想い出よ喫茶店
ヒューマンドラマとやらを書いてみたくなり初めてやってみました。
営業で大学時代を過ごした街へ足を運んだ。
古くから学生街で学生向けの様々な店が立ち並んでいた。
学生用のアパートが立ち並び、賑やかであった。
古びた公園のベンチを見てああ、よくここで本を読んでいたなぁとか未だにある『動物園』という看板に苦笑した。
動物園とは言っているが個人がやっているもので何のことは無い、犬が数匹広い囲いの中にいるだけなのだ。
全く変わった奴もいるものだ。
あの店はどうだろうか?
ふと、頭の中に古びた喫茶店の事が頭に浮かんだ。
□
「どうだい、ここの内装は?落ち着きやしないかい?」
「そうね。レトロ調だけど落ち着ける雰囲気だと思うわ。それにしてもメニューが今時コーヒーだけなんてよほど自信があるのね」
私と静香は大学のゼミで一緒になった。
そこでしばらく一緒に話していく内、私が彼女を想うようになり思い切ってデートに誘ったのだ。
とは言え金の無い貧乏学生がデートする場所なんてのはたかが知れている。
お互いコーヒーが好きという事もあり私は彼女をこの喫茶店に誘ったのだ。
出されたコーヒーを一口。
「へぇ」
思わず感嘆の声が漏れた。
「美味しいわね」
静香も同じ感想の様だ。
普段音でいる安コーヒーとは何もかもが違う。
まるで自分達が選ばれしものになった様な、そんな感覚を味わえた。
そこから楽しい会話が弾む。
マスターは店の隅に置かれたギターを弾いていた。
穏やかな時間が、流れていた。
□□
「そうか、振られちゃったんだね……」
半年後、俺はマスターに静香との恋愛がうまくいかず別れてしまったことを嘆いていた。
何度かデートをして思い切って告白をしたがあっさり断れてしまった。
彼女には卒業後に結婚する相手がいるということだった。
父親が働いている会社の役員候補の男性。
俺は彼女と上手くいっていると勝手に思い込んで舞い上がっていただけだったのだ。
「今までも色んな子が居たよ。嬉しい事や、悲しい事、愛の事とか色々打ち明けていった。色々と傷ついてちょっとずつ強くなって、そうやって誰もが旅立っていったのさ。だから、君も大丈夫。この経験はいつか役に立つよ」
マスターはそう言って笑うと色紙にささっと何かを描き始めた。
それは俺の似顔絵だった。
「僕も昔は画家になりたかったんだよね。でも親父の後を継いでこの喫茶店を切り盛りしているのさ。人生どうなるかなんて誰にも分らないけど、意外と楽しいものさ」
□□□
あれから30年が経った。
喫茶店はそこには無くネットカフェが建っていた。
あの優しいマスターはどうしているのだろうか?
また、話を聞いてもらいたいものだ。
そして伝えたい。
「マスター、辛い事もあるけど、本当に人生意外と楽しいものですね」
私は遠い思い出に目を細め街を後にするのだった。
□□□□
「マスター、俺って冒険者に向いてないのかなぁ。いつまで経っても初級冒険者から上がれないよ」
机に突っ伏し悩む軽装の鎧を纏った若者にマスターはコーヒーを差し出し微笑んだ。
「大丈夫さ、色々と傷つき辛い事を経験していってそうやって誰もが旅立っていくのさ」
ここは異世界。
マスターは今日も喫茶店でコーヒーを淹れ、ギターを弾きながら似顔絵を描いて客に贈るのだった。
最後に異世界ぶち込みました。
元々単発作品で行こうと思っていたら最後に、『あれ、これ異世界転生させちまおうぜ』ってなってしまい異世界ニルヴァーナに転生させてみました。
その内シリーズどこかの作品で出て来るかも。