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◆ 闇夜のひと時



 舞踏会から帰り入浴を済ますとアウラはやっと身体から余計な力が抜け、落ち着くことが出来た。


 ミーナやアンナを部屋に帰し風に当たろうとバルコニーに出ることにした。

 少し薄着が気になったが風にそよがれる気持ち良さを想像すると大して気にもせず涼むことを選んだアウラだったが・・・


 ベランダの手すりに肘をかけ吹く風の気持ち良さにアウラは目を閉じていた。



(なっ!隣のベランダにアウラが!・・・月明かりが風に靡く髪を照らして・・・なんて美しいのだ)

 

 ラティオーは突然現れたアウラに心臓が早鐘を打った。少し薄着が気になるが・・・

いや、大いに気になったが自分だけがここにいて、アウラに後々気が付かれるのが気まずくて平静を装い声をかけた。


「アウラ。どうしたの?寝られない?」


「え?」 

 隣のバルコニーには入浴後の濡れた髪を乾かしながらワインを嗜んでいたラティオーがいた。


 アウラは実際には内心、盛大にびっくりしていた。また、自分の薄着を思い出したが今更部屋に戻りショールを取りに行く方が意識をしすぎではないかと感じてレディーたるもの顔には出さずなるべく落ち着いた態度でラティオーに接することにした。


「はあ、今更ながらですが隣のお部屋だったのですね、ラティオー様」


「ははは。本当に今更だね、各部屋の紹介は済んでいるよね?」

「・・・意図的なのかラティオー様のお部屋は紹介してもらえませんでした。迂闊でした。ふふ」


「寝られないならワインでも飲む?昨日のノワール男爵からお礼でもらったものだ。舞踏会初日とは種類の違うワインだよ」


 暫し考えてシュペの顔が浮かぶとそのワインを飲んでみたくなった。

「・・・それでは少しご相伴に預かりますわ」

 

 アウラはラティオーが来ると思い部屋の扉を開ける準備をしようとした。


 しかしラティオーはワインとワイングラスを自分の懐に入れてベルトで縛りあげた。

 びっくりするアウラの前で何故か絶妙な位置でぶら下がっているロープに腕を巻き付けヒューッとベランダを飛び越えた。

 ドタンとアウラの前に着地してニコッとラティオーは笑う。


 アウラは本気でラティオーを心配したのに・・・

「予想を超える事をするのですね。肝が冷えました。それにしてもそのロープは?」


「ははは。アウラの部屋は元々私の部屋なのだよ。この二つの部屋はね、その時々に使い分けをしていたのだが。ま、偶にね・・・どちらかの部屋で都合が悪くなるとベランダから隣部屋に移動していた名残がそのロープだよ」

 ラティオーはそう言うと今しがた使ったロープを指さした。


 アウラはホッとする一方で心配して眉間に皺を寄せた。そして呆れながら声を絞り出した。

「・・・流石は変人公爵の成せる技ですね」


 冗談めかしてラティオーが畏まって話す。

「お褒めにあずかり恐縮です、アウラ伯爵令嬢」


 アウラはラティオーを見つめているが答えなかった。


 心配して・・・

 ホッとして・・・

 小さく腹が立って・・・

 アウラの心は忙しい感情で振り回されていた。

 しかし、いつでも冷静に自分を分析する癖がついているアウラは


(私はラティオー様の事だから・・・こんなに色々な感情が・・・)

 

 アウラは心の奥底にある気付いた気持ちに戸惑うばかりだった。


(歯がゆいような・・・熱く高ぶるような・・・嬉しいのに涙が出そうな・・・この気持ちは・・・)


 ラティオーは無言で見つめ合うアウラの眉間にそっと指で触れた。

「アウラ、眉間に皺が寄っているよ。びっくりさせてごめん。配慮が足りなかったね。少しでも早くアウラのそばに行きたかった。気がつくとロープに腕を絡ませていたのだ」


 そう言いながらラティオーの指は眉間から頬に滑り最後はアウラの唇で止まった。

 甘い雰囲気にポーっとされるが儘のアウラだったがいきなり襲って来たあまりの恥ずかしさに体の向きをクルッと変えた。アウラの華奢な肩は小さく震えていた。


「うん、ごめん。急かしすぎた。ワインを飲む前からアウラの顔が真っ赤だ」


「誰のせいだと・・・」

 恨めしげにアウラはラティオーを見た。


 そんなアウラにでも愛おしい気持ちが湧き出てくるラティオー

(アウラ・・・このまま時が止まって欲しいよ・・・)


 ラティオーは眩しそうにアウラを見つめる。感情が溢れるがアウラを怯えさせないように穏やかに言葉を紡ぐ


「アウラ、こっちを見て。本当に不思議だ。ほんの数ヶ月前までこの私の心を捉えて離さない人が・・・アウラが現れるなんて想像すら出来なかったのに・・・」


 美しい月明かりの下でうっすらと照らし出された秀麗な二人に穏やかな風が通り過ぎる。


 ラティオーはいつかの城下街のようにアウラの髪に指を通らせて続きを話した。


「私は・・・今ではアウラがいない事など恐ろしくて考えることが出来ないよ・・・この屋敷にアウラがいて、私の部屋の隣でアウラが過ごしていると考えるだけで帰ってくるのが楽しみになる・・・

アウラ・・・私の心は既にアウラを求めている。アウラが私の心を捉えて離さないのだ・・・愛している・・・愛しているのだ、アウラを」


 初めてハッキリと愛の言葉をもらったアウラの肩は上がりビクビクっと盛大に揺れた。自分の顔を見なくても赤くなっている事が分かる。

(顔が熱いわ・・・)


「ははは、アウラ。ビックリ続きで悪いが私の気持ちはアウラに通じた?」

 ラティオーは自分の気持ちを話せた事で心が充足していた。本当にそれで良かったのに


 恋愛初心者のアウラはコクコクと大きく頷くのが精一杯だった。しかしラティオーから貰った気持ちに応えたくて渇く喉をゴクリと鳴らしなんとか拙い返事を返した。


「あ、あの・・・私もラティオー様をす、す、好きです・・・こんな気持ちを他の方に抱いた事はありません、このような気持ちを抱いた事が初めてなのです・・・ラティオー様を・・・あ、あ、あ、愛しているのだと思います」

 

 ラティオーは地面が大きくグラりと揺れたかと思うほどの衝撃を受けた。

(まさか!アウラから返事をもらえるとは・・・) 


 さっきまで余裕ぶっていたラティオーも真っ赤になり一言付け加えた。

「アウラ・・・期待に沿えなかったかも知れないが・・・私も恋愛初心者なのだよ・・・これから一緒にこの大切な気持ちを・・・心を・・・育てていこうか」


 それを聞いて少し安心したアウラは柔らかく微笑み


「はい・・・一緒に・・・一緒に大切に育てて参りましょう・・・」

 うるんだ瞳でラティオーを見つめながらアウラは小さく答えた。








最後まで読んでいただきありがとうございました。

とても嬉しいです。次回のお話が閑話のようなお話で短いのでこの後の19時に投稿します。

よろしくお願いします。

楽しく読んでいただけるように頑張ります。


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[良い点] きゃ〜きゅんきゅんする〜! 素敵な回をありがとうございます♡
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