スプートニク・ショック27
次第にタイヤの音にエンジン音が混じる。そしてその音は私のアパートの前で止まった。どうやら京介が到着したらしい。それは停車中のアイドリング音から察する事ができた。
私はベッドから身を起こすとすぐに玄関に向かった。そしてハンドバッグ片手にコンバースのキャンパススニーカーに足をねじ込む。
外に出るとすぐに京介の車が目に入った。真っ白なワーゲンビードル。惣介の嫌いそうな形の車だ。
「お待たせしました」
京介はそう言うとはにかんだように笑った。そこにはまだ幾らかの幼さあった。考えてみれば彼はまだ一〇代なのだ。ついこの前まで高校生だった……。そんな当たり前のことを今更実感する。
「大丈夫! てか時間ぴったりだね」
私は大げさに左手の時計を彼に見せた。約束の時間より二分ほど早い。どうやら京介には遅刻癖はないらしい。
「なら良かったです。……じゃあ、行きましょうか」
「うん! よろしくお願いします」
さぁ、いよいよドライブデートの開始だ――。
「実はこの車に人乗せるの初めてなんです……」
私が助手席に座ると京介が申し訳なさそうに言った。
「マジ!? なんか私なんかが初で申し訳ないね……」
「いえいえ。むしろ春川さんが最初で良かったです」
京介はそう言いながらサイドブレーキを下ろす。そしてシフトレバーを一速に入れた。どうやらこの車はマニュアル車らしい。
それから私たちは実に実にならない会話をした。一問一答。お見合いみたいな会話だ。
「たぶん二時間ちょいで着くと思います」
「うん」
「トイレ行きたくなったら言って下さいね」
「あいよー」
「眠くなったら寝ちゃって大丈夫です! 運転ミスったりしないので」
「ハハハ、大丈夫だよ。眠くないから」
そんな何の意味も無い会話が続く。そこには変な緊張感があった。図書館で話すような気軽さは消え、代わりに真剣な空気が漂っている。それはまるで新春隠し芸のテーブルクロス引きのような緊張感だ。
でも私はその緊張感が嫌いではなかった。恋の果実が熟れて落ちる前の微妙な時間。それは付き合ってしまったらもう感じることができないものなのだ。だから思う。この気持ち悪い時間が恋愛最大の醍醐味なのだと。
お見合いみたいなドライブを小一時間すると車は東北道に入った。ここから一気に宇都宮まで行く。
「次のサービスエリアで休憩しましょう」
「だねー」
京介はそう言うと額の汗を拭った。




