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◆ イライザが隠していた秘密の監獄


◆イライザが隠していた秘密の監獄


 イライザ王女は今か今かとアウラの死の知らせを待っていた。

(遅いわ、あのバカ。この城にいた時はもう少し使えるやつだと思ったから宝珠を壊してまで下僕にしたのに・・・)


 煮えくりかえる胎の熱を抑える為に部屋には誰も入れず鍵をかけた。カーテンを全て閉じて本棚にある決まった場所を動かす。


ギーギーギーギー

 本棚が動いた。

 薄暗い鉄牢は二つ並びの造りとなっていた。各牢には足に鉄枷を嵌められた者が力無く横たわっている。



 ここはイライザのお気に入りの場所ーー

 秘密裏に建てられたイライザの欲望を満たす場所ーー


 それは王家ですら知られていなかった場所だった。

 わざわざ図面に記すことも無いほどに簡素な部屋のはずだった。

 

 予定外に生まれたイライザの部屋は後から建て増しした場所で隠された監獄は元は衣装部屋だった。今は別に大きな衣装部屋があり・・・ここは忘れ去られた部屋だった。


 イライザは密かに王国の金山に奴隷を売って積み上げた金で自分の欲を満たす場所を作ったのだ。

 当時、15歳のイライザは王家を欺き王太子妃を迎える工事のどさくさを利用した。

 金山を管理する男爵家を介し工事をする者を雇い入れ『血の監獄』を作ったのだった。

 

 最初の生贄は唯一の事の成り行きを知るイライザ付きの侍女だった。散々と手足のように使いながら、イライザ自身の秘密を守るためにあっさり侍女を痛めつけ娼館へと売り飛ばしたのだ。 

 喉を潰して。

 当然、新たに入れられた侍女たちは監獄のことは知らない。



 そして今、横たわる者をいたぶる儀式が始まる。

 イライザは慣れたように寒々とする声を発した。


「起きなさい」


 各牢にいる者はノソリと上半身をあげて力無くイライザ王女を見ていた。


「あはは。そうね、今は貴方の方からね」

 父親ほどの年齢の男の牢に入り手に持つ棒でイライザは叩き始めた。


「うっ!くっ!」


「痛いでしょ?元はと言えば貴方の娘カミューがアウラをちゃんと殺さないからよ!」


 カミューの父、バース子爵は娘の犯した罪の償いを受けていると思っていた。いくらイライザ王女の願いでも聞いてはいけなかった。

 そんな娘をアウラ様は救ってくださった。私達までイライザ王女に屈してはいけないと・・・反論すらしなかった。


「・・・」


「何なの?面白くないわ!何か言ったらどうなの!!」


バシッ!バシッ!


 隣の牢ではバース子爵妻のローラが涙を流していた。既にローラの美しかった髪は肩より短く切られ顔も腫れ爛れていた。


 イライザはバース子爵の頭に狙いを定めた

(殺す・・・)


 イライザは渾身の力を子爵に向けようとした時だった。


コンコンコン

「イライザ王女様、お母上殿下がお呼びでございます」


「チッ!」


 開け放していた図書戸を急いで閉めカーテンを開ける。そして今一度、部屋を見渡し確認を済ますと

「アハッ」

 と、一つ笑い、何食わぬ顔で扉を開け母の第二王妃陛下が待つ応接間にイライザは向かった。



 その後ろ姿を見つめる集団がいた。


 無人になったイライザ王女の部屋に集団は静かに雪崩れ込む。国王陛下から別件にて許可を得たファーマ宰相とラティオー宰相補佐、そして王家騎士団が図書戸を探る。

 

 国王陛下にはイライザ王女の取り巻き令嬢が毒の手配をしたので探す旨だと伝えていたのだが。


――アウラが見立てた場所なのだ。


 間違いがないと信じているラティオーは不自然な本の羅列にずれた場所を見つけた。指を入れて探ると、ふいに指先にぬめりを感じる。指先を見たラティオーは目を見開いた。

(これは血か!?)


 再度、指を入れ先に触れた木の出っ張りをずらしてみた。


ギーギーギーギー

 動いた本棚戸の奥から人の呻き声が聞こえてくる。薄暗い鉄牢は血の匂いが充満していた。

 錆びた鉄格子に石壁と石畳には飛び散った血の跡があった。それは新しいものから何年にもかけて固まりこびり付いたドス黒い血痕の跡だった。


 壁にかけてある牢の鍵を開けバース子爵夫妻を救出した。父親の子爵は腕と足の骨が折れ自分の足で歩くことが叶わなかった。母親のローズは切られた髪の隙間から大きくえぐられた傷口が痛々しく覗いている。


 余りの惨状でその場の誰もが顔を歪めている。

 その一人の騎士団員が思わず口をついた。

「イライザ王女は人間の皮をかぶった獣なのか?・・・」


 誰も反論しない。やりきれない気持ちを皆が抱えていた。


 相手は我が王国の頂にいる国王陛下が溺愛する王女・・・


 違う騎士団員がすがるような声を上げた。

「宰相、国王陛下にも事実を話し厳正なる処分・・・出来るのでしょうか・・・」


 ファーマは手に持つ調書の束を強く握り締め苦しそうな声を上げた。


「やってもらわねばなるまい。出来ぬと申すのなら・・・」


 宰相ファーマは支える王でありながら永きに亘る友でもある国王に引導を渡す苦渋を味わうのであった。


(国王よ、貴方はこれから自身の・・・一番の宝を手放す事になるであろう)


 宰相ファーマの足は国王陛下の待つ部屋に向かうが一言、言葉を残す。


「イライザ王女の部屋を元通りに片づけておくように」

 

 ラティオーをはじめ騎士団員たちはファーマ宰相の意図を汲んだ。


ーーまだイライザ王女にはバレてはいけない

  明日の舞踏会までは・・・


 宰相ファーマは後の手配をラティオーに任せ調書の束を片手に抱え直した。

 そして散らばったバース子爵妻のローラの髪を拾い掴み国王の執務室に向かった。



 ◆ ◆ ◆


「ファーマか。こんな時分にどうした?」


 笑って迎えた国王陛下はファーマが持つボッテリと血の付いた黄金髪の束に笑顔が消えた。


 ファーマはその髪を国王の執務机に置いた。


「国王陛下、もう知らないフリは出来ますまい。イライザ王女の暴挙に鉄槌を下す準備は、もう出来ております。後は・・・国王の判断のみ」


 一瞬、虚を衝かれた国王だが大声で笑い飛ばす。


「ハハハ。イライザの暴挙とな?あの子は多少我儘なところがあるが何故に鉄槌などと物騒な話をするのだ。イライザが私の大切な宝だということは其方も存じておろう」

 国王は俄には信じられない強い言い草を軽やかに反論し


 そして、その一切を拒絶した。


 

 いつもこうしてイライザを庇ってきたのだ。


 ファーマはここ迄なら折り込み済みと血のついた髪の束の他に大量に集めたイライザの調書を何冊も国王陛下の執務机に重ねて置いた。


 あまりの数の調書に国王陛下は愕然としたが、未だ信じられずにいる。

「まさか…このすべてにイライザのことが?・・・ありえぬ・・・」


 静かに・・・国王陛下の軽口をバッサリと遮断するように・・・


「これは紛れもない今までのイライザ王女の罪です。これでもまだ全て集められたかどうか・・・罪には罰が必要なのです。これ以上のイライザ王女の庇い立ては臣下一同の反乱が起きましょう。明日の舞踏会で直にご覧ください。その目で・・・その全てを・・・遅きに失した全てを・・・」






最後まで読んでいただきありがとうございました。

とても嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。

楽しく読んでいただけるように頑張ります。


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