フユシオン4
翌日出社すると私のデスクの上が綺麗に片付いていた。企画部の書類が綺麗さっぱり無くなっている。どうやら西浦さんが目的を達成したようだ。そう思うと改めて彼女のことが恐ろしくなった。味方に居れば最高に頼もしいけれどその逆は……。と思う。
「おはよう」
私が呆然と自身のデスクを眺めていると西浦さんが出社してきた。
「おはようございます。あの、ここにあった書類は?」
「ああ、それは高野くんに頼んで引き上げて貰ったわ。ちょっとごねてたけど大丈夫よ」
西浦さんはあっけらかんと言うと自身のデスクにハンドバッグをを置いた。そして当たり前のようにタバコを口に加える。
「……春川さん、覚えておきなさい。仕事は選択と集中よ。やるべきこととやっちゃいけないこと。それを把握してやるべきことに注力する。それが大事」
「はい」
「まぁ……。あなたは優しいからね。その気持ちは大切にして欲しいけど。でもね! その優しさは諸刃の剣だと思うの。それはあなたを利用しようとする誰かにとっては付け入る隙になるからね」
西浦さんの言葉には優しいながらも力強い響きがあった。イタいとこを突かれたな。そんな気持ちになる。
「肝に銘じておきます」
「そうしなさい。……じゃあ今日は高木くんと一緒に行ってちょうだい」
西浦さんはそう言うと今度は人なつっこい笑みを浮かべた――。
高木ジュンの話をしよう。彼は京極さんと同じバンドのリーダーでベースを担当していた。非常に整った顔をした長髪の男性で俗っぽい言い方をすればかなりのイケメン。そんな男だ。
年齢は私の二つ下。だから私は彼とは割と話が合った。まぁ彼は見た目の爽やかさとは裏腹にかなりの腹黒なのだけれど。
京極さんは彼のことを『良い人ぶった悪人』だと表していた。身内とはいえ酷い言いようだ。でも同時に的を射ているとも思う……。
「ジュンくんお疲れ様!」
「お疲れ様です。この間は遠くまで大変でしたね」
待ち合わせ先のスターバックスで私たちは落ち合った。ジュンくんはえんじ色のニット帽にクリーム色のチノパン、黒いカシミアのセーターという小綺麗な格好をしていた。着ている物一つ一つは地味なのに彼が着ると急に高級そうに見える。
「本当だよー。京極さんにも面倒掛けたね」
「ハハハ、まぁ京極さんは大丈夫ですよ。『初めて高速走っちゃった』ってはしゃいでましたもん」
それを聞いて私は『おいおい、初めてだったんかい』と心の中でツッコミを入れる。
「でも運転気を付けて貰わなきゃねー。事故ったら大変だからね」
「ですねー。彼女アレでなかなかおっちょこちょいですから……」
ジュンくんはそう言うとドリップコーヒーを一口含む。
「ねぇー。まったくあの子は……」
「……なんか春川さん。京極さんのお姉さんみたいですね」
私の言い回しが面白かったのかジュンくんはそんなことを言った。
「うーん。そうね。そうかもしんない。だってあの子危なっかしいのよ! ちょっと目を離すとどっか行っちゃうしさぁ」
思わずため息が零れる。京極さんは本当に手間の掛かる子なのだ。まぁ、それが可愛く感じたりもするのだけれど。
「じゃあ……。今日の予定確認しちゃいましょう」
ジュンくんはそう言ってスケジュール帳を取り出した。




