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第3話 木片をよみがえらせる。

「アナスタシア、やってみろ。君ならできるかもしれない」


 先生の言葉で、私は一歩前へと進み出た。


「さあ、この木をよみがえらせてみるんだ」


 先生の持つ木片、葉っぱ一枚もついていない木の枝を私は受け取った。


「無理だ、いくら優等生のアナスタシアでも、何もない木片をよみがえらせるなんてできるわけがない」

 生徒たちの声が聞こえてくる。


 ふん、やってやるわ。

 私は心のなかで自分を奮い立たせた。けれど、それと同時に存在する気弱な思い。

 できるのかしら、私なんかに。

 ふと見ると、クラス一番の優等生、クリスもこちらを注目している。

 クリス・オーウェン、地域選抜にも選ばれているAランク魔術師、才能の塊。

 そして、どうしても負けたくない相手。

 彼の黒魔法には到底敵わないけれど、白魔法なら負けやしない。

 あの男の驚く顔が見たい。


 私は自分の属性である氷の結晶を、魔法陣として足下に張った。

 青白い光が私を包んでいく。


「す、すごい魔力だ。先生よりすごいんじゃないか」

 光の発する力に、生徒たちの驚く声がする。

 そして、クリスが興味深そうに私を見つめている。


 この術式なら、よみがえるはず。

 幾重にも魔法陣を張り、とっておきの呪文を唱える。


「ストラスファクター!」


「おおっー」

 周りの生徒たちが一斉に声を上げる。


「す、すばらしい、アナスタシア!」

 先生が手放しでほめてくれた。


 葉っぱ一枚なかった木片から、三枚もの葉が生まれ出てきたのだった。


「ここまでできるとは思わなかった。アナスタシア、君はすばらしいものを持っているよ。自分の生まれ持つその力を大切に育てていくんだぞ」

 先生は近づき、拍手をはじめた。周りの生徒もつられて拍手をはじめる。

 私は、間違いなくその中の主人公だった。


 が、

 一人の男が声を出した。


「私にもやらせていただいていいですか?」


 皆の注目がその男に向く。

 そこに立っていたのは、クラス一の優等生クリスだった。

 クリスは私の回復術を、冷静な目で眺めていた。


「おお、クリスか、やってみなさい」

 先生がそう言い、新たな木片を彼に渡した。


 クリスがその木片を受け取ると、生徒たちの注目が一斉に彼に集まった。

 瞬時にクリスは魔法陣を張る。

 赤い炎の対称文様が足下に広がる。


「ストラスファクター!」


 クリスは私と同じ呪文を唱える。


 えっ?


 私は自分の目を疑った。


 私の目の先にあったのは、大輪の花を咲かせた一本の枝だった。

 クリスは何もない枝から、五枚の葉と大きな花を咲かせてしまったのだ。


 生徒たち、いや先生までもが言葉を失い、じっとその生き返った花を見つめていた。

 やがて先生の口が開いた。


「クリス、やはり君は天才だよ」


「す、すげー、クリスのやつ、桁違いの魔力だ」

 一人の生徒の声がもれ聞こえてきた。


 皆が驚く中、クリスは当たり前なことをしたかのように平然と立っている。

 そしてチラッと私に目を向け、小さく会釈してきたのだった。


 完全なる私の敗北だった。

 白魔術なら誰にも負けないと思っていた私、けれどその鼻はこの時クリスによって完全に折られてしまったのだった。

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