◆ 二人のコック長
「あんたのとこのアウラ様。ありゃ『外さない舌』の持ち主だよな。初めて見たよ、本物」
アウラ様と一緒に付いてきたコック長のパーニスは己の主人を褒められ嬉しそうに頷いている。
「そうだな。アウラ嬢ちゃんは幼い頃から鼻と舌が過敏でな、昔はそれで逆に苦労してたんだよ。それから少しずつ辛い時には息を止めたり鼻や口を覆ったり自分で匂いといい距離をとる様になった」
「そりゃあ、大変だったな。でもアウラ様は鼻もすごいよなあ。ここからの匂いが分かるなんてこの目で見ても信じられないよ」
「コック長、舌と鼻は切っても切り離せないほど大切なんだよ。鼻が良いから料理の全ての風味と味わいが分かるのさ」
本来、下っ端のやるジャガイモの皮剥きを楽しそうに超高速で剥いているパーニス。
コック長は今日、公爵家にお出しする肉の仕込みにかかろうとしていた。
「お、おい。コック長、その肉はいきなり強火でやるより鍋が冷たいうちからゆっくり火を入れるんだよ。中があったまったら今度は一気に強火にして火にかけた時間分休ませてそれから肉を切るんだよ。やってみてくれや」
公爵家のコック長はパーニスより少し年下であった。そして話せば話すほどに料理や食材の見識の深さに舌を巻いていた。
パーニスに掛かるとコック長達が知ってる普通の常識から一歩も二歩も先進的な手法が飛び出て、この公爵家の料理の味は格段に上がった。
このパーニスがコック長だったからアウラ様の舌はより鍛えられたのだと心から思った。
「パーニスさん、俺はアウラ様にお料理を出すのが少し怖いよ。ははは」
ジャガイモの皮剥きをしていた手がピタリと止まった。
パーニスは真剣な眼差しをコック長に向けて静かに諭した。
「コック長。貴方はこの公爵家の料理人のトップだろ。下の者はあんたの仕事をいつも見ているんだよ。主人の料理を作る事を恐れる料理人がどこにいるんだ。アウラ嬢ちゃんは料理人の作る料理に心を通わせながら食べているんだ。怖がるなよ。楽しめ!そして素直に喜んでもらえたら良いんだよ。コック長、あんたは驕らない人間だ、信用できる。俺も手伝うさ、頑張ろうや」
「パ、パーニスさん、目が覚めた。ありがとう。どうか色々・・・教えてください」
公爵家のコック長とはいえ素直に負けと認めたパーニスさんに最後は敬語が自然と口を出た。
それからパーニスは死んだ妻のことや遠くに嫁いだ娘の話を延々と公爵家のコック長に聞かしてみせた。
(パーニスさん、俺は料理の事が聞きたいんだ・・・)
密かに思うコック長だった。
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