◆ 国王陛下と二人の王妃の三者面談
イライザの処罰から今、二刻しか経っていない。
国王陛下私室の談話室で小さな机を二人と一人が対座していた。
部屋には三人以外は誰もいない。
国王陛下は愛する娘イライザに己が下した過激な処罰とそれに立ち会った事で満身創痍だった。隣では第二王妃が国王陛下の手を握りボロボロと泣き崩れている。
徐に第一王妃が話を切り出した。
「陛下、いつまで玉座を温めておいでですの?」
国王陛下は怪訝な顔で第一王妃の質問に答えた。
「どういう事だ?妃よ」
国王陛下の隣には第二王妃が眉間の皺を深くしている。
手に持つ扇子を口元に当て
「そうですね・・・陛下はこの度のイライザのしでかした罪を軽く考えておいでですわ。たった一人のイライザの為に4つの貴族が没落しました。その他、二つの貴族も瀕死の状態。税の徴収の足りなさは国庫への大きな打撃となりましょう」
国王陛下は顔を青くして口を噤んだ。
しかし隣の第二王妃は国王を庇う大義で第一王妃に食ってかかる。
「第一王妃様、些か口が過ぎませんか?だから国王陛下の寵愛を受けられないのですわ」
第一王妃は余裕の顔で
「あら、それでも3人のお子を授かりましたわ。貴方はイライザお一人。それも満足に育てられず・・・」
「お黙りなさいませ!私と陛下は今、どんな気持ちでいると思ってらっしゃるの!貴方に人の心があるのですか!」
とうとう第二王妃は激昂して髪を振り乱し大きな声を上げた!
それでも第一王妃はゆったりと構えている。
「貴方はご自分の最低限の執務も満足に熟せず陛下に縋る術しか持ち合わせておりませんものね。イライザの犯した大きな罪は母である貴方の責も問われなければなりませんね」
言われた第二王妃は目を細くして睨み嫌味に言葉を発した。
「あら、どういう事です?私がイライザを直接育てたわけではありませんわ!」
第一王妃はただ冷静に話す。
「だから、いけなかったのでしょう?貴女の放任はイライザを増長させました。今後数年はこの王国の財源は困難を極めましょう。何一つ公務もしなかった貴女とイライザが使った莫大なお金があれば一体、幾人のお腹が満たせたでしょう・・・
さて、先程も言ったように国王陛下だけでなく貴女の責も問われましょう」
全く納得のいっていないのか不貞腐れた態度で第一王妃に尚も食ってかかる。
「は?どういうことかしら?まるで貴方がこの国の王にでもなるおつもりかしら?」
国王陛下たっての希望で子爵家から迎えられた美貌の第二王妃は顔を歪ませ第一王妃を恨んで睨みつけた。
そんな第二王妃に威厳を持った冷酷な声が告げる。
「いいえ、私は王太后になるのですわ。流石の貴方でも意味は分かりましょう?」
今まで口を閉ざしていた国王陛下は益々青い顔をして掠れた声で聞いた。
「き、妃・・・それは決まりか・・・?」
国王陛下にまるで興味のない顔を向け
「そうですね。明日の議会で王太子が新だな国王陛下になる事が正式に決まりますの。陛下の尻拭いを王太子がするのです。この決定は全貴族と国民の総意となりますの。陛下は第二王妃がいれば良いのでしょ?サリューの山荘で共に責を負う形での幽閉となりますわ」
「もう・・・そこまで・・・」
国王陛下はワナワナと震えガクッと力無く首を落とした。
第一王妃は至極平静を装っていたが内心では一度は情を抱いた相手に告げる言葉の重さにやるせなさを感じていた。
(国王陛下ならお分かりでしょう。幽閉の後にいずれ毒杯を賜る事を・・・)
しかし第二王妃は額面通り田舎に追いやられると受けとって吠える。
「ちょっと!お待ちなさい!貴方は愛する陛下をそんな目に遭わせるのですか!?」
第一王妃の目に鋭い光が射した。
「愛する?・・・私は国母としての責務として陛下を受け入れた迄ですわ。貴方を王家にお迎えされてからは吐き気をこらえて・・・耐え忍んで3人目のお子を産みましたの。それから一切の陛下の御渡りは・・・全て断っていたはずですが?今更、愛などと」
国王陛下は幼き頃より知ったる第一王妃の心情を衝撃をもって聞いた。あの品位と慎ましかった妃の赤裸々な告白は身体の底に冷たいものを飲み込んだようだった。
(妃は私の全てを許し受け入れてくれたのでは無いのか?・・・第二妃をそれ程に嫌うていたのか?渡りも・・・慎ましい遠慮からだとばかり・・・)
第二王妃はイライザを失った悲しみと第一王妃に負けた悔しさで唇を強く噛んだ。
「ふふふ。反面教師が目の前にいたからでしょう・・・幸いにも王太子も夫婦仲良く子も授かり益々円満ですわ。そして第二王子も仲良くやっております。隣国に嫁いだ王女も仲良く一人の人と添い遂げ盤石な絆を築いておりますの。陛下は一人では満足できないのでしょうが・・・それが全ての災いの元になったのです。その元凶と共に幽閉先にてご自分の罪を反省なさいませ」
終話して優雅な佇まいで席を立ち第一王妃は部屋を出ようとした。
「ま、待て、妃。・・・さ、最後に一つだけ聞きたい。妃は一度でも私に・・・心を傾けてくれていたのか?」
「ふっ」
第一王妃は半分呆れ半分悲しみの目を国王陛下に向けた。
「陛下。・・・そうですね、少なくとも第二王妃を連れてお見えになるまでは家族の情とも親愛ともとれる・・・そんな情は確かにありましたわ。・・・幼き頃より婚約者となり陛下をお支えし心も尽くして・・・しかし・・・これからだったのですよ。真の愛情を育てる前に必要も無い第二王妃を娶った事で私達は終わったのです。裏切ったのは陛下ですわ」
そしていよいよ第一王妃は部屋を出た。
部屋からは絶叫が聞こえる。
「嫌よ!そんな山奥になんか行きたくないわ!陛下なんとかしてください!」
「うるさい!うるさい!うるさい!」
扉の外でしばらく立ち止まり、中での様子を第一王妃は無情な気持ちで聞いていた。
そっと近づく足音。
「母上・・・申し訳ありません。これは私の役目だったのに」
「いいえ、母の役目だったのですよ。陛下に最後の通告をするのは貴方の最初の仕事ではありません。これから王国の大編成が始まりますもの。王太子よ、母が味わった苦渋は全て母が飲み込んで見せましょう・・・貴方はテラにこんな気持ちを味わわせてはなりませんよ」
母の苦悩の顔を見て新たにテラを大切にすると誓いながら返事する。
「もちろんです!」
それで良いと第一王妃は静かに笑った。
今回一番の・・・責任を負うべき当事者である国王陛下の終焉に第一王妃がトドメを刺したのだった。
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父王と第二王妃の罪は深かったですね
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