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フユシオン20

 文藝くらぶ内には人気のある作家が何人か居た。『転生してる場合じゃないのに魔族たちに囲まれた俺の受難』の作者の蕨モチ先生。『ヘブンズゲートからこんにちは』の岡田しずく先生。『学校帰りに魔王城』のハルミン☆先生。まぁ色々な作家さんが居る。みんなすごい作家さんたちだ。

 そんな作家さんたちの中でも特別敬愛しているのが半井先生だった。彼女の書く、『妖精達の平行世界戦争』は他の作品とは一線を引いている作品だと思う。

 彼女の持ち味は色々あるけれど、その最たるモノは伏線だと思う。伏線張りと回収。その両方に無駄がないのだ。極限まで無駄を省いたプロット。それは純文学とは対極の存在だと思う。

 だから彼女の作品は様々な媒体で考察と二次創作が行われていた。変な話、アマチュア作家でここまで反響のある作家はそうは居ないと思う。月並みな言い方をすれば彼女は天才なのだ。しかも噂だとまだ若いとか……。

 正直に言おう。私は彼女の才能に嫉妬していた。どうしても努力では賄えない壁のようなものを感じざるを得なかった。たぶんそれは尊敬と嫉妬……。なのだと思う。


「じゃあ流すよ」

 兄はそう言ってから妖パラの文章を自動読み上げで再生してくれた。電子的に作られた抑揚のない声がスピーカーから流れ始める。

 私はしばらくその感情を排した朗読に耳を傾けた。淡々と読み上げられるそれは段々に色彩を帯び、やがて世界を形作っていった。表現のひとつひとつが丁寧且つ明瞭で本当に分かりやすい。きっと彼女はとても親切な人なのだ。そうでなければここまで読者に寄り添った文章は書けないと思う。

 三〇〇〇文字程度の文章なのにそれは短編小説のような力強さがあった。その話だけ切り取って書籍にしても問題ない。そう感じるくらいしっかりしている。

「今日はここまでだね」

 兄はそう言うと読み上げソフトを落とした。私はソフトが落ちた後もしばらく作品の余韻に浸っていた。本当に素晴らしい作家だ。異世界転生の作品でここまで深く人物の心情を掘り下げるなんてある意味常軌を逸している。主人公の苦痛な叫びとそれを必死に庇う相棒。場面だけ見ればありふれているのに彼女の情景描写のお陰で実際の出来事のようにさえ感じる。

「やっぱり半井先生はすごいね」

「そうだね。噂じゃまだ中学生らしいよ? まったく……。末恐ろしい」

「ほんとだよねぇ。いったいどんな人なんだろう?」

 私は半井のべるについて想像してみた。中学生の女の子。文章から察するにきっと大人びた少女だろう。髪は黒髪のセミロング。背は少し高めで痩せ型。そんな勝手なイメージが脳内に浮かぶ。

「もし気になるならコンタクトとってみれば? ほら、文くら内ならメッセージ送れるしね」

「うーん……。いきなり話しかけて引かれたりしないかな」

「ハハハ、それぐらい大丈夫だよ」

 兄はそう言うとパソコンの前に座った。

「そうだね。まずは感想あたり書いてみたら? 僕らだって感想貰ったら嬉しいんだから失礼じゃないさ」

「うん! そうしてみよう!」

 それから私は必死に作品の感想を考えた。まぁ、最終的に仕上がったのはありふれた感想だったのけれど。 

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