フユシオン11
二子玉川駅に着くと最終打ち合わせのために駅前のカフェに入った。幸いなことに約束の時間まではまだ少し余裕がある。
「春川さんって本当に几帳面ですよね」
ジュンくんはコーヒーを飲みながら感心した風に言った。
「そうかなぁ? 私けっこうズボラよ?」
「いやいや、曲者揃いのうちの事務所の中ではじゃかなりマトモだと思いますよ? だってあの京極さんでさえ春川さんの前では大人しくなるんですから」
あの京極さんですら。なかなか酷い言い草だ。一応は自分たちのバンドの看板だろうに。
「アハハハ! 京極さんにそれ聞かれたらきっと怒られるよ?」
「でしょうね。いくらかは大人しくなったけどアレでなかなか血の気多いですからね」
血の気が多い。それは京極さんを象徴する言葉だと思う。私は知らないけれど一〇代の彼女はそうとうヤバかったらしい。京極さん曰く、盗みと殺人以外はある程度経験済みだとか……。
「しっかし、西浦さんも不思議なこと考えるよねぇ。普通に考えればジュンくんが作曲のサポだと思うんだけど?」
「ですよね。僕もそう思いました……。まぁ西浦さんが突飛なこと言うのは今に始まったことじゃないので」
ジュンくんは少し呆れたように言うと苦い笑顔を浮かべた。どうやら彼も『西浦有栖被害者の会』のメンバーらしい。
言い得て妙だけれど西浦さんはニンヒア最大の功労者であると同時に社員みんなの嫌われ者なのだ。会社の利益を最大化するための犠牲をいかに払うか、その判断に関して西浦有栖はあまりにも優秀すぎたのだと思う。
「はぁ、私もこれから先のこと考えると憂鬱だよ。将来はさぁ、企画一課長になりたかったのにさ」
「本当にお疲れ様です……。僕は企画部の春川さんも好きだったんですけどね。みんなのお姉さんみたいで」
「みんなのお姉さんね……。まぁアレはアレで疲れんのよ? 気がついたら私が企画部では新人教育係だしさぁ。しかもなぜか私がアーティスト連中の面倒まで見るんだよ? はぁ」
愚痴を吐き、ため息を零す。ジュンくんと一緒だといつもこうだ。なぜかジュンくんには京介以上に弱い面を見せてしまう。
「きっと春川さんは人を放って置けない性格なんでしょうね。つまり……。良い人なんですよ。根っからの」
ジュンくんは私を褒めるように言うと「損な性分ですね」と嫌味とも同情とも取れるような言葉を付け加えた――。
それから私たちは三〇分くらい打ち合わせしてカフェを出た。心なしか来たときより気持ちが軽く感じる。おそらく愚痴を吐き出したからだろう。
「ねぇジュンくん?」
「はい?」
「今日はありがとね」
私は彼に礼を言って彼の肩を軽く叩いた。ああ、私はいつも年下男子に甘えっぱなしだ。




