スプートニク・ショック23
その日から京介は毎日のように図書館にやってきた。彼は分厚いテキストとキャンパスノート、あとはサーモスの水筒をお供に勉強していた。美里から聞いた話だと私のアルバイトが休みの日にも来ているらしい。そして毎日決まった時間に来て決まった時間に図書館から出て行く。推し量ったように。グリニッジ標準時並の正確さで。
今思えば確かに彼はそういうタイプの人間だ。真面目で一生懸命。そして優等生。真っ白な優秀さを持つ青年。まぁ、単なる真面目を通り越して愚直すぎる気もするけれど。
でも結果的には彼の持つその愚直さが今の私をここに導いたのだと思う。そう考えると愚かさも悪くない気がした。普通は愚か故に人を傷つけるものだ。でも今回の件は結果だけ見れば前進していると思う。
私のそんな思いとは裏腹に京介は毎日来ては普通に私に話しかけてきた。私も最初のうちはツンケンした態度を取っていたけれど次第に普通に話すようになった。慣れと時間が解決してくれる。そのときほどそれを痛感したことはない。
日に日に京介が図書館に居るのが当たり前になった。彼の座る席はいつも同じで、私が返却で回るときは彼の席の横を毎回通った。そして仕事の合間には軽い世間話もした。友達がどうだとか、最近駅前に出来たファストフードが美味しかっただとか、そんな毒にも薬にもならないような話だ。
ただし、私たちは惣介については何も話さなかった。同じ学内にいて動向が分かるのに互いに彼の名前を出さなかった。いや、正確には出せなかったのだと思う。
最初のうちは単に惣介のことを話すのが嫌だっただけだ。少なくとも私はそうだったし、京介もそう思っていたと思う。(ちなみに数年後にこの話を京介にしたらそのこと自体覚えていなかった)
でも……。最終的には惣介の名前を出さない理由も別のものに置き換わっていった気がする。それは酷く打算的で同時に祝福的だった。私たちにとって元々の繋がりである惣介の話をしない。その暗黙の了解自体が意味を持つようになったのだ。




