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フユシオン31

 餃子が口に運ばれる。続いて酒も。それは本当に庶民的な夕食だった。店内は会社帰りのサラリーマンやら家族連れやらで賑わっていた。床はベトベトする。でも不思議と嫌な感じはしなかった。普通に汚れていること。それが私たちにとってはスタンダードなのだと思う。

「マジで西浦さんの考えることは分からないよ」

「だろうね。僕も彼女の真意は分かりかねるよ」

 そう言うと京介は店員を呼んでお冷やを貰った。飛んできた店員がやっつけ仕事にコップに水を注ぐ。

「僕もボカロについては少し調べてみたんだ。アレってかなり特殊な音楽だよね」

「そうね。まぁ一応私みたいに音楽業界に居りゃ多少は知識あるけどね……。正直アレなんだよね。ウチのアーティストとは相性が悪いからさ」

 ニンヒアのアーティストとボーカロイド。それは考えるまでもなく相性最悪だと思う。ウチの会社はハードコアやらパンクのアーティストばかり抱えているのだ。もちろんボカロ曲にはそういった類いの音楽もあるにはあるけれど、それにしたって食い合わせは悪いと思う。

「一応、西浦さんの考えが分からなくはないよ? ほら、最近陽子の会社のアーティストって興業芳しくないみたいだしさ。ベタな言い方だけど流行を取り入れたいんじゃないかなぁ。てこ入れは大事だからね」

「うん。それは分かる。つーかそれが建前みたいなもんだからね」

 そう。京介の言うことがまさに西浦さんの言い分だった。

『時勢を読み、新しいニーズに対応すべく様々なクリエイターを取り入れて日本の音楽をリードしていく』

 そんなどうしようもないくらいの言い分。実に企業的だと思う。

「陽子的にはもっと違う意図があると思うの?」

「あると……。思う。それが何なのかはサッパリだけど」

「そうか……」

「うんとね。なんて言うかきな臭いんだよ。西浦さんってニンヒアでは敵も多いからさ。少なくとも企画部は西浦さんを敵視してる節があるしね」

「きな臭いねぇ……。まぁともかく気を付けなよ! 陽子だって今は責任ある立場なんだからさ。とばっちりで怪我するかもだしね」

 京介はそう言って心配そうに私の顔を見つめた――。


 家に帰ると予期せぬ来客が玄関前で待っていた。最初見たときはそれが誰か分からなかったけれど「よう!」という声を聞いてすぐにそれが誰か理解した。懐かしくて嫌な声だ。浦井惣介。私の元彼にして京介の実兄。

「どうしたのこんな時間に!?」

 京介は少し取り乱しながら言うと私を背中に隠した。

「悪い。お前らが帰ってくるの待ってたんだ」

 惣介は続けて「春川、お前に用事があってさ」と付け加える。

「な、何……?」

「ちょっとな。なぁ、気が進まないのは分かるけど中入れてくんねーかな?」

 惣介はそう言うと面倒くさそうに項を掻いた。

 ああ、この人は昔のままだ。私はその仕草を見てそう思った。


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