◆ 隠されているヒロインの実力
本来は優秀でキレッキレのアウラ
なんの偶然か?必然か?
そんなアウラを攫ってくれた
公爵と共に運命が動き出します!
きっちり!ガッツリ!とことん
ざまぁあり!少しホロリあり
公爵ラティオーの溺愛ありの
物語を是非!楽しんでくださいね♪
私、アルブス伯爵家の次女アウラは、今日も会話の無い食卓の中で黙々と口を動かしていた。
母違いの姉フローラが話す言葉にだけ両親は微笑んでいるが、私がその会話に入る事は決して許されない。
だからと言うわけでもないが、私はただ食事に集中している。
口の中で奏でられているハーモニーを楽しんでいる方が遥かに有意義なので、無視をしてもらっても一向に構わない。
だがその時だった。
いつもなら空気のように扱っている私に向かって父が突然の命令を下してきた。
「おい。
お前に縁談の申し込みがあった。
今週末に当家にお見えになる。
用意をしておけ」
父イドラは、三言の用件だけをブツ切りのように話すと、義母達の会話に戻っていった。
私は仕方なしに、手に持つデザートスプーンを置き今の要件を聞き返すことにした。
「縁談の申し込みですか?どなたでしょうか?」
聞き返した事が不満なのか、義母のマリーが私の顔を目掛けてナプキンを投げつけてきた。
「お父様の言う事は絶対でしょ!? あなたは誰であろうと喜んでその身を捧げなさいな!」
「そうよ。 あんたなんかが私より先に縁談があるだけ生意気よ。 それにしても一体誰かしらね? ホホホホ」
アウラは二人の暴言にも慣れたもので表情一つ変える事はない。
(ろくでもないわね…… )
3年前に大切な実の母が亡くなった…
この父は、ひと月もしないうちに平民出の母娘を我が伯爵家に招き入れた。
私より半年早く生まれた母親違いの姉フローラ。
当初は自分より年上の父の実子に、少なからずショックを受けたアウラだったがーー
だがその後のアウラに対する扱いは、実父と言えど軽蔑するに値するものであった。
こんな、ろくでなしに情なんてあった物では無い。
余り期待もしていないが、私は父に淡々と聞き返すしかない。
「分かりました。 しかし当日に不備があってはなりません。 前準備をしたいので、先方の事を教えていただければ幸いですわ 」
全く動揺しないアウラに、義母と母違姉は歯噛みをした。
「チッ! 本当に可愛げのない娘だわ。これが義妹なんて最悪だわ 」
フローラが罵りの言葉を吐く。
マリーはイドラに向かって甘ったるい猫撫で声で
「あなたに同情しますわ。 こんなにキツイ娘なら死んだ奥様なんか、さぞや相当キツい女だったんでしょうね。 本当にお可哀想だわ 」
義母マリーも間髪入れず続けて罵ってくれる。
(まあ、この人達に何を言っても無駄ね)
いつものことなので浅く溜息を吐き、ゆっくりと席を立つと、アウラは自室へと向かった。
階段の前で、私付きメイドのミーナが待っていた。
「アウラ様、大丈夫でしたか? 私たちも先程、縁談の話を聞きました 」
私は今出てきた食堂の扉に目を向けながら小声でミーナに話す。
「そう… この家も相当立ちゆかなくなっているのでしょう。 私は寧ろみんなが心配だわ。 私がこの家から逃れても残ったミーナたちが心配 」
「アウラ様…… こんな時までも私たちを心配してくださって…… 」
「お母様の代から残ってくれた使用人たち…… 違うわね…… 寧ろ私の大切な家族だわ。 みんなも連れて行けたら良いのに…… 」
私は執事長とメイド長にコック長、そしてミーナの四人が家族だと思って暮らしてきた。
他の長年勤めあげてくれていた、亡き母付きの使用人たちは、軒並み母の死を待っていたように父イドラが退職を命じた。
それでも…… 父イドラが退職させることを躊躇うほど、残った各長クラスの実力は凄かった。
その実力者のおかげで、私はあからさまなイジメや暴力を受けずに済んでいる。
義母や義姉付きのメイド達からは、物を壊され隠されたりと陰湿な嫌がらせを受けても、執事長やメイド長達が代替えを用意してくれていたので特段不便も感じなかった。
何より、各長クラスの超絶ハイスペックな個人レッスンは、王家の最高ランクの家庭教師にすら到底太刀打ち出来ない域にまで達していた。
オールマイティーの執事長とメイド長は、私の身を案じ下働きの仕事から領主代行が出来るほどの知恵と仕事を仕込んでくれた。
何処に嫁ぐ事があろうと……
ゆくゆくは仮令一人で生きていく事になったとしても困らないようにと、血の繋がっていた筈の実の父親では無く、血の繋がらない家族達が優しく厳しく躾けてくれたのだ。
私を閉じ込めた浅はかな、あの三人。
学院にも通わせず、家庭教師もつけてはくれなかった。 故に知識も教養も何も持たないただの17歳の小娘なのだと…… 高を括っている事でしょうね、ふふ。
ミーナはどこに行こうと付いて行くと言ってくれた。その為に拙いながらも教養や所作を身に付けたのだと。
「アウラ様。 私は例え、一時アウラ様と離れる事があったとしても追いかけて、いずれはまたお側に仕えますからね 」
そんなミーナの言葉に心が温かくなる。
私こそ母ペルナ・アルブス伯爵の実の娘だ。
父は元子爵三男の婿養子。
私が嫁いでこの伯爵家は、誰が一体継いでいくのかしら……
それを知る由も無いのは当主イドラと義母や義姉である。
義母達は平民出だから知らなくても、一応貴族である父イドラが知らない事が不思議でならなかった。 だが、教える義理も無い。
今、食卓に残った三人は私を売りさばくことで事でいつまでも自分たちの繁栄が続くと疑っていないなんてね。
私はかつて亡き母ペルナの肖像画が飾られていた四角く色の変わった壁の跡をそっと指でなぞった。
(お母さま…… 果たしてこの縁談話は
吉と出るのでしょうか? それとも凶と出るのでしょうかね?)
私は暫く自問自答していたが、目線を前に戻しゆっくりと自室へ向かった。
アウラの去った食卓では、三人がこれからの話で興奮しきりであった。
「ハハハハハ! 私が憎き前妻に似たあいつを育ててやった褒美をやっと掴むことが出来るのだ!」
現妻の義母マリーがイドラに迎合する。
「ホホホ。 そうね、私だって少しでも条件の良い所に嫁がせようと、大きな傷を作る訳にもいかないから、一体どれだけ我慢したことか。 あの陰険な顔を、これで見なくても済むと思うと清々するわね 」
「お父様、これで私の好きな宝石やドレスを買ってくれるのよね。 楽しみだわ 」
「まあ、待て。 それも今度の縁談次第だな。 公爵家とはいえ変人ばかりの寄せ集めだと聞いているからな。 変人の息子に娘を嫁がせる事を嫌がる貴族ばかりでな、とうとう支度金の上乗せをしてでも婚約者を募っているという噂だ。 こちらの打診に喜んで尻尾を振ったんだからな。 あいつは頭が足りない馬鹿な娘だが、顔のつくりとスタイルだけは見られるからな。
ハッハッハッハ沢山ふんだくってやるぞ! 」
「あら、お父様。 容姿は私の方が可愛くてよ。 変態でなければ私が嫁いだものを… 」
「そうね、私も可愛いフローラを、変態には嫁がせたくありませんわ。 あなたフローラには素敵な方を探して来てくださいましね 」
「ああ、分かっているさ。 フローラがこの伯爵家を継ぐのだから誠実な婿を探してこよう 」
「お父様、誠実だけでは嫌ですわ。 私は見目も麗しい方をお願いしますね 」
フローラは小さく頬を膨らませて可愛く笑って見せた。
この親子、いつからか会話中の公爵家が変人から変態に変わっていた事に気付いてすらいなかった。
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