◆ 二人のメイド長
公爵家のメイド長はメリサ。元は王家で長年に渡り侍女をしていた。
至極真面目で仕事に隙が無かった。
公爵家の娘テラが5年前に王家に嫁ぐにあたりテラ付きのメイドの五人が付き添う事になった。有能なメイドが抜けた穴を王家が鑑みて侍女を与える形になった。
それまで勤めていたメイド長が歳だったこともあり王家の筆頭侍女だったメリサは早々にメイド長になったのだ。
そんなメリサは困惑していた。
アウラが連れてきたメイド長のニヤの優秀さに初めて会った時から驚かされるばかりだったから。
ニヤはメリサより五つも年下であった。
28歳のニヤはとにかく慌てる様子がない。目の前にたくさんの仕事があっても顔色ひとつ変えずニコニコといつの間にやらこなしてしまう。
下のメイド達にも的確に仕事内容を割り当てながら効率の良い働き方を気持ち良く教えていく。
ニヤが来てから明らかに公爵家のメイドの質が上がった。
(アウラ様を見ていると動じないところがニヤさんと通じるものがある)
メリサは真面目さだけで仕事をしてきた。
誇りも持っている。しかし自分には無いニヤの周りを見て自分の仕事だけをするのではない協調性の高さが羨ましかった。
(どうしたらあんな仕事が出来るの。私はニヤさんに比べて周りの緊張をほぐしながら締める所では締める、そんな事が出来ているだろうか?)
突然ニヤがメリサに声をかけた。
「この公爵家の人達は気持の良い方達ばかりですね。メリサ様が心を砕いてここまでメイド達を育て上げたのですね」
不意に自分の不甲斐なさに自信を無くしかけていたメリサにニヤは優しく言葉をかけてきた。
「わ、私は・・・違います。元々が・・・この公爵家のメイド達は優れていたのです。寧ろニヤ様がきてからの方がメイド達の士気も上がり能力も上がりました」
言葉にして初めてメリサは無意識に嫌味を口にした事を恥じてしまい思わず口元を手で覆った。
(私は何を!)
いつも沈着冷静を心がけていたメリサのプライドはガタガタと崩れていた。
そんなメリサを見ながらニヤは再び優しく言葉をかける。
「メリサ様がそのように思ってくださったのならありがたい限りでございます。この公爵家で私達の大切なアウラ様がこれからも過ごしていくのです。私達に出来る事で少しでも恩返しがしたかったのです。出過ぎた事をしたのかも知れませんがメリサ様のお手伝いがしたかったのです。メリサ様のお仕事は美しいです。私たちがいつまで居られるのかは分かりませんが・・・これからもアウラ様の事をよろしくお願いします」
微笑みながらニヤはゆっくりと頭を下げた。
「えっ、どう言う事でしょうか?ニヤさん、それではまるで辞めてしまわれるように聞こえますが!?」
「はて?私たちがいつまでもこの公爵家にお世話になる訳には参りません。アウラ様付きのミーナがお世話になっているだけで充分でございます」
とニコリ。
この優秀なニヤの潔さが全ての仕事に通じていたのだ・・・理解した途端にメリサは腹が立った。
「ニヤさん、私はほんの先程まで落ち込んでやり切れない気持ちでおりました。ニヤさんの優秀さに自分を卑下してしまいました。しかし私を含む公爵家はニヤさんや他の・・・アウラ様の家族を・・・アウラ様のように家族として迎えているのです。勝手に辞める事を考えないでください」
ニヤの顔が静かに笑う。
「やはりこの公爵家の皆様とメリサ様は最高ですね。ふふ」
「その笑い方もアウラ様に似ていますね」
ニヤは指摘されて初めて気がついたのか
「えっ?これは・・・アウラ様の今は亡きお母様、ペルナ・アルブス伯爵夫人の笑い方を・・・知らぬうちに真似ていた様です。私の恩人であり憧れの方なのです」
「アウラ様のお母様は素敵な方の様ですね」
メリサの言葉で何かを思い出す様に一つ頷き
「メリサ様、これからアウラ様の事をより深く理解される為に少し昔話に付き合ってくださいませんか?」
メリサは己の主人の一人であるアウラの事と言われ自ずと頷きニヤに聞く姿勢を示した。
メリサの部屋で温かな紅茶で口を潤したニヤが静かに話し始めた。
「私がアルブス伯爵家にお世話になったのは14歳の頃です。その時に今は執事長のエンドも同時に雇われることになりました。エンドは私の一つ上でどちらも家の事情が悪く早い歳で働く様になった事を奥様が気に病んでくださいました。少し厳しい方でしたがその裏では愛情深く私とエンドを慈しんでくださいました。当時アウラ様が3歳でしたが鼻が敏感な事でよく体調を崩しておりました。・・・また夫婦仲も悪くアウラ様の将来をとても心配されておりました」
ここまで話してニヤは一度メリサの顔を見た。
メリサは話の続きを促した。
「そして奥様はこう言われました。
『エンド、ニヤ貴方達には酷かも知れません。しかし・・・もし私の願いを聞いてくれるならアウラの教育を頼めるのは貴方達しかいません。私に何かあった時の中核となってくれますか?』・・・私もエンドも喜んで奥様の願いを聞きました。それから私たちに対する教育は大変で過酷を極めました。私とエンドは周辺国に出かけ言葉を習い風習を習い自分達を磨いていき・・・それを全てアウラ様に教えていきました」
話を聞きながらメリサはニヤとエンドの犠牲に絶句した。
「それではニヤさんは自分を犠牲にして・・・」
すかさずニヤが言葉を重ねる。
「違いますよ。奥様は一見アウラ様の事ばかりを言っている様ですが違います。アウラ様はいずれ嫁がれるかも知れませんでした。その後、お金をかけ教育してくだった知識と経験は私とエンドの財産です。どこに行っても困らないのはアウラ様だけではありませんよ」
「あっ・・・」
メリサは会ったこともないペルナ・アルブス伯爵夫人の懐の深さと思慮深さに感嘆していた。
そして目の前にいるニヤそして執事長やコック長やミーナの忠孝を尽くす・・・これこそが主人を思う本望なのだと心から思ったのだった。
「ニヤさんありがとうございます。私にこんな意味のあるお話をしてくだって・・・私のこれからの指針となりましょう。しかし、ここから・・・公爵家から出ることは考えないでくださいませんか?ニヤさんは私より年下でも教わる事が多いのです。共にこの公爵家とアウラ様を支えていってほしいと切に望みます」
ニヤはニコニコ笑いながらその答えを濁したのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
明日の二人の執事でアウラの四人の家族の
紹介は終わるのでどうかお付き合い
くださいね。
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