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月不知のセレネー2

 なんで私は惣介と一緒に鍵山月音のコンサートに来たのだろう? ふとそんなことを思った。断ることだって出来たはずなのに。

 今思うとあのときの判断は間違っていたのかも知れない。でもどうしても私は惣介からの言葉を無視することが出来なかった。

 おそらく私の中でも何かしら引っかかっていたのだ。西浦有栖。彼女の後ろ暗さに――。


 コンサート終了後。私たちは新宿駅前のスターバックスに立ち寄った。

「何だよ。スタバ?」

「うん。話すだけならここが良いでしょ?」

「そうか」

 惣介は少し不満そうに返事をするとやれやれといった感じで首を竦めた。おそらく惣介としては酒でも飲みながら話したかったのだろう。

 スターバックスの店内は混み合っていて一人がけの席は満席だった。お一人様はみんな作業に没頭している。たぶん資格試験の勉強やら会社の仕事の持ち帰り分やらだ。お疲れ様です。そう言いたい気分になる。

「そこの席とっといて! 注文してくるから」

「ああ」

 それから私はカウンターでドリップコーヒーとカフェミストを脊髄反射的に注文した。一〇年前と同じオーダー。我ながらそれをすぐに注文出来てしまう自分が嫌になる。

 飲み物を受け取って席に行くと惣介はスマホをいじりながら退屈そうにしていた。気だるそうに。ピカロっぽく。

「お待たせ」

「ああ」

「砂糖は自分で入れて」

「ん、ああ。貰うよ」

 そう言って惣介は私が持ってきたスティックシュガーを二袋破いてドリップコーヒーの中に流し込んだ。相変わらずミルクは入れない。

「とりあえず……。今日は付き合ってくれてありがとな」

 ふいに惣介はそう言って軽く頭を下げた。

「いいよ。ってかチケット用意して貰ったの私の方だからお礼言うのはこっちだし」

「そうか。いや、なんつーか……。本当のこと言うとお前と話す口実が欲しかったんだ。京介からそれとなく話は聞いてたけど、実際この目で確かめたかった」

 惣介はしおらしく言うと「いや、すまん」と謝った。

「……まぁ、あんたとはずっと話してなかったもんね」

 私はそこで言葉に詰まった。思えばこうして惣介と面と向かって話すとは一〇年ぶりなのだ。そう思うと急に不安定な気持ちになった。天敵と対峙した野生動物のように。

「そうだよ。たぶん俺らは互いに牽制しあってここまで来ちまったんだよな。別にそれは仕方ないと思う。ただなぁ。お前は俺の義理の妹になる予定だろ? だからさ……。そろそろお前とは形だけでも和解しておきたかったんだ。まぁ……。そのために鍵山月音と西浦有栖を出汁にしちまったのは悪かったけどよ」

 惣介はそこまで言うと再び「すまんかった」と謝った。

「いいよ。本当にもういいんだ。それに和解もひったくれもないでしょ? だってこれから先あんたたちと親戚付き合いする予定もほとんどないんだしさ」

「まぁな。でもこれは俺の気持ちの問題なんだよ。偽善的に聞こえるかもしんねーけどお前ら……。京介とお前には幸せになって貰いたいんだ」

 惣介はそこまで話すと深いため息を吐いた。一〇年ぶりに彼の本心を聞いた気がした。


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