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フユシオン6

 午後六時半。西浦さんがクリエイター開発部に戻ってきた。

「お疲れ様。仕事の調子はどう?」

 彼女は机の上のファイルを漁りながらそう言った。

「お疲れ様です。えーと……。とりあえず急ぎの仕事は片付きました」

「そう、なら今日はもう帰りなさい。明日は一日がかりになるんだから休めるときは休むのよ!」

 西浦さんはそう言うと「サボるのも仕事の内」と」付け加える。鬼軍曹の言葉とは思えない。何か裏があるのか? と彼女の善意を疑いたくなる。

 西浦さんはそのまま慌ただしく会議に戻っていった。やれやれ、とりあえず今日は帰るとしよう。

 帰り支度をパパッと済ませてクリエイター開発部を出た。心なしか足取りが軽い。京介との早めの夕飯。そんなささやかな幸せが数時間後には実現すると思うと自然と気分が高揚した。我ながら安い上がりな女だと思う。

 帰りがけに企画部を覗くと彼らは慌ただしく動き回っていた。あの要領の良いあかりさえ必死に社内誌の入稿原稿を作り込んでいる。当然だろう。ついこの前までアレは私の仕事だったのだ。急に仕事が増えるのは自明の理だと思う。

「春川!」

 企画部の前で彼らの様子を眺めていると後ろから声を掛けられた。明らかに不機嫌な声。そして私が今一番聞きたくない人物の声だ。

「高野部長。お疲れ様です」

「お疲れ! なんだ? 今日はもう帰るのか?」

 高野部長はそう言うと私の書類の入ったバッグに目を遣った。

「はい。今日はこれで失礼します」

 私は愛想笑いして会釈した。早く帰りたい。この人に絡まれると面倒くさいことになる。

「そうか……。いいなぁ。新部署の部長代理殿は!」

 高野部長は明らかな嫌味を言うと「なぁ?」と嫌味のダメ押しをした。本当に勘弁して貰いたい。

「あ、あの……」

 私は思わず言い淀んだ。言い返すこともできるけれど、ここでそれをするのは果たして正解なのだろうか?

 私がそんな不毛な自問自答をしていると企画部のドアが開いた。そして課長が顔を覗かせる。

「高野部長。新栄堂の高橋さんからお電話入ってます。見積もりで問い合わせしたいことがあるとかで」

 課長は落ち着いた調子で言うと企画部の部長のデスクに目を遣った。

「ああ、分かった」

 高野部長は私を睨んだまま返事をした。そして「お前、少しは考えろよな」と捨て台詞を吐くと小走りで企画部に入った。

 部長が言ってしまうと企画部の前で課長と二人きりになった。少し気まずい。

「春川」

 私が黙っていると課長に優しく名前を呼ばれた。その声には父親っぽい響きがあった。

「はい……」

「いや、なんだ……。あんま気にすんなよ。部長はああいう人だからさ。確かにお前が抜けて大変は大変だよ? でもそれはお前が頑張ってくれてた証拠だと思う」

「はい」

 私は課長の言葉に返事しかできなかった。課長は続ける。

「マジで頑張れ! 少なくとも企画一課は全員お前の味方だからな」

 課長はそう言うと私の肩をポンと叩いた。

「はい……。ありがとうございます。頑張ります」

 私はそれだけ返事をすると頭を下げた――。  

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