スプートニク・ショック26
金曜日の夕方。私は講義を終えるとすぐに自宅に戻った。そして昨日準備しておいたオレンジのワンピースに着替えた。手前味噌だけれど私はこの手の明るめの色が似合うのだ。逆にダークトーンな服はあまり似合わない。おそらくそれは私の普通な顔と中肉中背の体型のせいだと思う。
私は良くも悪くも年相応な顔をしていた。老け顔でもないし童顔でもない。そんなありふれた十人並みの顔だ。見ようによっては美人……。に見えることもあるらしい。要は平凡な顔なのだ。
だからというわけではないけれど、私は中学くらいからそれなりにモテてた。おそらく『春川陽子なら見た目もそこまで悪くないし、告れば付く合ってくれそうじゃね?』と思われていたのだと思う。酷い話だ。つまり落としやすいから告白するってだけだと思う。まぁ当時はそれを本気でモテると勘違いしていたわけだけれど……。
そんなこんなで私は一〇代をそんな感じで過ごした。そして告白されるたび品定めするように相手をよく見て「一晩考えさせて」などと嘯いた。ちなみに夜は相手のことなど考えることなくすぐ熟睡した。当然のように告白された相手の顔が夢に出てくることもない。そして翌日「気持ちは嬉しいけどごめんなさい」と伝える。そんな感じだった。
数えてみると惣介と付き合うまで一五人の男に言い寄られた。そして私はそのうちの二人の男と付き合った。一人目は中学三年のときに。もう一人は高校二年生のときだ。まぁ、付き合ったと言ってもお遊びだったと思う。気の迷いからの好きだと勘違いする。思春期特有のイタいやつだ。
ともかく私は中高生時代はそんな感じで男には不自由しなかった。不自由しなかっただけで得したかどうかは甚だ疑問だけれど――。
京介が迎えに来るまでの間、私はベッドに身を投げ天井を眺めてボーッとしていた。真っ白な天井にプラスチック製の照明器具。見慣れた天井をただただ眺める。たまにこうしたくなるときがある。ひとりぼっちの時間がないと私は死んでしまうのだ。思えば惣介と付き合っていた頃はこうできる時間はあまりなかったような気がする。
「またひとりぼっちが終わるなぁ」
私はそんなことを呟いた。独り言だ。再び二人に戻る。そんな予感がする。
きっと私は一人の時間がないと死んでしまうけれど独りじゃ生きていけないのだ。孤独は私をゆっくりと殺すし、人付き合いの煩わしさは私を蠱毒のように殺すだろう。
瞳を閉じる。視覚情報をシャットダウンすると一気に他の感覚が鋭敏になった。ココナツの芳香剤の匂い。肌を撫でる湿っぽい空気。そして遠くからタイヤとアスファルトが擦れる音が聞こえた。




