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フユシオン23

 兄とそんな会話をしてから数日後。数少ない作家仲間から連絡があった。蕨モチ先生。文くら界隈屈指の熟練作家だ。

「紫苑さんこんばんは。そっちは変わらない?」

 蕨先生は親しげな口調で言うと「ふふん」と楽しげに笑った。

「こんばんはー。変わらないですよ。兄も元気してます」

「そう、それなら良かった。あー、そうそう! 『異世界奇譚』のアニメ見たよー。すごい人気ねぇ。私もあやかりたいわぁ」

「ありがとうございます。お陰様で好評頂いてるみたいです」

「アハハ、相変わらず礼儀正しいねぇ。あ、ちょっと待ってね」

 蕨先生はそう言うと電話の向こう側に居るであろう娘さんに「おかえり、カレーあるから温めて食べてー」と叫んだ。肝っ玉母さん。そんな昭和っぽい言葉が頭に浮かぶ。

「あ、ごめんごめん。えーと……。どこまで話したっけ?」

「アニメの話までです」

「ああ、そうだったね。……うん。今日はちょっと前もって話しときたいことがあってね」

 蕨先生はそう前置きすると本題を語り始めた。

「半井のべるさん知ってるでしょ?」

 蕨先生は同意を求めるように言うと一拍置いた。その一拍の間に私は「ええ、まあ」とだけ返す。

「うん、まぁ。文くらやってて彼女知らないユーザーはまず居ないんだけどね……。でね! 実は今日、彼女と一緒に温泉入ってきたんだ」

 一緒に温泉。その突飛な響きに思わず「えっ?」と声が出る。私のその反応に蕨先生は

「まぁ、アレよ。裸の付き合い」

 とあっけらかんと言った。思い返すとこの人はいつもフランクなのだ。おそらくそれは誰に対しても同じなのだろう。

「それでね! あの子、紫苑さんと会ってみたいらしいのよ。まぁ私はのべるんに『メッセージ送ってみな』としか言わなかったんだけどね」

「そう……。ですか」

 私は思わず言葉を失った。半井のべるが私に会いたがっている。そう言われても今ひとつ実感が湧かない。

「だからさぁ。もし紫苑さんが……。あとお兄さんもだけど。良ければあの子に会ってあげて欲しいんだ。きっとすごく喜ぶからさ」

 蕨先生はそこまで話すと「よろしくお願いします」と丁寧に付け加えた。

 蕨先生との通話を切ると急にふわふわした気持ちになった。足が地面に着いていないような。まるで地球の重力が月ぐらい軽くなったような。そんな感覚だ。別に悪い気分ではない。むしろこれは高揚感なのだと思う――。


 半井のべるからお誘いのメールが来たのはそれから数日後のことだ。


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