューを考えている頃だよ。手持ち無沙汰でなぁ」
「アウラ様、私思うのですが執事は二人といらないのではないですか?」
「アウラ様、私このままお側でお支えしてもいいのでしょうか?」
ごもっともなご意見にベッドから這い出て私も話に入る。
「そうよね。分かっているわ。でもラティオー様は受け入れてくださるとおっしゃっていたから朝のお話し合いで色々分かるから。それまで待っていてね」
アウラはこの雰囲気に二度寝は許されないと覚悟を決めてヴィクトル公爵家のメイドが来るまで暫し団子状態になり過ごした。
コンコンコン。
「アウラ様、朝食の準備が整っております。ご案内してもよろしいでしょうか?皆さまもどうかご一緒にお越しくださいませ」
ミーナが小さな声で
「アウラ様、あのメイドなかなかやりますね。私も負けていられませんわ」
「いやいや、ミーナ。勝ち負けじゃないから。私にとってはミーナが一番だから」
「アウラ様・・・クスン」
(うん、流石に皆の気持ちは不安定よね。私がみんなの意見を聞かずに勝手に連れてきてしまったから・・・何も言わずについて来てくれた皆の為にも私がしっかりしなくては・・・)
食堂に着くと私達を待っていたようで早速食事が運ばれた。
しばらくして
「アウラ嬢、お味はどうだろう?」
「とても美味しいです・・・あのう・・・皆さまと自己紹介をしておりませんが食事が先でよろしかったのでしょうか?」
「ハハハ。見ての通り私が当主のファーマと妻のグロリエだ。他には目の前のラティオーだけさ。姉のテラは第一王太子妃だからここにはいないよ」
「えっ!王太子妃様ですか?・・・」
「そうだよ。ふむ、昨日の夜ラティオーから粗方の事情は聞いたが・・・そうか、何も知らされていなかったのだね。聞くところによると学院にも通わず家庭教師も付けてもらえなかったそうだが?」
アウラはいずれこの話をすることになると思っていたが恥ずかしさに俯く。
「はい。お恥ずかしい話ですが実母は私が14歳の頃に亡くなり学術院入学が直前で立ち消えました。父と義母義姉の反対があり家庭教師もつけてもらえませんでした。申し訳ありません」
「あなた・・・いいえ、これからはアウラと呼びますね。私は先程からアウラの食事の所作を見てとても感心していましたのよ。どうやって学んだの?」
母のグロリエが優しく問いかけた。
私は一緒に食事をする、連れてきた四人の家族に顔を向ける。
私が顔を向けると一斉にナイフとフォークと置き家族たちは優しく微笑む。
「私は家庭教師も無く学術院にも行くことが出来ず学が無いものと思われていますが・・・ここにいる私の四人の家族から学びました」
たったふた皿のディッシュだけ・・・
これだけで分かるほど完璧な所作だった。
ヴィクトル公爵家の家族、最終的にはこの屋敷の者達もアウラの連れてきた家族に一目置く事になる後々の一歩だった。
食事を済ませ応接間でこれからの話をする。
当然、この屋敷にも執事長もメイド長もコック長もいる。
お互い同士が対峙して気まずそうにしていたが・・・凄い!出来る人達ほど相手を認めると敬意に変わるらしい。
いつの間にか穏やかな空気に包まれていた。
「さて、アウラの家族はここの者とも上手くやれそうだ。ミーナと申したか、アウラに仕えることで良いかな?」
「ハイ!ありがとうございます。これからも誠心誠意アウラ様に尽くします。公爵家の皆様にもお仕えいたします。よろしくお願いいたします」
ミーナが勢いよく頭を下げた。
(ミーナ、みんなありがとう)
私は世界一心強い味方を連れて来ることができ・・・それを許してくれたヴィクトル公爵家に心から感謝した。
父のファーマが心配そうに気まずそうに聞いてきた。
「アウラ、ここは公爵家だ。ゆくゆくは公爵夫人になるのに今のアウラがどれ程足りるのかテストをしても構わないかい?」
「勿論です。私に足りるとこ足りないところは自分でも把握できておりません。どうぞ遠慮なくお試しください」
「ふふ、ラティオーが連れてきただけの事があるわね。では早速着替えからしてもらおうかしら。アンナ、ミーナと一緒に衣裳室に行って何かアウラに」
メイドの一人アンナが一言自己紹介を済ますと丁寧に私とミーナを連れ出してくれた。
「アウラ様、衣裳室には奥様の若かりし頃のドレスがございます。今は少しサイズが合わないかも知れませんがご容赦ください」
「そんな。私の今着ているドレスより酷い物はありません。しかし母の形見なので捨てずに私の部屋に戻してくださいね」
一瞬びっくりしたようだが流石は公爵家のメイド。すぐに平然と構え
「かしこまりました」と聞き入れてくれた。
「ここは!・・・凄い!」
ミーナが度肝を抜かれていた。実は私も度肝を抜かれたが辛うじて口には出さなかった。
アンナは心得たとばかりに私をマジマジと見て
「鮮やかな金髪の御髪と輝く緑の瞳に白い肌!それには・・・コレです!」
と選びに選んで二着のドレスを出してくれた。
一着目は爽やかな新緑の緑を思わせるドレスに二着目は瑞々しいレモンの様な淡い黄色のドレスだった。
「アウラ様はどちらがよろしいでしょうか?」
二着のドレスを見比べて不意にラティオー様の顔が浮かんだ。
(ラティオー様も綺麗な緑色の瞳・・・)
「私はこの緑色のドレスが着たいです。準備をお願いします」
アンナは普段から奥様の世話に慣れているのか手際よくドレスを着せ髪も結い後に薄くほんのりと化粧を施してくれた。
ミーナは一生懸命に手際を見て覚えるのに必死になっていた。
「ありがとう、アンナ」
アンナはふわりと微笑んで
「では皆さまのところに戻りましょう」
アンナは戻る際にも各部屋の説明と、この公爵家の歴史も続けて説明してくれた。
アウラは歩きながら屋敷全体の見取り図を思い描きサクサクと頭に叩き込んでいったのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
今日は3話まで時間差投稿しました。
明日からは1話づつの投稿になります。
夕方の18時投稿します。
これからもよろしくお願いします。
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