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フユシオン1

 企画の肝である二人のクリエイターとの面談を終えた私は西浦さんにそのことを報告した。彼女は「最初はそんな感じよね」と淡泊な反応だったけれど手応えとしては悪くないと思う。西浦さんの性格を考えると変に褒められる方が怖いのだ。それは社内での彼女の評判から察することが出来る。

「すいません。すっかり部屋片付けていただいちゃって……」

「いいのよ。これでも私掃除好きなのよ」

 西浦さんはそう言うと嬉しそうに窓のサッシを指でなぞった。『埃一つないでしょ?』と言わんばかりだ。

「えーと。それでこれからどうしましょうか?」

 私はそんな新入社員みたいに馬鹿げたことを西浦さんに尋ねた。我ながら情けない。ついこの前まで入社一〇年目の主任だったのに。

「ああ、そうね……。じゃあ、先にこれをお願いしようかしら?」

 西浦さんはそう言って自分のデスクの引き出しからクリアファイルを取り出した。

「これこれ! 春川さん、あなた確か『バービナ』の高木くんとも仲良かったわよね?」

「高木くんですか? ええ、まぁ……。普通に話すぐらいには」

「あのね。実は今回の企画は京極さんと高木くんに手伝って貰おうと思ってるのよ」

 西浦さんはそう言うとクリアファイルから二枚の書類を取り出した。書類、書類、書類。最近は決済以外の書類ばかり見ている気がする。

「でね! 具体的には作曲のフォローは京極さんに。作詞のフォローは高木くんにお願いしようと思うのよ」

 西浦さんは鼻息荒く言いながら京極さんと高木くんの写真の貼られた企画書を指差した。企画書には今後のスケジュールと簡単な達成目標が書かれている。

「失礼します……」

 私はその書類を手に取ると上から下までじっくりと目を通した。要領この前のクリエイター二人と同じだ。まぁ今回は二人とも顔なじみなのでずっと気楽だけれど。

「タバコいい?」

「どうぞ……」

 私が書類を見ていると西浦さんが流れるようにタバコを吸い始めた。これでこの部屋も喫煙可。西浦さん御用達の部屋はみんなこうなってしまう。

「あの……。ひとつ確認なんですが」

「なぁに?」

「京極さんが作詞担当、高木くんが作曲担当じゃなくていいんですか?」

 私は西浦さんにこの話を振られた瞬間に思ったことを彼女に尋ねた。というよりもこれを聞かないと話にならないと思う。『バービナ』では京極さんがほぼ全ての楽曲の作詞をしているし、作曲の大半は高木くんの担当だったはずだ。つまり明らかに担当が逆なのだ。これはどう考えてもおかしいと思う。

「ああ、それでいいのよ」

 西浦さんはさも当たり前のように言うと濃い煙を吐き出した。セブンスターの匂いが部屋中に充満する。

「あのね。今回の企画を期に『バービナ』の体制も一新したいの。別にメンバー編成を変えたりはしないわ。ただ、少しだけ色を変えてみたくてね……。ま、その手始めに互いの担当を交換するわけよ」

「そういうことですね……。了解しました」

 正直、腑に落ちない。内心そう思った。もちろん表情には出さないけれど。

「というわけでまずは……。紫苑さんのほうからお願いね。高木くんには明日の午後開けとくように連絡しとくから」

 西浦さんはそう言ってすぐに高木くんに電話を掛けた。ああ、また面倒ごとに巻き込まれる予感がする。


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