月不知のセレネー7
鍵山さんの指が鍵盤の上を流れていく。ときに優しく、ときに力強く。それはまるで聞き分けの良い馬に乗馬しているかのような演奏だった。
彼女は閉じた瞼を強く瞑ったり緩めたりしながら演奏し続けた。完全に集中しきっていて相変わらず私たちの入室にはまったく気づかない。おそらく指も耳も、そして身体の細胞のひとつひとつまでもが演奏することだけに集中しているのだ。仮に今ここで火災が発生しても気づかないかも……。思わずそんな馬鹿げた考えが浮かぶ。
ガラス越しに見える中庭の木に小鳥が止まっていた。瑠璃色の羽、雀と同じくらいの体格。そんな鳥だ。鳴き声は『ピィーキュキュキュ、チュチュチュ』と聞こえる。
私がその鳥の声に一瞬気をとられている間に鍵山さんの演奏が止まった。どうやら第一楽章が終わったらしい。
「月音。お客さんだよ」
遠藤さんは鍵山さんに優しく声を掛ける。
「はい……」
鍵山さんはそれだけ言って私たちの方に身体を向けた。そして「こんにちは」と挨拶してくれた。瞼は閉じられている。まぁ彼女は冬木さんと違って全盲なので当然なのだけれど――。
それから私たちは前回打ち合わせをした部屋に移動した。八人全員が座ると部屋が急に狭く感じる。
「すいません。練習中に来てしまって」
「いえいえ。こちらこそ申し訳ないです。待たせてしまってすいません」
鍵山さんは本当に申し訳なさそうに言うとペコリと頭を下げた。
「じゃあ早速ですが……」
私は挨拶もそこそこに今日の本題に移った。




