フユシオン2
その日はひたすら事務作業に追われた。クリエイター開発部の仕事だけではない。あかりから回された仕事と前部署からの大量の引き継ぎ業務。その三つの仕事が一気にのし掛かってきた。本当に勘弁して欲しい。こう見えても私はけっこう多忙なのだ。
てんてこ舞いになりながら西浦さんのデスクに目を遣ると彼女も忙しなく書類に目を通していた。半分引退したような身分なのに彼女も多忙なようだ。きっと全盛期の彼女の忙しさはこんなものではなかったのだろうけれど。
仕事に優先順位をつけて順番に片付けていく。前部署からの問い合わせ、あかりの仕事、最後に私自身の仕事の順番に手をつける。まったく本末転倒だ。これじゃ単に普段の仕事にクリエイター開発部の仕事が乗っかっただけじゃないか。そんな愚痴っぽい考えが浮かんだ。
だから思う。これは栄転なんかじゃない。実質左遷だ――。
「ずいぶんと仕事多いわね」
私がパソコンに齧り付いていると西浦さんに声を掛けられた。
「ええ、まぁ」
「これは企画部に話しておかなきゃね……。今は良いけどこのままじゃ春川さんの仕事が追いつかなくなるわ」
西浦さんはそう言うとすぐに企画部に内線を繋いだ。
「……。あ、もしもし? 西浦です。……ええ。アハハ、そんなに畏まらないでいいわよ。高野部長、今忙しいかしら?」
西浦さんは電話口にそう言うと一瞬、私に目配せした。そこには『私に任せときなさい』という言葉が込められているように見える。
「ああ、高野くん? 西浦です。ごめんねー忙しいのに。いえいえ、私は大丈夫よ。……うん、うん。そうよねぇ」
私はそんな西浦さんと高野部長のやりとりを聞きながら作業を続けた。サボっている時間はないのだ。今日中にこれを終わらせないとまた京介の料理が冷めて冷蔵庫行きになってしまう。
「……あのね。高野くん。これは社を挙げた一大プロジェクトなの! 分かる? そりゃあポスター作りとか広報活動は大事よ? でもね……」
どうやら西浦さんは高野部長と論戦しているらしい。当然だろう。高野部長だってニンヒア歴はかなり長いベテラン企画部長なのだ。そう簡単に西浦さんに丸め込まれたりしないと思う。
自分で言うのもおこがましいけれど私は企画部の社員としてはそれなりに仕事ができたほうだ。それはよく言えば戦力として当てにされていたのだと思う。優秀というわけではない。単には要領が良かったのだろう。企画部を離れてみて逆にそれを実感できた気がする。
会社の戦力と見なされるのは素直に嬉しい。これは本心だ。でも……。こうして配置転換されるとそれが返って足かせになった。二足のわらじ。いや、二足の鉄下駄は重すぎる。
「あーそう……。高野くんの言いたいことはよく分かったわ。そんなに言うなら私にも考えがあるからね。覚悟しときなさい」
西浦さんは強めな口調で言うと不機嫌そうに受話器を戻した。
「あの……。西浦さん。私は大丈夫ですから」
「ああ、大丈夫よ。いつものことだから。まったく! あの子は昔っから跳ね返りが強いのよね。……まぁ、私がそう教育したんだけどね」
西浦さんはそんな憎まれ口を叩くと茶目っ気のある笑みを浮かべた――。




