表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/35

◆ メリサへの許し


 あれから公爵家の応接間では重たい雰囲気が流れていた。


 いくらか落ち着いたメリサが口を開いた。

「今まで公爵家の全ての皆様を欺く事をしてしまいました。どうか私に厳正なる処分を。いかようにもお受けいたします」

 言い切ったメリサは深く頭を下げた。


 使用人たちの誰もが信頼するメリサの事を俄かには信じられずにいた。あまりの大ごとを飲み込めずにいる。


 そんな中でメリサに向かってラティオーが質問した。


「メリサ。どうして今日、メリサが動く事が分かったと思う?」


 ラティオーの顔を見ながらメリサはフルフルと首を振った。

「分かりません。どうして分かったのでしょうか?」


「アウラだよ。アウラが庭園にある木にイライザ王女の香水の匂いがするって言ったのだ。昨日までは無かった匂いだと言った」


(やはりアウラ様は凄い方だわ・・・)


「そうですね、庭園の外の壁に近いエルムの木にリボンを見付けるとその日の深夜に裏門で黒馬車に乗ったイライザ王女様がお待ちになって居ります」


 露骨にラティオーが嫌な顔になりながらも続けて質問した。

「普段、イライザ王女とはどんなやり取りを?」


「たわいもない事です。主に・・・普段、邸宅でのラティオー様の様子と動向をお尋ねになります。何を食し、夜は何時ごろ眠られるのか、どんなお召し物を購入されたとか・・・その、縁談のお話が立ち上がると相手方の情報を詳細に尋ねられる事もありましたが・・・」


「うわっ!こわっ!」

 ラティオーは思わず声に出してしまった。


 なんだかアウラも少し腹が立った。だがそのお陰でラティオーと出逢えたので複雑な心境だったが。


「メリサそれで弟とはどれほど会っていないのだ?」


「・・・5年前から・・・この公爵家でお世話になってから一度も会っておりません・・・」


「生きているのか?あのイライザ王女を信じられるのか?今、弟は幾つなのだ?」


 つい勢いに任せて聞いていくラティオーをファーマが止めた。

「ラティオー、待て。一気に質問し過ぎだ。メリサ、弟は幾つなのだ?」


 虚な目で弟の歳を数えた。

「・・・弟のハロルドは・・・23歳になります・・・」


 ファーマは何か引っかかった!ラティオーも調書の中にいた男のことが脳裏に浮かんだ。


「23歳!23歳といえば・・・ラティオー!イライザ王女の調書にあった中にいたな!」

「はい!確かに!今調べます!」


 ラティオーは執務室に走って向かった。執事長補佐のエンドも後に続いた。

 メリサは震えながら両手を握り締め待っていた。


「ありました!父上。しかし・・・」

 父のファーマもうろ覚えだがあまり良い知らせではない事を察していた。

 ラティオーは調書に目をやりながら聞いてきた。

「メリサ、その青年はメリサと同じ茶色の髪に薄いブルーの瞳かい?」

 メリサは悪い知らせの予感の中、必死で冷静に努める。


「は、はい。左様でございます。あのハロルドは・・・生きているのですか?」

 メリサの震えは止まらない。


「メリサ・・・生きてはいるのだよ。しかし片目を潰され3か月前に王国の金山にて肉体労働者の奴隷として連れて行かれたのだ。声も発していないらしい」


「そんな!ハロルド!何故!うっぅっ・・・」


 それからメリサは哀願し始めた。

「公爵様、私を追い出してくださいませ。ハロルドの後を追わせてください!今度こそハロルドを守ります!お願いします!お願いします!」


 しかし公爵は慌てるメリサを落ち着かせるように宥め話す。

「メリサ・・・良く聞くのだよ。お前は許されたのだ。この公爵家が私たちの家族のためにハロルドを取り戻そう。アウラが教えてくれたのだよ。屋敷の使用人とはいえ、(しもべ)では無く家族なのだと。

メリサはもうイライザ王女とは一切の縁が切れたのだ。我が公爵家が再縁を断ち切ると誓おう。ハロルドは必ずメリサの元に返す!約束するよ」


「うっ・・・私のような者に大切な誓いを・・・公爵家の皆さま!本当に本当にありがとうございます!私の生涯の全てをかけてこの公爵家に心を尽くして参ります」


 応接間には執務室から持って来られたイライザ王女の調書や資料と王城内の地図が広がっていた。


 アウラはサッと目を通し調書で辻褄の合わない箇所を幾つか見つけ出していた。それは巧妙に少しずつイライザにお金が流れている。一見すると国王費の一部のように見えるのだが、ある男爵家から不定期に返金として入っているようだった。それに・・・この王城内の地図とイライザ王女の部屋の違和感・・・


(お父さま達の大切なお仕事に私が口を出して良いのかしら・・・でもお役に立ちたい・・・メリサの為にも)

 アウラは早急に心の決心を下してお父さまとラティオーを見つめた。


「お父さま、ラティオー様、よろしいでしょうか?」

 突然のアウラの問いだが二人は頷く。


「突然に口を挟んで申し訳ありません。この広げられた資料の中で二つの事が気になりました。

 一つ目はこのお金の流れでございます。一見すると粗がないように見えますが不定期にある男爵家より小さな返金扱いがございます。

 それは女性ものの化粧や香水やドレスの差額をイライザ王女へ返したように見せかけて実際は取引が無くただお金だけが渡されたのではないかと推察します」


 ファーマとラティオーも金の流れは一番に確認したはずとアウラに疑問を投げかけた。


「アウラはどうしてそう思うのだ?」


「お父さま、この王国の官僚たちは男性ばかりです。私は今は亡き母より女性ものに特化したものを混ぜると男性の目を誤魔化しやすいと教わりました。

 イライザ王女がお金を得るのに男爵家を利用して得た返金という項目が一番やり易いのではと思いました」


「なるほど・・・全くの抜け穴か。ラティオー再度確認するのだ」


「はい、父上。それではアウラ、もう一つの懸念は?」


「それは、この前のイライザ王女様主催のお茶会に行った時です。庭園から見る王城とイライザ王女の部屋を外から眺めておりました。しかしこの地図には差異がございます。この地図の・・・この違和感・・・」


 実は・・・アウラの絵を描く上で得意技になった事なのだが立体構造と平面構造の空間認識を掴むのが上手いのだ。それが今、活かされる。


 アウラの眼差しを横で真剣に見つめるラティオー。

 公爵家の家族達も皆、興味津々だ。アウラを信じているから。

 

 アウラは左手をこめかみに添えて深く考え込む。

 何度も地図を見て記憶を思い返して王城の庭園とイライザ王女の部屋の見取り図の感じが・・・

 アウラは頭の中でパズルのピースが嵌ったように全ての違和感の矛盾が繋がった!


「あっ!分かりました。ここです!」


 アウラが指差す所を皆が見ている。


「イライザ王女の部屋の窓側では無くこの地図にある本棚の後ろに明らかな空きスペースがあります。見取り図にはありませんが実際に見た王城の壁が膨らんでいるのです。小さな部屋がひとつかふたつほど用意ができる気がしますが・・・」


 ファーマはアウラへの見識が脳内でまた塗り替えられた。勿論良い方に。


 ファーマとラティオーは普段、王城に出向いていたが余りに頭の中で作り上げていた常識を疑うことも無かった。


「なんと!この見取り図自体が囮なのか」


 ラティオーはやはり、敵わないとアウラに一目置く。

「アウラ・・・君って全く恐れ入るよ」


 アウラは自分の優秀さをひけらかしたかった訳じゃない。家族と認めたメリサの為に少しでも役に立てる事を尽力したまでだ。


 私が出来るのはここまで・・・

 あとはラティオー達がやってくれると信じている。


 もうメリサは許されたのだ。


 これから罪を受けるべきはイライザ王女・・・貴女なのだから





最後まで読んでいただきありがとうございました。

とても嬉しいです。

イライザ王女はこれから・・・


楽しく読んでいただけるように頑張ります。


よろしければブックマークの登録と高評価をお願いしますm(__)m。


そしてこれからの励みになりますので

面白ければ★★★★★をつまらなければ★☆☆☆☆を押して

いただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ