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フユシオン8

 透子さんとこうして会うのは一年ぶりだ。たしか前回もこうして私の家にやってきて、好き勝手言って帰っていった。この人はこういう人なのだ。自由奔放で猫みたいな人。少しだけ羨ましく思う。

 それでも私は透子さんに嫌悪感を持つことは無かった。いや、むしろかなり好感を持っていると思う。その感覚は京極裏月に対して私が抱いている感覚に近い。手の掛かる子ほど可愛いのだ。まぁ透子さんに限っては私よりずっと年上なのだけれど。

 ただ……。たまにあるのだ。浦井透子。彼女の恐ろしい面を見ることが――。

 

「あなたはどうなの?」

 ふいに透子さんにそう聞かれた。

「ふぇ?」

 私は急な質問に変な声を出してしまった。

「……京介とのことよ。あなたたち付き合ってもうけっこう経つでしょ?」

「ああ、まぁ……。そうですね」

 私は彼女のストレートな物言いに気圧されて言い淀んだ。京介との関係について彼の母親に話すのはかなり抵抗がある。

「別にタイミングじゃないなら良いのよ? でもね。あなたがもし京介との将来を本気で考えるならそろそろ時期だと思うの」

 透子さんはいつになく真剣な口調で言うとビールを一口飲んだ。

「私は……。京介さんとは結婚したいと思っています。確認はしてませんが彼もたぶんそう思っているでしょう。……ただ、まだ踏ん切りが付かないんです。別にタイミング見計らってるってわけでもないんです。なんとなく先延ばしになってて」

 私は最悪に歯切れ悪く言って下唇を噛んだ。私の反応に透子さんは「あ、そう」とだけ言うとそれ以上何も言わなかった。ネチネチした追求はない。でも今はそれが逆にきつかった。この人は分かっているのだ。相手を追い詰めるためにどう言葉を選び、どう黙ればいいかを。

 少しの間、私たちの間に沈黙が流れた。テレビから流れるバラエティ番組のポップなBGMだけが場違いに流れている。

「あの……」

 私は沈黙に堪えきれず口を開いた。

 その次の瞬間。

「ただいまー。あ、陽子帰ってたんだ」

 そう言って京介が帰ってきた。その声を聞いて急に身体の力が抜ける。

「おかえり」

 私より先に透子さんが京介に返事をした。私もワンテンポ遅れて「ただいま、おかえりなさい」と返事する。

「ごめんごめん。今から夕飯作るからね!」

 京介は買い物袋をキッチンに下ろすとそのまま椅子に掛けてあったエプロンを着けた。

「あ、京介」

 私は透子さんから逃げるように立ち上がる京介の側に駆け寄った。そして「今日は私も手伝うよ」と矢継ぎ早に言って自分のエプロンを食器棚の引き出しから取り出した。

「お、そうだね。ひさしぶりに一緒に作ろうか」

 京介はそう言ってから一瞬透子さんに視線を向けた。そしてすぐに私に視線を戻すと口の動きだけで『だいじょうぶ』と言った。音はない。私にだけ伝わる言葉。

 ああ、私は京介のこういうところが好きだ。気遣いなんて陳腐な言葉で片付けたくないくらいの。彼の持つこの最上の思いやりがたまらなく愛おしい。

 そんな京介の思いを知ってか知らずか透子さんは上機嫌に「京介の料理ひさびさねぇ」と言った。

 最高に白々しい。そんな言い方だ。  

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