スプートニク・ショック28
京介の運転は免許取り立てとは思えないくらい上手かった。緊張はしているようだけれど、それは運転への不安からではないと思う。
東北道から日光道を乗り換えて車は日光方面に向かう。人生初の日光旅行。まさか元彼の弟と一緒に来ることになるとは夢にも思わなかったけれど。
「あと三〇分くらいで高速降ります」
京介は少し緊張した口調そう言うと「ふぅー」とため息を吐いた。
「やっぱりけっこう遠いよねぇ」
「まぁ山ん中ですからねぇ」
「お猿さんいるかなぁ?」
「いるかも知れないですね」
そんな軽口を叩きながら車は着実に目的地に進んでいった。戦場ヶ原。私たちにとって大切になるかも知れない場所へ――。
京介とのドライブはとても心地が良かった。これといって特別なことはないけれど逆にそれが良かった。他の男ならもっとカッコつけたがるはずなのだ。でも京介はそうしなかった。魅力的な毒が無い。あるのは乾きを潤す水のみ。そんな風に感じる。
きっと今の私は乾いているのだ。だから退廃的で刺激的な毒よりも単なる水が欲しいのだと思う。そう考えると酷く感傷的な気持ちになった。過去の毒にどっぷり浸かっていた私が居なくなってしまった。あの頃の私は死に絶えてしまった。それはとても悲しいことのように思えた。
普通に考えれば悪習から普通に戻れたのだから良いことずくめなのだろう。身体は健康になったし、心だって健全さを取り戻したはずだ。……でも、私はその普通で健全な状態に居心地の悪さを覚えずには居られなかった。本来、私が居るべき場所はもっと汚れているところ。もっともっとどす黒い場所……。そんな風に思った。
私のそんな気持ちとは裏腹に京介は真っ直ぐにヘッドライトが照らす先を見つめていた。あまりにも純粋であまりにも世間知らず。そんな眼をしていた。




