スプートニク・ショック18
惣介が黙っている間。私は彼の顔を絵画鑑賞でもするように眺めていた。そして『ああ、この人って案外イケメンだったんだなぁ』とか『やっぱり口元が透子さんに似てるな』だとか……。そんなことを思った。分かってはいたけれど惣介は整った顔をしているのだ。化粧したら私なんかよりずっと美人に見えると思う。
学食内は閑散としていた。私たちを含めて学生は三組しか居ない。厨房の方からはデッキブラシで床を擦る音とホースで水を撒く音が聞こえる。おそらくは締めの作業に入ったのだろう。時刻は三時半。学食だって店じまいする時間だ。
学食が営業終了間近だというのに惣介は相変わらず押し黙っていた。さらにロダンの考える人みたいに固まっている。もし現代彫刻コンクールがあるとしたら『嘆きの男』とかいう題名で出展されるかも知れない。そんな馬鹿げたことを思った。
惣介の様子とは裏腹に遠くの席の学生たちの会話ははっきりと聞こえた。女子学生のガールズトーク。彼氏の愚痴という名の惚気。実に女子っぽい会話内容だ。当事者間でなければ誰も笑ったりしない……。これはその手の話だと思う。
「このままずっと黙ってるつもり?」
「……」
「言いたいことあるなら言えば? 今更怒ったりしないって……。それよりも今後どうするか決めときたいんだ」
「……分かったよ」
惣介はそう言うと諦めたように顔を上げた。
「まず……。この前は悪かったよ。ウチの家族のゴタゴタにお前を巻き込んじまって」
「うん」
「春川も知ってるだろうけどウチの家族はすげー拗れてるんだ。お袋はあんなだし、父親もああだろ? まともなのは京介だけ……。そんな家族だからさ」
「うん」
自分がまともじゃない自覚はあるのか……。と内心思った。もちろんツッコまずスルーする。
「アイツは……。京介は昔からああいう奴でさ。やたらと家族をまとめたがるんだ。仲良し家族ごっこが好きで好きでたまらないって感じなんだよ」
惣介はそこまで話すと深いため息を吐いた。心底うんざり。そう思っているであろうことが手に取るように分かる。
「惣介ってそういうの嫌いだもんね?」
「ああ。本当にな。別にそう思ってる奴は勝手だと思うけど……。でもそれが身内に居ると本当に嫌気が差すよ。なんつーかさ……。京介は朝ドラの主人公みたいな奴なんだよ。みんなが仲良く思いやりがあれば良いと思ってやがる。正直反吐が出る」
惣介はまくし立てるように弟の愚痴を吐き出すと小馬鹿にするように肩を竦めて見せた。汚い言葉とは裏腹に顔は笑っている。
「じゃあ……。やっぱりこの前は京介くんの『仲良し家族ごっこ』に嫌気が差して帰ったってこと?」
「うーん……。まぁそうだな。あとは……。京介があの『仲良し家族ごっこ』にお前を入れようとしたからかな。たぶん京介はお前とも仲良くしたいんだと思うぞ? もちろんオンナとしてではないだろうけど」
惣介はそこまで話すと紙コップの中に入ったコーヒーを煽るように飲み干す。
「とにかく! この前の食事会で俺ら家族はすっかりバラバラになっちまった。なんだろうな……。ギリギリで保ってた家族っぽい何かが完全に壊れちまった感じ……。なんだと思う」
「そっか……」
気がつくと学食には私たち以外誰も居なくなっていた。まるで『仲良し家族ごっこ』から逃げ出したみたいに。




