◆ 初めての友達
シュペと友達になり今日は公爵家での小さなお茶会を開く。
アウラは自分が客を招く立場になったことも招かれた事も一度もない。
朝からソワソワと何度もミーナとアンナに確認を繰り返していた。
何度も聞いてくる・・・めったに見せることのない、そんな年頃らしいアウラにミーナとアンナは微笑ましく思いながら精一杯楽しんでいただこうと思うのであった。
昼の軽食をとり、その後は庭のオランジェリーの側にあるガゼボでゆっくりお茶を嗜む予定だ。
「アウラ、女同士の話し合いの場に私も入れてもらおうかしら?」
アウラは突然言われた母の提案に喜び
「お母さま、勿論です!是非ご参加くださいませ」
アウラの喜ぶ顔が母グロリエをまた喜ばせる。
いつものようにゆったり気品を漂わせながら優しくアウラに語りかけた。
「ふふ、アウラが開く初めてのお茶会ですもの。最初の軽食を少しお供するわね。四阿ではゆっくり乙女の話に盛り上がるといいわ」
母の気遣いが嬉しくアウラは素直に頷いた。
「はい。お母さま」
シュペが到着するとアウラの部屋のベランダで軽食をした。グロリエの話は若いアウラとシュペをどんどん引き込んでゆく。その内容はすべてが為になりテンポの良さは心地が良く二人はグロリエに尊敬の念を深くしていったのだった。
そっとグロリエがリボンのかかった小さな箱をアウラとシュペの前に置いた。
「ふふ、さあ開けてみて」
二人は少し戸惑いながらリボンを解き箱の中を見た。
「まあ!」
「ああ、可愛い!」
二人はレースが揃いで色違いの刺繍入りハンカチを箱から出して感激していた。
揃って椅子から立ち優雅に頭を下げた。
「お母さま、ありがとうございます。とても嬉しいです。大切に使いますね」
「公爵夫人、この様なお心遣い心から感謝申し上げます。私も大切に使わせていただきます」
まるで悪戯が成功したと、したり顔の母は
「良かったわ。二人とも。その言葉の通り使ってね。チェストに入れっぱなしだと悲しいもの。ふふふ」
頃合いと見たのか母グロリエは席を立った。
二人だけの席になるとシュペが大きく息を吐いた。
「はあー緊張した!アウラ様は緊張しませんね」
「そう言うシュペ様は舞踏会での軽口が見られなかったので余程緊張しているのだと良くわかりましたわ」
それはそうだろうという顔を一瞬覗かせたシュペだったが徐に真剣な顔をアウラに向けた。
「アウラ様・・・私が今日、軽口にならないのは公爵夫人がいたからだけではありませんわ。
私はこれからも軽口を言うことはありません」
「え?」
「私は・・・益々もってアウラ様を尊敬しているのです。舞踏会では他の令嬢に尊敬を持って接しようと思う方はおりませんでした。なのであのような軽口で充分だったのですわ。それに公爵夫人の心遣いはアウラ様を尊敬するに値する方だと証明してくださいました」
シュペの言葉でアウラは大きく考えさせられた。
「そういえば・・・そうですよね。私がこの屋敷に来た時から・・・全ては最初から大きく包み込んでいただいて・・・この公爵家の皆様は当たり前のように私と家族を受け入れてくれています。私ったら余りに自然に馴染んでおりました。シュペ様に気付かせていただいて良かったです」
改めて考えると出来損ないの伯爵家が優良公爵家に嫁げることがどれだけ凄い事か分かっていたはずなのに・・・いつの間にアウラの居場所を作っていてくれた事がどれだけ凄い事なのか・・・ああ、ありがたい!・・・私が出来る事でこの公爵家に恩返しを・・・家族の分も一緒に返していこうと改めて誓い直すわ。
私は自分の役目をしっかり果たさなくては。
シュペは目の前にいるアウラの表情を見て謙虚で場を弁え、その人の本質を見ようとする友が誇らしかった。
(ああ、こうして良い波長は伝播していくのね・・・私もアウラ様の友として恥ずかしくない人でありたい。一生の友でありたいと心から思うから)
シュペはアウラの手を握った。
「アウラ様、今・・・良い顔をしておりました。女性の私でも見惚れてしまいましたわ。アウラ様はご自身で努力され周りの皆を虜にしていくのですね。私もしっかりアウラ様に魅了されておりますの」
アウラは目を見開きシュペを見つめた。
「ふふ、シュペ様ありがとうございます。少し大げさですが・・・私は良いお友達を得た喜びに浸らせてもらいましょう」
二人のおしゃべりは続く。
そこにシュペが徐に心情を発露した。
「アウラ様。私、今だから白状しますが・・・初日の舞踏会で顔面偏差値最高点の公爵家の皆様がどのようなご令嬢を婚約者に迎えるのか噂しきりだったのですわ。私も年頃の娘です、興味が尽きませんでしたの・・・あの時、アウラ様が王城会場に現れ皆様は放心状態になりました。『さすがは公爵家!随分見目の良い娘を連れて来た!』と周りの貴族たちはざわつきましたのよ。ホホホ。しかし・・・こうして対話してみると逆に美しい外見が中身の良さを隠しているとしか思えてなりませんね」
シュペは約束したから嘘はつかない。それを私は信じているけど、明け透けに心を開いてくれた誉め言葉がくすぐったい。
「シュペ様・・・」
そんなアウラを見て
「アウラ様、今日来て分かりましたわ。この公爵家は凄いです。爵位の低い私を・・・私自身を見て判断してくれました。普通の高位の貴族家ではあり得ません。そんな公爵家でアウラ様は驕らず立場を弁え居場所を作られたのです。私はそんなアウラ様とお友達になれたことを誇りに思いますの。恥ずかしいので一度しか言いませんよ」
「ふふ、シュペ様。私も公爵家の皆様のようにその人の中身を見て・・・難しいですが頑張りますわ。でもね、シュペ様は私が真にお友達になりたいと思った方なのです。付き合えば付き合うほど『友達になりたい』と言ったあの時の私を誉めてあげたいですわ」
その後ガゼボに移り話し声が笑い声になり乙女の話は盛り上がっていた。
「そういえばラティオー様との馴れ初めを聞いてもよろしいですか?」
アウラは思い掛けない問いかけにサッと頬を染めた。
「良いですよ」
なんとアウラの後ろにある薔薇の花壇からその薔薇の美しさにも引けを取らないラティオーが顔を出して答えていた。
アウラとシュペは二人で一斉に立ち上がった。
アウラはビックリして席を立ってしまった。
思い掛けない登場人物にシュペは混乱して席を立った。
「ご、ご挨拶申し上げます。ノワール男爵家長女シュペでございます。本日はアウラ様よりお招きを賜りました」
「ははは。ごめんね。急にびっくりするよね。ここにいるとアンナから聞いたのだよ。シュペ嬢、丁寧な挨拶痛み入る。これからもアウラと仲良くしてくれるとありがたい。よろしく頼む」
「は、はい。こちらこそ幾久しく仲良くさせていただきたいと存じます。よろしくお願いいたします」
シュペはハッキリとアウラに目線を渡し、しっかりと答えた。
シュペの答えに満足したラティオーが笑顔を向けて
「さ、それで私とアウラの出会いだよね?」
場の堅苦しい雰囲気を壊す様にラティオーは茶目っ気たっぷりで話し始め小さくウインクをした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
明日は短い2話を18時と19時に投稿します。
アウラの周りの人たちにスポットを当てます。
これからもよろしくお願いします。
楽しく読んでいただけるように頑張ります。
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