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フユシオン7

 会社を出るとすぐに新宿駅に向かった。まだ日は沈みきってはいない。それは私にとって希有なことだった。高野部長の言うとおり日が沈む前に会社を出るのは非常識なのかも? そう思えるくらい日の入りが綺麗だ。

 新宿駅はいつも私が帰る時間よりずいぶんと混み合っていた。学生が多い。女子高校生たちはスマホ片手に何やら難しい顔をしている。恋人からの連絡に一喜一憂。その表情にはそんな色が浮かんでいる。

 改札を抜け中央線のホームに向かう。酷い人混みだ。私がもし地方民だったなら堪えられないと思う。そう考えると東京生まれ東京育ちで良かったと心底思う。上京して都内の企業に勤めたらきっとあっという間に嫌気が差してしまう……。そんな気がする。

 それから私は一日の疲れが充満した満員電車に揺られて帰路についた。スーツ姿の男性会社員たちは眉間に皺を寄せスマホをいじっていた。彼らはさっきの女子高生たちとは対照的に現実的な苦い顔をしている。スマホの普及で彼らの時間はガチガチに会社に拘束されているのだろう。苦い顔をしたい気持ちは十二分に分かる。私だって帰宅中に上司からLINEが入ったら眉間に皺が寄るはずだ。

 車窓から差し込む西日が眩しい。オレンジ色だった夕日は夕闇に溶け、次第に夜が空を覆い尽くしていた。トワイライトタイム。私が思うにこの時間帯が一日で一番幻想的で最も不気味な時間だと思う。

 そんなことを思っていると電車は私の最寄り駅に停車した。今日もお疲れ様。私は心の中で自分にそんな労いの言葉を掛けた――。


 自宅に帰るとそこには予期せぬ訪問者がいた。浦井透子。京介の母親だ。

「おかえりー。陽子ちゃんひさしぶりー。お邪魔してるよー」

 透子さんはだらしない格好でそう言うと缶ビールの中身を喉に流し込んだ。その様子に一瞬ここが本当に自宅か疑いたくなる。それくらい彼女はだらしかったのだ。くつろぎ方が来客のそれではない。

「お久しぶりです……。どうも」

 私は戸惑い半分、呆れ半分の気持ちでそう応えると京介の姿を探して部屋を見渡した。

「ああ、京介なら買い出し行ってるよー」

「そ、そうですか」

 透子さんはまるで家主みたいに言うと「まぁ、とりあえず着替えてきたら?」とさらに家主みたいなことを言った。あまりに非常識すぎて言い返す気力も起きない。

 それから私はスーツを脱いで少しだけ小綺麗な普段着に着替えた。一応は彼氏の母親だ。相手が非常識だからって私までそれに合わせるわけにもいかないだろう。

「今日はどうしたんですか?」

 私は彼女の前の席に着くと単刀直入に話を切り出した。

「ん? ああ、そうよね。ごめんなさい」

 透子さんはまるで今までの非礼全てを詫びるみたいに言って私と向き合った。真っ直ぐな視線。そして惣介に似た整った顔。こうしてみるとやはり透子さんはかなり若作りだと思う。目の周りの小じわも少ないし、ほうれい線に至っては見えないくらいだ。とても五〇手前の女性とは思えない。

「あのね。京介が帰ってきたら詳しい話はするけど……。そうね。端的に言うわ」

「はぁ……」

 透子さんはそこで話を一旦区切ると戸惑った顔を浮かべた。そして「うん」と自分に言い聞かせるように頷く。

「この歳で恥ずかしいんだけど、好きな人できたのよ。それでね。年末に籍入れようと思うの」

 透子さんはそこまで話すと「ハハハ、この歳で再婚とか笑っちゃうでしょ?」と照れ隠しのように付け加えた。

 正直に言おう。そうなるであろうことは京介からそれとなく聞いていた。だからあまり驚きはなかった。透子さんならあり得る……。逆に再婚しないほうがおかしいまであると思う。

 ああ、また先を越された。私はそんなわけの分からない気持ちになった。義母が先に結婚するとか言葉にすると意味不明だ。

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