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フユシオン16

 冬木紫苑の話


 『冬木紫苑』という作家としての名前は私が一六歳のときに兄が付けてくれたものだ。

 『紫村冬樹 紫村御苑』という二人の本名を組み合わせて『冬木紫苑』にしたらしい。よくよく考えると酷く安易なネーミングだと思う。

 これはストーリー構成とキャラクターメイキング担当の私と文章構成と校正校閲担当の兄。そんな二人のユニット名みたいなものだ。まぁ世間的には『冬木紫苑』は性別不詳の一人の作家として認知されていたようだけれど。

 思えば私たちが二人組だと知る人間は思いのほか少なかった気がする。私たちの実情を知っていたいのは両親と数人の作家仲間と担当編集者……。それぐらいだったはずだ。全員で一〇人前後……。そう考えると酷く交友関係の狭い作家だと思う。

 だからだろう。私は自分が作家としてどんな立ち位置なのかいまいち把握できていなかった。ただのプロの一作家。その程度の認識だ。別に作家としての自信がなかったわけではない。ただ、商業作家としての意識が著しくなかったのだと思う。

 そんな私が作家としてある程度自分のスタンスを確立できたのは兄のある提案からだった――。


「アニメ化の話きたよ」

 兄は興奮気味にそう言うと私の前に点字の資料を置いた。これは兄お手製の資料だ。

「すごいね」

 私はそんな月並みな感想を言いながらその点字を指でなぞった。タイトルの部分には『異世界奇譚アニメプロジェクト』と書かれている。

 要約するとその資料の内容は私の代表作をアニメ化したいというものだった。世界観をこう描くだとか、声優はこうするだとか、どれくらいのスパンで放送するかだとか、どこのアニメ制作会社が作るだとか。そんな内容だ。

 正直、私にはその内容がどれもピンとこなかった。制作会社の名前も聞いたことがないし、声優も誰一人知らなかった。我ながら酷く世間知らずだと思う。

「どうする? 受けるなら話進めるけど?」

「そうだね……。私はどっちでもいいよ」

 私は半ば投げやりにそう返した。別に嫌だったわけではない。ただただ他人事のようだったのだ。

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