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◆ 貴族牢の父イドラ 


 ひと間だけの小さな部屋の監獄。間仕切られたトイレと簡素なベッドがあるだけの部屋だった。

 貴族牢でも最下層の者が入る所だ。


「一体、あれから何日経ったのだ・・・私は何故、この牢にいるのだ!娘の支度金を催促しに行っただけだ!何が悪いのだ?もう気が狂ってしまいそうだ!」


 一体、何度声に出した言葉だろう。


 それは突然ガチャガチャと鍵が開けられる音だった。


「やっとか!私を牢に繋いだ事を過ちと気付いたのだな!早くここから出すのだ!」


 イドラの目の前に見上げる程の背が高い男がのっそりと立ち塞いだ。

「君は何をしたからここに入れられたのか分からないのか?」


「貴方様は・・・ファーマ・ヴィクトル公爵様・・・」

 見上げながら一瞬得体の知れない恐ろしさを感じたが何が罪に問われるのか本気で分からないイドラは

「分かりません。考えましたが分かりませんでした。元はと言えば公爵様が支度金をくださらなかったから私がいただきに行った迄です。妻と娘が待っております。早くここから出してください!」



 公爵は突然吹き出した。


「そうか、全てはお前が原因か!公爵家の門前で怒鳴り散らす義母と義姉の醜態はお前の躾の悪さから来ているのだな。アウラがあのように品行方正の智慧者になったのはお前の躾が無かったお陰か・・・クックックッ・・・安心しろ。近いうちにお前の隣に空いている貴族牢に妻と娘が入るだろう」


 怪訝な顔で納得がいかないイドラは

「言っている意味が分かりませんが。どういう事です?・・・アウラはバカな娘です。躾も智慧もマナーもダメな見目が少し良いだけのただの娘ですが?」


「ふん、お前は確か元子爵家の三男か。あの戦争の為にこの王国の有能な男子の多くが死んだ。お前はそのお陰で優秀なアルブス伯爵家になんの努力も無しに婿に入れた幸運を無駄にしたな・・・言っておくが爵位を継げるのはアウラだけだ。婿のお前では断じてない。アウラとラティオーの婚約式が無事済めばお前達はもう貴族でもない。この牢からもうすぐ出るだろう。・・・この部屋もこれから過ごす場所に比べれば遥かに凌ぎやすい。今だけ存分に味わうが良い」

 最後の方の言葉は辛い現実と詳細に事情を知る公爵の恐ろしさが相まってイドラの耳には届いていなかった。




 もう話すことはないとファーマは牢を出ようとした。


「待て、公爵!どう言うことだ。私が伯爵家を継いでいるのだ!アウラは関係ない!私のフローラが継ぐのだよ!早くこの牢から出すのだ!」


 いつも最後は困ると大声で怒鳴り散らし、その場を収めてきたイドラにファーマは蔑んだ目を向け興味なさげに話す。


「お前は王立裁判所の裁判中の審議を中断させ邪魔をした。それは特別な事情がない限り決して許される事では無い。それだけで10の年数を過ごすが更にアウラに対する虐待と公爵家侮辱罪も追加するか。それだけでこの牢からは一生出る事は叶わないのだよ」


 何を言っているのだ?と理解がないイドラは

「そんな・・・でもさっきこの牢にはいつまでもいないと・・・」


「ははは。当たり前だろう?あと幾月でお前はもう貴族ですら無いのだからな。アウラが成人になると亡き母ペルナ・アルブス伯爵の跡を正式に継ぐのだよ?この王国は他家に嫁ごうが爵位は譲位される。入婿の元子爵は三男だ。生家に帰ろうが居場所はあるまい。アウラを大切にし慎ましく生きておれば良かったものを・・・愚かなやつだ」

 今度こそファーマは部屋を出た。


 ファーマの出た扉を見ていたイドラは力無く膝をついた。


 

「あ、あの女・・・ペルナ・・・!ぺルナ・アルブス!!最後まで俺を虚仮にするのか!!」


 死んでもなおペルナの名で助けられていたイドラだったが何をやっても敵わない相手だった。

 ペルナの愛する婚約者が先の戦争で死に爵位存続の為に仕方なく迎えられた婿であった。

 イドラは伯爵家に入り暫くすると初めて手にした自由になる金に溺れ貧民街の娼館に通うようになった。

 学の足りない子爵家イドラでは伯爵家の中に居場所を見つけることが出来なかったからだ。

 努力するより安易に楽になる道を選んだ。そこで娼婦マリーと出会い自分を褒めそやし甘やかせてくれる事が嬉しかった。マリーとの間に子供が出来て初めて自分の居場所が出来た気がした。しかし平民になど到底なりたくない。


 その後もペルナとはぎこちない生活を送っていたが婚儀をしてから半年もしないうちに子を宿したことがイドラに伝えられた。


 それからお腹に子供を宿し益々美しくなるペルナには一切触れる事が許されなくなった。

 

 イドラは美しいペルナを気に入ってはいたのだ。

 この神が遣わせた女神のように美しい女をこれから自分の好きなように扱えるのかと婚儀で初めて会ってまずは愉悦を感じてたまらなかった。イドラはその下衆な考えに喜びを感じていた。しかし月に一度か二度相手をするとペルナ付きの侍女に邪魔をされ納得がいってなかった。それをたった片手で数える程の相手をしただけで子を宿した途端に瞬く間に拒絶され納得のいかないイドラは烈火の如く腹を立てた。


「何故!お前は私に抱かれない?」


 お腹に子を宿し荘厳な空気を纏ったペルナは冷酷な表情でイドラに蔑視な目を向けた。

「貴方が私に触れることは今後一切、生涯をかけてございませんわ。貴方には他に居場所がございましょう。どうぞそちらへ」


 イドラは目の前が真っ赤に染まり思わず殴りつけたくなったが周りの目がある。ここで殴っては平民になってしまう。

「くそっ!」



・・・・・・

 この時に俺は間違えたのか?

 いや最初からか?

・・・

 自分主義のイドラに答えは見つからなかった。しかしこの後に平民落ちをしてこの簡素な貴族牢より劣悪な地下牢へ。そんな運命が待っているとは思いもしないイドラだった。


 





最後まで読んでいただきありがとうございました。

励まされて頑張ることができます。

父イドラに救いはあるのかしら?数話後に分かります。


これからもよろしくお願いします。

楽しく読んでいただけるように頑張ります。


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そしてこれからの励みになりますので

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