フユシオン30
その日の夜、私と京介は近所の定食屋に出掛けた。久しぶりの二人での外食。ロマンチックさの欠片もないけれど。
「とりあえず今日もお疲れ様」
京介はそう言ってから私のグラスにビールを注いでくれた。やはり京介は女子力が高いのだ。どう考えても立場が逆な気がするけれど。
「ありがとう。いやぁ、マジで今日は疲れたわ」
私はそのままビールを喉に流し込む。最高に美味い。オッサン連中が「このために生きてる」って言うのも分かる気がする。
「それで? 冬木さんとはどうだったの?」
「んーとね。今後はジュンくんと二人三脚でやってもらうつもりだよ。まぁ、冬木さんもジュンくんも子供じゃないから大丈夫でしょ」
そう。彼らは子供じゃないのだ。もしかしたら私なんかよりずっとしっかりとした展望を持っているかも知れない。
「なら良かったよ。じゃあこれでとりあえずは一段落かな?」
「そうね。作詞部門の方はこのまま進めれば問題ないと思う。どっちかって言うと……。作曲の方が心配かな」
「ああ……。たしか担当は京極さんだったもんね」
京介は何か察したように肯いた。まぁ京極さんのことをよく知っている京介なら当然の反応だと思う。
「うん。それもある。でもそれだけじゃないんだ」
「と言うと?」
「今回ばっかりは鍵山さんのが心配かなぁ……。なんて言うと私の面倒事センサーがそう言ってるんだよね」
面倒事センサー。私のトラブル予防探知の直感みたいなものだ。残念ながら的中率は九割強。本当に最悪だと思う。
「それは……。やっかいだね」
京介はそれだけ言うと「うーん」と唸った。
「まぁ、ただの直感だから外れるかもだけどね。鍵山さん自身はいい子だし、京極さんとだって相性は悪くないと思うんだ」
そこまで話して私はため息を吐いた。そう。これは問題因子がはっきりしない不安なのだ。私の経験上この手の不安が一番厄介ごとに繋がると思う。
「とりあえず警戒はしといた方がいいね。ほら、陽子の女の勘はかなり正確だからさ」
「そうね……」
そんな話をしているとテーブルに料理が運ばれてきた。麻婆丼とラーメンと餃子と春巻。ザ・中華って感じのメニュー。
「じゃあ食べようか」
「うん」
それから私たちは高カロリーな夕食を堪能した。センスの良いレストランもいいけれど、やはり私にはこんな感じの庶民的な料理の方が好きなのだ。幸か不幸かここ最近は多忙過ぎて痩せ気味だったし、ちょっとぐらい食べても問題はないだろう。
「そうそう! 今日からウチの部署に異動になった人がいるんだ」
「そうなんだ。企画部からの助っ人?」
「いんや。営業部から来た人。なんかボカロとか小説とかが得意なんだってさ」
「そっか。……たぶんその人も予期せぬ異動だったんだろうね」
京介はまるで見てきたみたいに言うと小皿に醤油を垂らした。




